第5話 まさかの展開
時が流れるのは早いもので、今日は卒園式。
え、早すぎる?
愛浬の(僕の家に)初めてのお泊りとかあったけど、それを語るのはまたあとで。
何ごともなく卒園式も終わり謝恩会へと移り、和やかな雰囲気の中、食事や余興も終了し、最後にお世話になった先生方に花束を贈呈して挨拶へ。
慣れ親しんだ幼稚園を卒園して、小学生になる僕達。たった1年だけだけど、馴染んで先生達とも仲良くなった愛浬は涙を浮かべている姿も可愛らしい。
カメラマン、カメラマンを呼んでくれ! お、あそこで今日の為に執事服を着ている佐々木さんが激写しているので、あとで分けて貰おう。
そんな僕は、今日初めて愛浬のお父さんお母さんに出会った。
愛浬とは幼稚園か、僕の家でしか遊ばないので会うことがなかった。
大好きな人の保護者というだけで、初めはすごく緊張したね!
「愛浬は君と同じ学校へ通うことになるけれど、これからも仲良くしてあげて欲しい」
「凪沙ちゃんは、愛浬から話は聞いていたけど本当に良い子ね。是非とも、愛浬をよろしくね」
ギャルゲーの通りに愛浬は、小学校からずっと僕と同じ所に通うことになっているようだ。どうやら愛浬が元から行く予定であった小中高一貫のお嬢様学校へ入学することを嫌がり、僕と一緒の学校へ行きたいと言ったようだ。
それを聞いた時は、分かっていても嬉しさのあまり抱きついたのは記憶に新しい。
「はっはい! こちらこそ、末永くよろしくお願いします!!!」
「ハハハ、こちらこそ
「はぅ…………」
緊張のあまり、変な事を言ってしまった。なんだよ末永くって、結納か何かか!
結納品は何がいいですか?
「もう、アナタったら。あまり凪沙ちゃんをいじめては駄目ですよ」
「すまないすまない。余りにも可愛かったもので、ついね」
どうやら、愛浬のお父さん、
でも良かった。
少し離れたところでは、先生方に囲まれている愛浬の姿。
その可愛らしい容姿と性格の良さから、大変可愛がられていたので僕としても鼻高々だ。流石僕の嫁!
「愛浬が前よりも楽しそうに毎日を送れているのは凪沙ちゃん、貴女のお陰よ。本当にありがとうね」
遠目から愛浬を眺めている僕に、同じく近くで見つめている愛浬のお母さんである
「そんな。ボクも愛浬と一緒に居ると楽しいので、お互い様です」
「だって愛浬は『僕の嫁』なんだよね」
「あうっ!」
なんで
「フフフ。その日の内に愛浬が嬉しそうに話してくれたわ。私に『流石僕の嫁』と言って来た面白い女の子と友達になったって」
「はうぅ!」
珠江さんまで……だと。なんてこったい、やっぱり密告者は僕の嫁だったか!
でも許す! なんてったって、可愛い僕の嫁だからね!!!
だけど恥ずかしくなった僕の顔は熱くなってしまった。あーーー早く愛浬が帰ってこないかなぁ……。(涙目
そんな僕の願いが通じたのか、先生達と別れを惜しみながらコチラに向かって来る愛浬。愛浬よりも先生の方が惜しんでいる様子に、苦笑いが漏れる。
こちらに向かう最中も周りから声を掛けられる姿に、この1年で何れ程愛浬が周囲に馴染んだのかを認識させられる。メインヒロインは伊達ではない。
「流石あいり。人気者だなぁ」
嬉しいけど、ちょっと寂しい気分。当たり前だけど、
「愛浬がこんなにも周りと仲良くなれたのは、君のおかげだよ」
僕の呟きが聞こえていたようで、総司さんから驚きな一言。
「そんな、ボクは何もしてないですよ」
「いやいや、君がいつも愛浬と一緒に居てくれるから自然と人が集まって来るし、周りと愛浬の間を取り持ってくれるから彼女も上手くやっていけたんだよ」
そんな馬鹿な。僕はただ彼女の周りで騒いでいただけなので、そんなつもりも、そんな記憶もない。全ては彼女自身の力だと思う。
「君はそのままで良いんだよ」
不思議そうにしていたら、そんな事を言われてしまった。
僕達が話している間も、引切り無しに話しかけられる愛浬。今度は
ん? 見知らぬ人?
ここは、とあるお店の会場を借りて行われているの。恰好からしてお店の人っぽい服装で違和感はないが、この中に混ざって来て愛浬に話掛けているのは明らかにおかしい。
総司さんと珠江さんの様子を伺ってみると、丁度2人で話し合っているようで愛浬から意識が逸れている。
“これはまずい!”
なぜだろう、すごい胸騒ぎがする。
ギャルゲーの愛浬ルートでは、あまり彼女の過去に関する話に多くは触れられていない。だから、僕と愛浬が出会う時期も分からなかった。
もしかしたら、裏設定のイベントなのかもしれない。
ギャルゲーなどのゲームのイベントとは、シナリオで用意された
まさに神が用意した運命。
そこで、フッと愛浬のプロフィールが頭によぎった。彼女の紹介文にはこうのような一文が記載されていた『少し男性が苦手なところがある』と。
男が苦手になるイベント、不審な男。
もしかして、これが原因なのでは?
理由は分からない。でも、僕の胸の奥がすごく騒めく。
不信な顔をしながらも男性に付いていこうとする愛浬。
これって、もしかして誘拐では?
そう思った時には既に走り出してた。
「あ、凪沙ちゃん!?」
急に走り出した僕に驚く珠江さん。それでも僕は足を止めずに、人ごみをぬっていくように避けて行く。
ようやく愛浬に追いついた時には、
ますます怪しい。
「ん? あれ、どうしたのなぎさ」
さらに進もうとする愛浬を引き止めるべく、彼女の手を掴む。
これ以上みんなから離れると危ない。
「あいり、どこに行くの?」
「せんせいが向こうでわたしを呼んでいるって、この店員さんが教えてくれたから付いていこうと思って」
怪しい。どう考えても怪しすぎる。
だって、こんなところに呼び出す必要性なんてないのだから。
「あいり、どう考えたっておかしいよ。先生達はあそこに居るんだから。一体先生の誰があいりを呼んでいるんですか?」
僕はそう言って、愛浬を呼びに来た店員さんに問いかける。
すると、まさか聞かれると思っていなかったのか慌てふためく店員の恰好をした不審者。
「えっと、お名前を伺っていないので私には分かりません」
と、もっともらしい答えが返ってくる。
「そうですか。あいり、そのせんせいには悪いけどあいりのお父さんとお母さんも待っているし一旦もどろう?」
「そうなの? だったら一旦もどりましょう」
よし、これで未然に防げた。
と思っていたら―――――
「っち、いいからこっちに来い!」
ついに痺れを切らし愛浬の手を引っ張る男性。
愛浬も抗おうとするも、5歳児のチカラで敵う訳もなく僕の手を離れそのまま抱きしめるように口もふさがれてしまう。
このままでは愛浬が危ない!
僕は何時もの特訓の要領で、瞬時に体内でマナを活性化させ、
「離せこのヤロウ!」
声を上げ、軽く助走を付けた飛び蹴りを男性の横っ腹に食らわせる。
ッドス!
子供にしては力強い音が炸裂。
「っぐ!」
着地と同時に、痛みで緩んだ手から愛浬を救出することに成功。
うまくいって良かった!
そう、前に言っていた役立つこととはこの事で、マナを体内で活性化させたりすると腕力などが上がったりする。
だから非力な子供でも、大人相手に対抗することができるのだ。
僕はマナの活性化を維持しながら愛浬を背に隠す。
あまりの緊張でドクンドクンと体全体が波打っているみたい。
「このガキがぁ! 良くもやってくれたなぁああ!」
憤慨した男はポケットからシュッと何かを取り出した。よく見ると銀色に光り輝く刃らしき物が伺える。
もしかして折りたたみ式のナイフ!?
焦りからか、それともこんな幼女に1発貰ったのが気に食わないのか、殺気立った目でこちらを見つめてくる。
初めて向けられる殺気。
一瞬足がすくみそうになったけれど、背中に居る愛浬の体温でどうにか踏みとどまる。
「あいり、逃げて誰か呼んできて!」
愛浬さえ逃せばこちらの勝ち。そう思い彼女の方へ振り返ると、恐怖に怯える姿。
「あ……あぁ……」
だめだ、愛浬も殺気に充てられて恐怖で動けないでいる。
僕が何とかしないと!
「だれかーーーたすけてーーー!」
そう思い、大声をだして助けを呼ぶ。
皆が居るところからは見えにくいが、ここから50mも離れていないはずだからすぐに人が来てくれるはず。
「くそっ! 余計なことをッ!!!」
助けを呼ばれて逆上した誘拐犯。
こちらに向かって手にしたナイフを大きく振り上げた。
切られる!
一瞬、愛浬がナイフで引き裂かれる幻覚を視て、後ろにいた愛浬を抱きしめ押し倒した。
「オラッ!」
「あぐっ」
誘拐犯の掛け声とともに背中に鋭い痛みが走る。
距離をとったはずなのに切られた?!
「へへへ。こんなこともあろうかと、折り畳みナイフ式の『杖』を買っておいてよかったぜ。高かったが、そこにいる嬢ちゃんを
くそぉ、あんなのが『杖』とか聞いてないよ。
誘拐犯は顔を不気味に引きつらせながら、抱き合いながら倒れている僕たちの元に歩いてくる。
背中の痛みはジリジリと高熱のように感じ、恐怖と痛みに体を蝕まれて動くこともできない。
「よくも手間を掛けさせてくれたなぁ…………これは仕返しだ、オラァ!」
「グフッ!」
横腹に重たい衝撃が突き抜けて吹き飛ばされ、壁にぶつかり床に落ちる。
どうしよう、背中だけじゃなくて体中が痛い。
くそぅ、くそぅ、このままじゃまずい。マナの活性化も解けちゃった。
マナの活性化が出来たとしても太刀打ちできないのか……!
後悔と悔しさが渦巻く。
愛浬を助けたいのに、体が言うことをきかない。
「ゲホ、ゲホ、あ……いり、にげ……て」
あぁ……だめだ、このままじゃ愛浬が捕まってしまう。
恐怖に染まった顔でこちらを見ている愛浬に必死に手を伸ばすが、それを遮るように男が立ち塞がる。
「さてと、これで終いだ――――」
「残念ながら、お終いなのは貴方です」
「な、グハッ!?」
突然現れた第三者の声がした瞬間、横から来た何者かに蹴り飛ばされた。
顔を向けると執事服を着たナイスミドルが
「ささき……さん」
「えぇ、佐々木でございます。凪沙様、愛浬様をお守りしていただき、誠にありがとうございます。」
僕はその言葉を聞いた瞬間、意識が途切れた。
ギャルゲーのメインヒロインは僕の嫁!~気が付けば親友ポジにTS転生~ totto @totto104
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