第3話 天使な妹

 幼稚園に愛浬が入園して2ヶ月が経った。

 リアル愛浬幼女の姿を隣で眺めてられる日々は、とても素晴らしい!


 それとは別で。

 今日も僕の妹が、凄くかわいいんですけど!

 今年で2歳になる妹の手を握ってあげるとニコッと笑って僕の人差し指を離さない。プニプニな手の何処に、そんな握力があるのかと思うぐらいに力強い。

 あれ、おかしいな。本当に離れない! でも、強引に振りほどくわけにも行かないし、どうしよう?

 


「あらあら、お姉ちゃんは今日もモテモテね」



 今年で2歳になる妹のみぞれの横で一緒に寝ているお母さんが、微笑ましそうに言う。

 霙はとても僕に懐いてくれており、帰ってくると「ねーね、おかーりー!」と可愛らしく抱き着いてくるのだ!


 今日は幼稚園はお休みで、朝からお母さん達と一緒に部屋でゴロゴロしている。

 前世では兄弟が居なかったので、妹という存在がこんなにも可愛く思えるとは想像ができなかった。

 実際に妹がいる友人からは、可愛くない生意気! とか人とは思えない様な感想を良く耳にしたが、こんなに愛らしい存在なのだから、きっと彼は天邪鬼さんだったのだろう。



「あむ」


「キャーーー♪」



 小さい手が美味しそうだったので、冗談半分で僕の指を掴んでいる手を咥えてみると、嬉しそうに笑う霙。気軽なスキンシップでも笑顔をくれるその可愛さ、マジヤバクネェ?



「凪沙もこれぐらいの時は、それはもう騒がしかったものね」


「そっそうだったかなぁ?」



 返事をぼかしながら、お母さんの言葉に若干冷や汗を流しながら当時のことを思い返す。

 言い訳をすれば、仕方が無かったのだ。




 パチッ、と目が開く。


 

「オギャー!(あの爺さん百合厨かよ!」



 という僕の叫び声は言葉にならず、泣き声という形で発せられた。

 自称神の爺さんに転生させられて、目を覚ましたら知らない天井で驚く。



「オギャーッ!(ここどこぉ!?」


「おーよしよし、凪沙ーどうちたんでちゅかー」



 突如泣き始めた僕に、赤ちゃん言葉で話しかける女性。

 というか凪沙って僕のことだよね?! と感情のコントロールが上手くいかずに更に声を荒らげて泣いてしまった。



 泣き疲れて寝たら、それが功を奏したのか、どうにか自分の現状を受け止められる様になり、周りを見渡す余裕が出来た。


 ある程度時間が経てば、よくラノベやネット小説なども読んでいたこともあり、魔法があるギャルゲーの世界に転生したことにワクワクし始めた。

 赤ん坊の我が身で出来るだけ周囲を観察し始め、ある程度(とは言っても身の回りを見渡すだけだった)が終わり、余りの変わらなさに若干がっかりした。



“やっぱり見た目はほとんど同じ世界か”



 そう思って落ち込んだりもしたが、その時フッと、自分の中に小さな違和感があることに気がついた。



“なにこれ?”



 気が付くと一瞬で大きな違和感に変わり、自分の中にあるモノに興味が移った僕は、これが一体どのような物なのか没頭して探り始めた。


 今まで感じたことのない感覚。

 この世界は魔術がある、という事はこれは前世ではなかったモノ、つまりはマナの可能性が高いと。

 

 あれから体の中の違和感を調べていたら、体内で任意に動かせることを発見して『もしや氣とかチャクラみたいに出来るのかな!』と某漫画の様な物があり実は僕は特別な人間では、などとちょっぴり興奮していた。


 そんな僕はマナを動かす訓練をしながらテレビをお母さんと一緒に眺めていると、初めて異世界らしいモノを観た。


 そのとあるモノとは『守護者ガーディアン』の特集であった。

 守護者ガーディアンとは特別な職種の一種で、『魔術師』と呼ばれる資格ライセンスを持つ者だけがなれる職業の1つ。


 『魔術師』とは何か。

 体内には、マナと呼ばれる生命エネルギーがある。これは誰しもが持っており、中には人よりも多くのマナを保有している者達が存在し、それが更に専門の知識と技術を身に付けて試験に合格すれば資格と専用の『杖』が与えられ『魔術師』になれる。

 この世界の『魔術師』とは、資格の一種であり、これがあるとエリート職や専門職に就けるのだ。

 その映像を見た時、僕の頭に電撃が走った。



 “僕もあんな風に魔法を扱ってみたい!”



 それから僕はさらにマナを操る特訓をするようになった。気がついてからは、暇を見つけては体内でマナを操る特訓を行っている程。


 舞台となる高校は将来的に魔術師になるべく専門的な知識や技術を学ぶ所で、僕自身も行く事が確定しており、これが将来的に役に立つと分かっているのでこれは大きなアドバンテージになるだろう。


 今も行っているが、そんなことは置いといて。今はただ、初めて出来た妹との触れ合いが大切だ!




 とまぁ、こんな風に姉バカな僕は幼稚園で愛浬と話をする時は、よく霙を話題に出すものだから――――――



「わたしも霙ちゃんに会いたい!」



 などと愛浬が言い始めるのは仕方がない事だよね。

 むしろ嬉しいけど。



「ボクはいいけど、大丈夫なの?」



 愛浬はお金持ちの所のお嬢様だ。それも幼いという事もあり、何処かへ行くのは大人の確認が必要だろうと思い尋ねる。



「そうね。それじゃあ後で、じーやに聞いてみる!」



 という事があった。

 そして数日経った今日、僕がいつも3時に幼稚園から家に帰るので、それに合わせて愛浬も一緒に我が家に来ることに。

 いつもはお母さんの車での送り迎えして貰っているのだが、今日は愛浬の車で一緒に帰る予定で、お母さんは家で待っている。


 丁度帰る時間になると、玄関から愛浬にお声が掛かる。



「お嬢様、お迎えに上がりました」


「じーや!」



 声を掛けて来たのはスーツをビシっと決めたナイスミドル。そちらに向かって駆け寄る愛浬に、僕も一緒になって近づく。



「えっと、じーやさん? よろしくお願いします」



 この人は愛浬をいつも送り迎えしている人で、名前は知らない。ギャルゲーの時でも名前は出てなかった。

 とりあえず、これからお世話になるのでしっかりと挨拶をしなければ。



「これはこれは、ご丁寧な挨拶に痛み入ります。私のことは佐々木とお呼び下さい凪沙様」



 ふぉおおお! 愛浬と同じように対応されて、何だか僕までお金持ちになったみたい。欲を言えば、



「メイドさんが良かったけどね」


「メイドではなく、私の様な爺で申し訳ございません」


「え、また口に出てた!?  別にささきさんがダメとかじゃなくて、その、あの」


「ふふふ、もちろん冗談でございます」



 本当に滑りやすいこの口にはオシオキが必要なようだ。


 じーやこと佐々木さんと戯れながら歩くと、黒塗りの高級車の前に。

 黒塗りの高級車、コーナリング、百合厨……うっ頭が。


 一度嫌な出来事を頭の中から追い出して、もう一度見る。

 良く磨かれたボディーは太陽の反射を受け、深みのある色をかもし出している。



「なんか、すごいね」



 一目で高級車と分かる存在感。

 え、これに今から乗るの? 本当に?  僕庶民だけどいいの?



「乗ったらお金を取られない?」


「何言ってるの、なぎさったら」


「っは、また口から」

 


 愛浬の金持ち力なるモノの片鱗を垣間見た衝撃で、口から漏れちゃったよ。

 


「凪沙様、お金を取ったり致しませんので、ご安心してお乗りください」


「フフフフフ、そうね。安心して乗って、なぎさ」



 愛浬に笑われてしまい、恥ずかしくて顔が熱い。

 いや、これはこれで、愛浬が笑ってくれたと思えば安いものか!

 愛浬の笑顔プライスレス。



「うわーーー! ふかふか~♪ 」



 実際に乗ってみると、座席のクッションが柔らかいこと柔らかいこと。お家に1つ欲しいな。

 とかやっていたら、またもや愛浬に笑われた。



「ねぇなぎさ」


「どうしたの、あいり?」


「わたしね、初めて友達のお家にいくの。 だからちょっぴりドキドキしてる」


「そうなの?」


「うん」



 少し意外だ。

 でも、少し前に男の子たちにからかわれていたことを思い出すと、少し納得してしまった。


 どうしても目立ってしまう白髪。


 成長すれば美人で、その髪がより一層美しさを引き立たせること間違いなしだけど、まだ小さい子供たちの中では異物として認識されてしまうのかもしれない。



「そっかぁ。実はね、ボクもはじめて友達を家にご招待するんだ♪」



 少し暗くなりかけた気持ちを吹き飛ばすように僕は明るく言った。

 嫁に暗い顔なんて見せたくないからね。



「だから、ぼくもあいりも、お互いに初めて同士だね!」


「わたしも、なぎさのはじめて……フフフ♪」



 嬉しそうに笑う愛浬。

 僕の初めてって、ちょっと危ないワードがゲフンゲフン。

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