カルディエゴ星系の戦い

 共和国軍は第3艦隊司令官アレックス・バレット大将指揮の下で、カルディエゴ星系に主要戦力として計7個艦隊を集結させていた。

 カルティエゴ星系は、神聖銀河帝国軍艦隊の指揮を執るヴォルフリート・デーニッツ上級大将が直接率いる本隊と銀河共和国首都マルガリータの間に位置する星系。

 ここを突破されると、共和国は喉元に剣を突き付けられたも同然の状態になってしまう。


「ここで敵本隊を食い止め、銀河中の耳目を集める!」

 バレットは強い決意を秘めて語る。


 彼が戦場にこの星系を選んだのには1つの理由があった。

 このカルティエゴ星系の太陽は非常に不安定な状態にあり、常に強力な磁場を伴った恒星風が吹き荒れている。


 これでは通信にも悪影響が及んで各艦の連絡が困難になってしまう。

 そのため、交通の要所でありながら、これまでの戦いで戦場になる事は無かった。


 敵はネオヘル軍と教会艦隊の混成部隊であり、このような状況に置かれれば連携を欠いて数に見合った活躍ができる保障は無くなる。そこを狙ったのだ。


 共和国軍本隊が待ち受けているカルティエゴ星系に向けて進撃を続ける神聖銀河帝国軍本隊は、先行させていた哨戒機からの知らせでその事を知る。


「提督、第5偵察小隊が敵の哨戒機を発見したとの事です。おそらくカルティエゴ星系にて敵と接触するかと思われます」

 副官のクルト・フリーブルク中佐がそう報告する。


「ふん。やはりな。ここで我等を食い止めねば、後が無いからな」


「如何致しますか? 迂回路を取って敵軍を無視しましょうか?」


 神聖銀河帝国軍にしてみれば、わざわざ敵がいると分かった星系に足を踏み入れる必要は無い。

 敵が有利な舞台を戦場とするくらいなら、多少遠回りになろうとも迂回路を取った方が安全のはず。


「その必要は無い。これだけの戦力があるのだぞ。正面から敵を打ち破り、この銀河の支配者が神聖皇帝陛下である事を銀河中に示すのだ! 全艦、最大戦速! カルティエゴへ迎え!」


 こうして決戦の舞台は決まった。

 この戦いを征した側が、名実ともにこの銀河の支配者となるのだ。



 ─────────────



 およそ3時間後、両軍はカルディエゴ星系の小惑星帯にて対峙する。

 共和国軍艦隊の戦力は7個艦隊、インディペンデンス級宇宙戦艦53隻。そしてその後方に大型輸送艦15隻である。

 この輸送艦には大規模な戦機兵ファイター部隊が収容されていた。

 バレットは、教会艦隊のグランドアース級に正面から艦隊戦を挑むのは無理があると考えて、可能な限りの戦機兵ファイターを集めたのだ。


 対する帝国軍の戦力は、旧ネオヘル軍5個艦隊のグローリアス級宇宙戦艦1隻、ビスマルク級宇宙戦艦38隻。教会艦隊3個艦隊のグランドアース級宇宙戦艦20隻で構成されている。


 艦艇数だけで考えると共和国軍に分があるが、その質は明らかに帝国軍側の方が数段上回っていた。


 そこでバレットは、艦隊を小惑星の影に身を潜ませた。グランドアース級の主砲から身を守るために。


 だが、それを承知した上で、デーニッツは教会艦隊を先行させて敵艦隊に向けて砲撃命令を下す。これで敵を巣穴から炙り出すのだ。


 教会艦隊の切り札であるグランドアース級の艦主砲をもってすれば、共和国軍艦隊が盾としている小惑星を粉砕する事もできる。


「艦主砲、撃ち方始め!」


 デーニッツの指令が20隻のグランドアース級に通達された。

 次の瞬間銀河史上最強と言っても過言ではない艦砲が一斉に火を噴く。

 しかし、艦首の砲門から解き放たれたエネルギービームは、その砲門の大きさに比べて明らかに小さかった。


 放たれた閃光は、戦場を縦断して共和国軍艦隊を屠り去ろうとする。

 だが、その砲撃は共和国軍が盾として活用している小惑星すら打ち砕く事は叶わなかった。


「な、なぜだ!? なぜ、あの程度の小惑星を消し飛ばせんのだ!?」

 デーニッツは声を荒げた。


 その問いにオペレーターが答える。

「恒星より発せられる磁場の影響で、エネルギービームを形成する磁場が乱されたためにビームの出力が下がったものと思われます!」


「くッ! 奴等め。このためにこの星系を戦場に選んだのか!」


 デーニッツはようやくバレットの意図を理解する。

 彼は通信を攪乱できる事からこの地を戦場に選んで待ち構えていたのだと考えていたが、それだけではなかった。

 グランドアース級の艦主砲の火力を抑える事で、こちらの切り札を封じてきたのだ。

 そして、エネルギービームの出力が制限されたという事は、エネルギーシールドの出力も普段より低下している事になる。

 そこで敵はシールドの代わりに小惑星を盾にしたのだろう。


「という事は、敵の取る戦法は……」


 デーニッツが共和国軍の次の出方に察しが着いた瞬間、それは現実のものとなった。


「提督、敵艦隊より熱紋多数! 敵の戦機兵ファイター部隊です!」


「やはり、格闘戦ドッグファイトで勝負を着ける気か。ならば、こちらも戦機兵ファイターを出せ!」


 共和国軍艦隊より出撃したのはライトニングを主力とした部隊だった。

 しかし、その後ろにはラプターMk-IIやセグメンタタ、シュヴァリエといった旧型機まで総動員されていた。

 機体のカラーリングは共和国軍の標準色であるスカイブルー色で統一されているものの、懐かしい機体の数々には歴戦のパイロットも思わず興奮を覚えずにはいられない者が多い。


 ラプターMk-IIの性能は戦機兵ファイター同士の格闘戦ドッグファイトではやや不安だが、その火力は今でも充分である。またセグメンタタやシュヴァリエは重たい爆撃装備が搭載されていた。

 ライトニングで帝国軍の戦機兵ファイター部隊を防いで、他で帝国軍艦隊を攻撃するというのが共和国軍の作戦だ。


 帝国軍のビスマルク級からは迎撃のためにフォートレスが出撃する。

 そしてグランドアース級からはラプターMk-IIに酷似した機体が続々と出撃した。

 これは地球開発公社にてグランドアース級と共にシャーロットが設計・開発したラプターMk-III。

 如何に地球聖教の財力を以ってしてもグランドアース級という超戦艦の大艦隊を建造するのに手いっぱいで、完全な新型機を開発する余裕が無かったために、シャーロットは従来のラプターMk-IIを改良するという形で妥協したのだ。


 こうして、新型から旧型までを総動員した銀河史上でも屈指の規模の大格闘戦ドッグファイトが始まった。


 フォートレスはその高い射撃性能で長距離からの狙撃を行うが、吹き荒れる恒星風の磁場でその長射程がほぼ無効化されてしまう。

 対するライトニングは、俊敏な身のこなしで距離を詰めてビームランチャーから高エネルギービームを放ってフォートレスを撃墜した。


 このカルディエゴ星系の環境は、ライトニングとフォートレスの戦いにおいてはライトニングの方に分があった。

 しかし、フォートレスもやられてばかりではない。懐に飛び込んできたライトニングを精確な射撃で撃ち落とす。


 ラプターMk-IIIは、ライトニングと同じくラプターMk-IIをベースに開発した機体。

 だが、ラプターMk-IIIは単なる改修機であり、ライトニングは進化機。

 性能的にはライトニングの方が上なはずだが、高性能機の開発に長けたシャーロットが設計した機体なだけあってラプターMk-IIIはライトニングと互角の機動性と格闘戦能力を発揮した。


 共和国軍はこの作戦のために多数の戦機兵ファイターを動員している。

 しかし、その内の3割は旧型機であり、数に見合った戦果が出せたというわけではなかった。


 だが、それはある意味では帝国軍も同様だった。

 ラプターMk-IIIに乗る教会艦隊のパイロット達は、地球にて訓練を受けただけの新兵ばかりで実戦を持つ者はほとんどいない。

 今回が初陣というパイロットがほとんどであり、腕の未熟さから隙を突かれて撃墜されてしまう機体が相次いだ。

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