ゴエティア

花道優曇華

第1話「虎と黒」

ユグドラシル学園は超巨大な敷地を持つ学校だ。

高等部が今回のメインとなる。巨大な敷地故に多くの部活も存在する。

そんな学校に通っていた黒姫真輝の生活は突如崩れることになる。


「そっちに逃げたぞ!探し出せ!」


物陰に身を潜める真輝はそっと様子を窺う。何がどうして自分が

追われているのか。夢の高校生活は何処に…!?

この学園は何処か可笑しいと思っていた。教師たちが異様に少ない。

実権を握っているのは生徒会だ。真輝を追い回しているのも生徒会。

黒と赤というカラーリングの腕章は生徒会の証だ。


「そんなにドキドキしなくても殺すことはしないぜ?黒姫真輝」


肩に置かれた手。真輝の体は震える。その手はゆっくりと伸ばされて

二の腕に付けられた腕章が見えた。恐ろしい…赤と黒の腕章が見えた。

その腕が素早く彼女の細い首に巻き付いた。呼吸は出来る。しかし妙な

動きをすればすぐに絞めるだろう。


「賢明だな。下手な動きはするなよ。俺だって武力行使は可能な限り

控えたいんでね」


耳元で囁く。


「生徒会…ですよね?」

「この腕章が証拠だろ。狙われる理由は知らないのかい?」

「分からない…」

「自覚が無いのか…。その方が都合が良いと言えば都合は良いな」


独り言のように呟く青年。

今も真輝は冷や汗が止まらない。


「あまり長く居ても仕方がない。立ってくれるか?」


ゆっくりと膝を伸ばし、そして僅かに緩んだ腕から素早く

真輝は抜け出した。何処に行けばいいかなんて分からない。

ガムシャラに走る。こんな速さで自分は走れるのかと驚嘆する。

追いかけていた生徒会の役員たちも後を追いかける。上を何かが

通った。それは人だ。先ほど真輝に言葉を掛けて来た青年。


「副委員長、五月雨千景さんだ!」

「あの人がいるなら俺たちは邪魔になっちまうか?」

「お前らは周りを警戒しろ。油断するな」


五月雨千景はそう指示する。人望が厚いらしいようで彼の一言で

他の役員たちが周りを警戒し始めた。


「逃げたんだから、少し痛い目に遭ってもらう。手加減はするから」

「手加減ねぇ…女子生徒に暴行?」

「殴るわけじゃないさ。ただ軽く眠らせるだけ―」


伸ばした手を引っ込めた。一瞬、視界の端から端へ動く刃が

見えた。二人の間に入ってきた青年の腕章は白と青。それは

生徒会に対抗する風紀委員の証だ。


「これだけ騒ぎを起こせば姿を現すのは当然か…風紀委員」

「そう言う事だ。俺たち風紀委員は黒姫真輝を護衛対象とする。

つまり彼女に手を出すと言う事は俺たちと敵対すると言う事」


彼は刀の柄に手を掛ける。何時でも再び抜刀できる構えだ。

千景は辺りに目を向ける。既に包囲網が完成していた。


「分かった。今は手を引こう。お互い、穏便に終わらせておきたいだろ?

派手にやるのはもう少し後で、な」


彼らが身を引いたのを確認してから風紀委員は真輝を見て笑顔を

浮かべる。


「驚かせて悪かったな。俺は風紀委員の一人、神喰恭哉。少し

来てくれないか、委員長がお呼びだ」


神喰恭哉は手を差し出した。その手に触れると彼は細い手を握り

先導する。生徒会の役員は存在しない。すいすいと道を進んでいきながら

やってきた場所は風紀委員会の部屋だ。

待ち構えていたのは風紀委員長。何処か威圧感のある青年だ。

鋭い眼をしており空気は重い。


「連れて来たぜ委員長。コイツが黒姫真輝だ」


恭哉に背中を押されて前に進んでしまう。風紀委員長、虎姫朝陽。

虎姫家は身体能力が高く一部では人型兵器とも称されている。

朝陽は歴代トップクラスの力を持っているという。


「そう畏まるな黒姫真輝。そこに座れ」


椅子が用意されていた。腰を下ろし、彼を見た。


「改めて自己紹介をしておこう。俺は虎姫朝陽。お前には

風紀委員に所属してもらう」

「え?でも私、役に立たないと思います…」

「役に立つ立たないが問題ではない。お前を守るためだ」


虎姫朝陽が僅かに笑みを浮かべる。


「黒姫家の人間の癖に、虎姫家との繋がりも教えられていなかったのか。

だからお前は狙われる理由も知らない…と言う事か。では俺が

話してやろう―」


虎姫家は黒姫家を護衛することが使命である。

端的に言えば家ごとの主従関係。

強い力を持った一族、虎姫家の人間は荒れくれ者も多かったらしい。

力を持つ人間は高飛車になっていく。そして相手が消えて暇を

持て余す。そこに現れたのが黒姫家の人間だ。女系の黒姫家の

当時の当主は真輝の曾祖母、絢輝あやきであった。

彼女は未来を見ることが出来る。



「ユグドラシル学園。きっとそこで私の曾孫は命を狙われます」


虎姫家の当主は敢えてその話に耳を傾ける。


「貴方たちの力をどうか、人の為に使ってください。私の曾孫が

学園に入学したとき、貴方たちは心置きなく戦いを楽しむことが出来るでしょう。

その時まで、しっかり力を付けてください。決して油断してはいけません」

「…分かった。聞き入れよう。我ら虎姫家はこの日を以て黒姫家護衛を

一族の使命とする」



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