地球奇襲作戦

 カルディエゴ星系で共和国軍と帝国軍が激しい攻防を繰り広げる中、共和国を統べる3人の大統領は第1艦隊を率いる総旗艦インディペンデンスに乗艦していた。

 第1艦隊は、通常航路を離れて暗黒宙域を航行している。進軍目標は、神聖銀河帝国の聖都地球である。


「地球の周回軌道に入りました!」


「周辺に敵影無し!」


 インディペンデンスの2人のオペレーターが朗報を高らかに告げる。

 この報告と同時に、艦橋のメインモニターにはインディペンデンスの光学カメラが捉えた地球の映像が映し出された。


「やったね、ジュリー! って、ちょ、ちょっとジュリー、頭をくしゃくしゃしないでよ」


 ジュリアスはトーマスの肩を掴んで自分の下まで抱き寄せると、右手をトーマスの頭に伸ばして金色の髪を掻き混ぜた。

 その様は2人の大統領、軍の最高指揮官という雰囲気は微塵もない。仲の良い少年達のようだった。

「トムのおかげだぜ。これで敵の根拠地まで安全に来られた!」


「ええ。トムの緻密な計算にはコンピュータも顔負けですね!」

 2人の横でクリスティーナも祝福の言葉を掛ける。


 今回の作戦では、迅速さが要求される。

 そのため、地球聖教の根拠地である地球のアース・シティを戦機兵ファイター部隊で速やかに制圧するためにジュリアスは部隊を率いて出撃する。その間、艦隊の指揮を執ると言ってクリスティーナもインディペンデンスに乗艦したのだ。


 そしてトーマスは、ナビコンピュータを使用せずに通常航路を離れて進軍するという離れ業で数々の奇襲作戦を成功させてきた手腕を本作戦でも披露すべく参戦している。


「地球へ降下後、全ての戦機兵ファイターを出撃させて聖都を制圧する! ローエングリンを捕らえる事ができれば、この戦争は終わりだ! 全艦、最大戦速!」


 第1艦隊は速度を上げて一気に地球へと侵攻した。

 聖都アース・シティは宗教的聖地という点から旧帝国時代では都市防衛はほとんど考慮されておらず、ドーム型シールド生成器ジェネレーターや対空砲といったものは配備されてはいなかった。


 しかし、今はどうなっているのかは実際に見てみなければ分からない。


「アース・シティ上空にシールドの展開を確認しました!」


 センサーがシールドのエネルギーを観測した。

 だが、それも想定の範囲内である。


「問題無いさ! 作戦通り、1隻をアース・シティ上空に残して、他は艦艇は地球へ降下だ!」


 ドーム型シールドを展開した軍事拠点を攻める場合、地上部隊を降下させて艦隊は大気圏外に待機させる事が定石だった。

 艦隊も全て降下してしまっては、上空ががら空きになって制空権を確保する前に敵に脱出路を残してしまうためだ。

 かと言って艦隊全てを大気圏外に残しては制圧に手間取る可能性がある。

 そのため、ジュリアスはアース・シティの上空に1隻のみを残して、他の6隻でアース・シティを強襲するという強引な作戦を立てていた。


 アース・シティは軍事基地ではないので、抵抗があったとしても些細なものだろう。地上からの対空砲火で戦艦が撃沈されるといった心配は無いという判断に基づいた戦術だった。


 第1艦隊は地球の大気圏へと突入。

 アース・シティを覆うシールドの外側へと降下した。


 第1艦隊が降り立った場所は地中海と呼ばれる海洋の上。

 その海上ギリギリに艦隊を展開させてアース・シティに向けて侵攻する。

 地球には敵の姿は無く、このままアース・シティを攻略できれば戦争の終結は目前だ。


 そしてアース・シティを視界に捉えようとしたその時だった。


「前方の海中により何かが浮上してきます! これは艦艇です!」


「何だと!?」


 海中からグランドアース級宇宙超戦艦10隻、そしてガウェインの旗艦であるビスマルク級宇宙戦艦ガラティーン・ツヴァイが浮上して姿を現した。


「くそ! 読まれていたか! 全艦、戦闘用意だ!」

 ジュリアスは即座に指令を下すと、後をクリスティーナとトーマスに委ねて艦橋を去る。


 共和国軍は、帝国軍艦隊によって完全にアース・シティへの針路を阻まれてしまった。

 このままでは共和国軍は正面突破しか打つ手がない。

 だが、グランドアース級に対して正面から艦隊戦を挑むのは自殺行為に等しい。

 そこでジュリアスは自ら戦機兵ファイター部隊を率いて近接戦闘にて活路を見出そうと考えた。




 しかし、先手を取ったのは帝国軍の方だった。

 帝国軍艦隊からの集中砲火が共和国軍艦隊に襲い掛かる。


「敵を完膚なきまでに叩き潰せ! それが皇帝陛下の勅命である!」

 旗艦ガラティーン・ツヴァイにて指揮を執るガウェイン元帥は意気揚々としていた。

 ようやくローエングリンを裏切った反逆者であるジュリアス達を討ち取る事ができるのだと。


 しかし、共和国軍は戦機兵ファイター部隊を襲撃させて帝国軍の陣形を攪乱しようと試みる。


「こちらも戦機兵ファイターを全て出せ! 敵を近付けるな! これは地球を守る聖戦である! 母なる地球の大地を、反逆者どもに踏ませてはならん!!」


 地球を舞台に艦隊戦、そして格闘戦ドッグファイトが繰り広げられる。

 人類の故郷である地球が戦場となるのは、700年以上続く銀河歴史上初の事だった。


 それは地球の政治的価値が向上した事を意味すると教会艦隊の将兵の中には思う者が大勢いた。

 というより神聖皇帝コーネリアスことアドルフ大帝がそう思わせたのだ。


 教会艦隊の将兵は、地球聖教の信者で構成されており、地球を聖地として崇めている。

 そんな彼等にとってこの戦いは聖地を守る戦いであり、聖地の名誉と権威を取り戻すための戦いなのだ。

 しかし、中には聖地で血を流す事を嫌悪する信者も存在しており、信者達の思考を聖戦という言葉で埋め尽くす必要もあった。


 両軍の戦機兵ファイター部隊が激しくぶつかり合う中、ジュリアスの乗るライトニング・カスタムは護衛の1個中隊を率いて縦横無尽に戦場を暴れ回っている。

 その戦いぶりは正に鬼神の如くであり、数十分の戦闘で既に20機以上の敵を単独で撃墜していた。


「元帥! 御一人で突っ走られるのはお止め下さい!」

 護衛中隊長ギータス少佐は、敵の攻撃を掻い潜りながらどんどん先へと進むジュリアスを追い掛ける。


「もたもたしてるとおいていくぞ。敵は動きからして実戦経験の無い素人だ。こんな奴等に後れを取るなよ!」


 数的には帝国軍の方に利があった。

 それは疑うべくもないのだが、質の面では共和国軍の方に利があると言えた。


 当初こそは兵力差で押していた帝国軍だが、次第にパイロットの技量差が大きく露呈。戦局は徐々にだが、共和国軍側に傾き出した。


 しかし、その優位は首の皮一枚で保っているに過ぎない。

 帝国軍のグランドアース級は、戦艦を一撃で撃沈できる強力な艦主砲を備えている。

 クリスティーナは、これを回避するために敵味方の艦隊の配置と向きには細心の注意を払っていた。


 だが、一発でも直撃を許した瞬間、戦況は一気に傾くだろう。


 それが分かっているからこそ、ジュリアスは敵陣突破という強引なやり方に出ていたのだ。

 クリスティーナがどれだけ巧みに艦隊を操っていても、このままではいずれグランドアース級の餌食となってしまうと考えて。

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