第2話「初心者、副委員長」

当時の当主からしたら二人は曾孫同士。


「黒姫真輝、生徒会へ対抗する風紀委員の副委員長になれ」

「…命の保証は」

「あるに決まっているだろう。俺たちは学園を支配する生徒会に

対抗する組織だ。実力ではこちらも負けていない」


傲慢でも何でもない事実を彼は述べた。彼が差し出した腕章を

真輝は手に取った。


「分かった。私、やってみるよ副委員長」


右腕に付けた青と白の腕章には副委員長の文字が刻まれている。

本格的に生徒会と風紀委員はぶつかり合う。二つの派閥に

生徒が存在するようになった。

生徒会にもその話は伝わっていた。


「良いのか?会長。放置を選んで」


五月雨千景は彼に聞く。生徒会会長、鳳城時貞。


「構わない。他の役員は全員ここから離れているんだろうな」

「あぁ。生徒会長の命令だって言ったら喜んで離れてったよ」

「そうか」


時貞は伏せていた目を開く。悪になることを彼は望んでいない。

が、ならざるを得ない現状にいるのだ。


「力に目覚めさせることがもう一つの道を開くための鍵か」

「良いのかよ。そんなことして、親父が動き出すぞ」

「それに対抗するためのこの学園だ。育ち盛りのほうが

分があるに決まっているだろう。黒姫絢輝はこの現状を先に

予知していたらしいと言ったのはお前だ」


予知能力を持つ絢輝。彼女の力を受け継いでいる真輝。

彼女は他にも力を持っている。


「“眼”か…見ることに特化した力だけは未だに集められていない

そう言っていたな」

「それが集まって初めて楽園への行路が開かれる。馬鹿げた話だがな」


時貞は父の願いを鼻で笑った。彼の父曰く、今の人間界は腐っているらしい。

最早この世に救うべき人間ナシ。人間は五感を持っている。常人よりも優れた

五感を集め、その力を具現化させて鍵を作ると言っているがその途中で

協力者は逃走した。


「が、他の役員は全員俺の話を聞かないだろう。既に父の言いなりだ。

倒してくれよ?風紀委員」




「この部屋はお前が自由に使え」

「良いの!?こんなに大きくて綺麗な部屋を使って!!」


学生寮が存在するこの学園。風紀委員だけが使用可能な特別な

寮がある。名前を蒼穹寮というらしい。部屋を引っ越して彼女は

この寮に来たのだ。


「副委員長だ。遠慮はいらない。が、少し不便な思いをさせてしまうかもしれんな」

「?どうして」

「何時、何処から生徒会が入ってきてお前を襲うか分からない。警備が

必要になる」

「あー…」


24時間とはいかないだろうが長らく護衛が付く。一人で自由気ままに、という

訳にも行かないようだ。良い部屋だが何処か身の狭い生活が暫く続きそうだ。


「そう悲嘆するな。お前が気を許せる者が護衛に就く」


部屋に入った青年を見て真輝は驚いた。真輝よりも何倍も顔の良い兄、

黒姫昴だ。彼もまた風紀委員に所属していたのだ。彼は真輝より一つ

上の学年だ。


「俺は部屋を出る。あとは二人で楽しめ」

「言い方、誤解を生むようなことは言わないで欲しいんだがな…」

「実力があることを知っているから任せると言ったんだ。兄がいるのであれば

妹もリラックスできるだろうしな」


そう言って部屋を出て行った。不器用に気を使っているようだ。


「大変だな。入学したばかりなのに生徒会に目を付けられて」

「うん。お兄ちゃんはそんなことなかったの?」

「俺は無かったな」


真輝の隣に座った昴は目を彼女に向けた。彼と真輝は義理の兄妹だ。血の繋がりは

無く、孤児院で育った昴を真輝の両親が迎え入れたのだ。運動神経も良く、様々な

スポーツで彼は結果を残してきた。幾つもの格闘技も体験し、全てで結果を出して

いる。

去年の話だ。学園に入学して早々、昴はボクシング部に顔を出した。

その際に練習試合を突然頼まれたのだ。その先輩は初心者であろう彼に

勝つことで自分の力を誇示することを狙っていた。弱い者虐めだ。

同じ目に遭った同級生を知っている彼はその話を受けてリングに上がる。


「あれは一年生か。どうなっている」


その試合を偶然、朝陽が目にしていた。神喰恭哉も同じ。


「あー…一年生とかに実際体験してみないかって誘って一方的に

嬲ってんだってさ。止めた方がいいなら早くしようぜ」

「…いや。あの一年生がこれは勝つな」


朝陽が見せたのは写真の束。


「うおっ、スゲェ!!」


優勝や準優勝を総なめしている昴の力に興味を持ったらしい。

試合は確かに彼が勝ち、そこに朝陽は乗り込んだ。


「その才能を次は学校の風紀の為に使ってみないか―」

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