第2話 好感度アップ!

 この世界は、ただ街中で生活していると前世と代わり映えが無いが、中身がまるっきり違う。

 例えば車や携帯など、外見が似ているだけで中身は全くの別物。


 前世では電気やガソリンなどといった物は全て魔力という別物のエネルギーで動き、電池の代わりに魔力を内包している魔石に替わった。


 他にも挙げていけば職業やら何やらとキリがないので省くが、その最たる物の1つが髪の色だ。

 元がギャルゲーなだけに髪の毛の色もカラフルでボクの髪は水色だったりするが、それでも愛浬の白髪は前世同様に珍しくあまり見かけない色だから、否応無しに注目を浴びてしまう。


 歳を取ると色素が薄まり白混じりの色になるので、若くて白髪というのはそれだけで目立つ。


 だから、これは当然の反応だったのかもしれない。




 ボクが通っている幼稚園に、途中入園して来た愛浬とのファーストコンタクトは良好に終わり、ルンルン気分で次の日を迎えてやって来た幼稚園でのこと。



 「きょうはーもっとーなっかよくーなっるっぞー♪」



 保育園の先生に元気な挨拶をしながら教室に入ると、朝から元気に遊ぶ声とは程遠いモノが聴こえてくる。

 


 「なんでおまえの髪は白色なんだよ!」


 「そんなの、知らないわ!」


 「変なのー」


 「やーいやーい、オバケおんなー」


 「やめてっ!」



 声の方に目を向けると、白髪の女の子に複数の男の子が群がっていた。

 何とも朝から元気な、っていうかアイツ等何やっているんだ! 子供だからって愛浬ボクの嫁をイジメるのは許さないぞ!



 「コラーーーー! 何してるの!!!」



 ボクが駆け足で近寄り、絡まれている愛浬の前に庇う様に立ち塞がる。



 「なんだよ。お前には関係ないだろ」


 「そんな風にいじめると、愛浬ちゃんに嫌われるよ!」



 男子はね、好きな子の気を引きたいが為に、ついちょっかいを掛けてしまう悲しいバカな生き物なのだ。

 一瞬、前世を思い出して、心の中でしみじみと呟く。



 「なっ!? べっべべつに、オレはコイツのことなんて好きじゃねーし!」



 すると案の定、1人が顔を真っ赤にさせて怒鳴どなる。

 コイツ、愛浬のことが気になってチョッカイを掛けたな、このオマセさんめ! しかし嫁はやらんぞ。欲しければ、この親友(予定)が相手だ!



 「コラーーーー! 何を喧嘩しているの!」



 こちらの騒ぎを聞きつけたのか、先生がこちらにやって来た。

 ナイスタイミング!



 「せんせいー、この子達がいちのせさんを虐めてました!」



 だからボクはすぐさま先生にチクる。

 嫁を虐める者に、かける慈悲はない!(人任せ



 「ちがうもん! ちょっと髪の毛の色が変だからカラカッタだけだもん!」



 ボクの言葉に反論する男子。

 いや、それは全然言い訳になってないからな。



 「愛浬ちゃん、本当なの?」



 ボクの証言と馬鹿な男子の自滅で、騒ぎの内容を知った先生は愛浬に確認を取ろうと問いかける。

 ちなみに、ボクと愛浬はまだ名前で呼び合う仲じゃないから、呼ぶ時は苗字だったりする。早く親密になって、名前で呼び合う仲になりたい。



 「……はい」



 チラッとボクの方を見て、小さく頷いた。

 意外と負けん気の強い娘なので本当は頷きたくなかった、しかしボクが庇った事を無駄にはしたくないという彼女の優しさから頷いた、という所かな。


 まだ小さいというのに、他人への気遣いが出来る心優しい女の子。こんな彼女だからこそ、画面の向こうの存在なのに恋焦がれ、想い続けた。

 それが現実となり、リアルな人間として接した今でもその思いは変わらず、むしろより一層強くなったといっても過言ではない!


 流石ボクの嫁!



 「そういうことなのね。君達、ちゃんと愛浬ちゃんにごめんなさいしなさい」


 「「「ごめんなさい……」」」



 先生に言われて男子達は渋々謝ると、そのままどこかへ行ってしまった。先生も、しょうがない子達ねと言いながら持ち場へ戻って行き、ボクと愛浬だけが取り残されてしまった。



 「いちのせさん、大丈夫?」



 ボクは心配になり、愛浬の手を取った。いくら負けん気が強い子だとしても、あんな事をされて傷つかないわけがない。

 握った手は小さく幼女特融の感触で、とても温かかった。



 「ありがとう、はやかわさん。 アナタのお陰で助かりました」



 心配してくれる相手にちゃんとお礼が言えるなんて、なんて良い子なんだ!



 「どういたしまして! またアイツ等が来たら、今度はボクがやっつけてやるんだから!」


 「フフ、はやかわさんったら♪」



 フンフンッとシャドウボクシングの様に腕を振るうボクを見て、コロコロと笑う愛浬。

 冗談じゃなくて、本当に撃退してみせるから任せて欲しい!  赤ん坊の頃からマナの扱いを特訓しているお陰で、そんじょそこらのガキ共には負けないぞ!


 ちなみにマナとは生き物が生成できる魔力のことで、特殊な道具を使うことで魔法を使ったりできる。その道具を使わなくても、マナを活性化させることで身体強化ぐらいは出来てしまう。

 まぁ、普通の子供は出来ないけどね!



 「ねぇ、はやかわさん…………」



 未だにビシッビシッと空中にパンチを繰り出しているボクに対して、先程よりもトーンの落ちた声の愛浬。心なしか表情も萎んだように見える。



 「どうしたの?」



 ふぅ、ちょっと頑張りすぎたぜ……。

 シャドウボクシングで乱れた息を整えながら、愛浬を伺う。



 「やっぱり、わたしの髪は変ですか?」



 そう言って顔を下に向け、不安そうに自分の髪を持ち上げる愛浬。

 光に照らされて、持ち上げている手が透けて見え、絹糸の様に綺麗だ。



 「ふぇ?」



 何を言っているのだろう、この娘は。

 いやいやだって、こんなにも綺麗で美しい白髪で何を言っているんだ!

 神秘的な色で、まさに彼女を特別な存在と主張するかのごとく、それでいて温かみがあって天使の羽の様なのに!



 「何言ってるの?」



 あ、つい思っている事が口から漏れちゃった。

 この滑りやすい口は後でお仕置きが必要かもしれない。



 「えっ、だって……こんなに真っ白で、お婆ちゃんでもないのに、おかしいよ…………」



 愛浬の声は萎んでいく様に声が小さくなり、悲しそうな顔をする。

 そんな顔をさせたくない。画面越しのように、明るい笑顔でいてほしい。

 だからボクは言う。



 「そんなことないよ!」



 悲しそうに俯く彼女の肩を掴み、真剣な声で言い募る。

 如何にその髪が似合っており、どれほど美しいのかをたっぷりと聞かせてあげよう!



 「一目見た時からスゴイ綺麗な髪の毛だと思ってるし、すごくいちのせさんに似合ってるよ! まるで天使の羽の様で、ボクはすっっっごく大好きだよ! 本当に天使なんじゃないかなって思っているぐらいで、いつか触らせて貰えたらなって考えているんだから!」


 「フフフ、そう言ってくれたの家族以外だと、はやかわさんが初めて」



 そう言って、嬉しそうに目を細める愛浬に見つめられ、胸がキュンとする。

 やっぱり嫁の笑顔は最高だね!

 


 「ねえ、もし良かったら名前で呼んでもいい?」



 と愛浬からの素敵なご提案が! やったー!

 今晩は赤飯だね!



 「うん! ボクも名前で呼んでもいいかな?」


 「じゃあ、なぎさって呼ぶね」


 「ボクはあいりって呼ぶね!」



 出会って2日目にして、愛浬を名前で呼ぶ権利をゲット! これは幸先さいさきがいいスタートだ。

 そう言えば、先程から若干口調が崩れているような。



 「そう言えば話し方が変わった?」


 「うん。本当はね、人前に出る時はお行儀よくしなさいって言われていて、それでね、あの話し方だったの。なぎさなら大丈夫かなって思ったの……ダメだった?」



 名前で呼べるだけじゃなくて、信頼度もアップ! これは何という僥倖ぎょうこうなんだ!!!

 これには年甲斐もなく喜んでしまう。あ、今は幼女だった。


 好感度が高くなって行くと今のように彼女の口調が少し変化するのだけど、まさかこんなにも早いだなんて。



 「ダメじゃないよ、むしろ嬉しい! えへへ、何だかあいりの特別になったみたい」



 自分で言っといて何だが、少し照れてしまう。大好きな子と親密な関係になれて嬉しい。ゆくゆくはもっと特別な関係親友に……もちろん愛浬は既にボクのだけどね!



 「だってわたしは、なぎさのなんでしょ?」



 少し意地悪そうに笑う愛浬が、一瞬、小悪魔の様に見えた。

 そんな愛浬もステキッ!



 「流石ボクの嫁! 分かってるぅ!!!」



 ボクも負けじと笑顔で返す。それが何だか可笑しくて、2人で微笑んだ。

 その後、お迎えが来るまで絵本を読んだり、お昼を食べたり、駆け回ったりして楽しく過ごした。

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