クラモンド攻防戦・後篇
ネオヘル軍と大公国軍の艦隊が防御陣形を形成しているクラモンドに、共和国軍艦隊が接近していた。
レーダーでその存在を探知したクラモンドはシールド
しかし、共和国軍艦隊の更に前方からクラモンドに迫る1隻の艦艇があった。
それは先の戦闘で消息不明になり、戦闘中行方不明(MIA)認定を受けていた大公国軍のペンシルベニア級装甲巡洋艦ブルゴーニュ。
「こちら巡洋艦ブルゴーニュ、損傷激しく、クラモンドへの緊急入港を要請する!」
クラモンドの管制室に、ブルゴーニュからの悲鳴にも似た通信が鳴り響く。
管制室の指揮を執っているブリュヌリー子爵は、味方を救出せねばという使命感から即断でシールドの解除と港の一角を開放するよう命じた。
ブルゴーニュは開放された港より発せられた牽引磁場によって自動で入港する。
「ブリュヌリー子爵、少々宜しいでしょうか?」
管制室の職員が恐る恐る声を上げる。
「何だ?」
「今、入港したブルゴーニュの損傷具合を確認するために艦を精密スキャンしたのですが、生命反応が感知できません」
「何だと!?」
その時、クラモンドを激しい衝撃が襲う。
地震の揺れに、管制室のブリュヌリー子爵も職員達も動揺して身体を硬直させた。
「入港したブルゴーニュが爆発した模様です!」
「ま、まさか、敵の罠か!?」
ここでブリュヌリーは理解した。
ブルゴーニュは共和国軍に鹵獲され、無人の特攻兵器として利用されたのだという事を。
先ほどの通信のやり取りも全ては、ブルゴーニュを介しただけで実際にはその後ろの共和国軍が行なっていたものに違いない。
共和国軍には、旧貴族連合軍に属していた者も多く在籍している。
となると、旧連合軍時代から組織形態をそのまま継承している大公国軍の機密コードや暗号はほぼ筒抜けだったのは明らかだ。
「子爵!シールド
「第25から第70までの砲塔のエネルギー出力が不安定になり、このままでは暴発の危険があります!」
「……やむを得ん。該当する砲塔へのエネルギー供給を停止。砲兵は全て引き上げさせろ。それから被害区画も全て閉鎖だ!」
クラモンドが混乱の渦中に叩き落された中、ネオヘル軍総旗艦サンクトペテルブルクでは迫り来る共和国軍との戦闘を間近に緊迫した空気に包まれている。
「エディンバラの連中は何をしているんだ!?」
「レナトゥス書記長、あれではクラモンドはかえって足手纏いになりますぞ」
「……仕方がない。艦隊をクラモンド前面に展開させ、敵軍を近付けるな。クラモンドが落ちれば、その下のエディンバラ・シティも敵の手に落ちる。そうなってはこれまでの苦労が徒労に終わってしまうぞ」
レナトゥスは艦隊を、クラモンドを守る盾になるように展開した。
クラモンドは純粋な要塞ではないため、エネルギーシールドが無い状態で砲撃を受けると簡単に大打撃を被ってしまう。そのリスクは何としても回避しなければならないと判断したのだ。
ネオヘル軍艦隊が陣形の再編成を大急ぎで進める中、共和国軍艦隊はジュリアスの命令で砲撃を始めた。
これに対してレナトゥスも反撃を命じる。
激しい砲火の応酬が繰り広げられた。強烈な光と熱量を伴ったエネルギーが飛び交い、艦を覆う半透明なエネルギーシールドに命中すると拡散して無力化する。
しかし、何発ものビームを受けると、次第にシールドは変色して最後には消失。
艦の装甲にビームが襲い掛かり、高熱で重厚な装甲が焼き尽くされる。
思わぬ奇襲で先手を取られたネオヘル軍であったが、ビスマルク級宇宙戦艦を密集させて築き上げた防御陣は強固だった。
共和国軍はやや攻め手に欠けると言った具合だが、旗艦インディペンデンスで指揮を執るジュリアスは自信に満ちた笑みを崩さなかった。
「ここまでは俺の作戦通りだ。敵艦隊はクラモンドの前面に展開した。これでクラモンドは実質戦力外だぜ」
「流石です、ジュリアス様!」
まるで太鼓持ちのようにジュリアスの傍らで声を上げるネーナ。
その言葉にジュリアスが機嫌を良くしていると、険しい顔をしてクリスティーナがジュリアスに視線を向けた。
「本当に大変なのはここからでしょう。敵は完全に守りに入っています。あの重厚な布陣をジュリーの策で突破できるのかどうか」
「何だよ。クリスは俺の策を疑ってるのか?」
「そ、そうではありませんよ。信じているからこそ、この作戦を了承したのではありませんか」
「なら、大船に乗ったつもりで見ててくれよ! そろそろ時間だぜ!」
ちょうどその時だった。
ネオヘル軍艦隊の後方に多数の熱源が発生のをレーダーが感知した。
高速移動するその物体の正体はミサイルである。
突如出現したミサイルは、ネオヘル軍の各艦艇を背後から襲い、艦尾のエンジン部を破壊していった。
エンジンが破壊されて航行困難に陥った艦は、戦場を漂流して僚艦に衝突するなど味方の足を引っ張る事態となった。
「あはは!! どうだい!? うまくいっただろ! 艦隊を密集させたところに混乱を作ってやれば、それがどんなに小さなものでも、勝手に大きく膨れ上がる。それに敵が密集していれば、潜宙艦1隻でもより多くの敵艦を射程に捉える事ができる」
「しかしながら元帥閣下、その混乱もあくまで一時的なものです。こちらから更に圧迫しなければすぐに立て直されますよ」
人目も憚らずに大はしゃぎしているジュリアスにハミルトンが声を掛ける。
「勿論分かってるさ。全艦隊、全速前進! ライトニング部隊も全て出撃だ! 敵の戦線を一気に突き崩す!」
共和国軍艦隊はジュリアスの命令を受けて全面攻勢に打って出た。
艦隊より飛び出したライトニング部隊は、その機動力と俊敏性を活かしてネオヘル軍艦隊の懐に入り込み、敵艦の装甲にビームランチャーの高エネルギービームを叩き込む。
特に艦隊の懐に飛び込んできたライトニングを射撃しようとすると、その敵機の背後にいる味方への誤射の危険性から戦術AIの安全プログラムが作動して射撃を止めてしまう、と言った事も発生し、これがライトニング部隊を大きく利する事になる。
この事態を受けて、総旗艦サンクトペテルブルクのレナトゥスは艦隊を後退させて陣形の再編を図る。
こうして戦線は徐々に徐々にとクラモンドへと近付いていた。
その戦闘中の最中、クラモンド管制室にマザラン男爵と銃を手にした十名程度の兵士が押し掛けた。
「な、何の騒ぎだ!?」
突然の事態に管制室の指揮を執っているブリュヌリー子爵は思わず席から立ち上がって声を上げる。
「どうか落ち着いて下さい、ブリュヌリー子爵」
マザランは後ろからブリュヌリーに拳銃を突き付ける。
「……マザラン、貴様、以前から胡散臭い奴だとは思っていたが、まさか敵と内通していたのか!?」
「内通? 馬鹿な事を言わないでくれ、子爵。私の行動は今も昔も一貫しているよ」
そう言って微笑むマザランは引き金を引いてブリュヌリーを射殺した。
それに呼応するように、マザランと共に管制室に突入した兵士達も職員室を次々と撃ち殺して管制室を制圧する。
「よし。あまり時間がないぞ。急いで動力炉にアクセスしろ」
「「了解!!」」
兵士達は職員の亡骸をゴミのように蹴飛ばして操作パネルに手を伸ばす。
マザランは管制室で最も大きいメインモニターに映し出された戦況を見て小さく笑みを浮かべる。
ネオヘル軍はクラモンドに程近い宙域にまで追い込まれ、共和国軍もすぐそこまで迫っていた。
「ちょうど良い頃合いだな」
「男爵閣下、全ての準備が整いました」
「よし。ご苦労であった。……銀河帝国とアドルフ大帝陛下に、栄光あれ」
マザランは手前の操作パネルの点滅しているスイッチを押した。
その瞬間、クラモンド全域に警報が鳴り響く。
だが、クラモンド内部にいる者達がその警報の意味を理解する前に、彼等の身体は超高温の爆風で焼き尽くされるのだった。
クラモンドの中枢にして、動力の根幹を成す
凄まじい勢いの爆発は、クラモンドを内部から一瞬にして吹き飛ばし、鉄の塊を周囲に撒き散らす。
その様は惑星エディンバラの地上からは流星群の如く美しく見えた。
しかし、クラモンド周辺に展開していたネオヘル軍艦隊、そしてそれに迫る共和国軍艦隊はその流星群という名の瓦礫の雨に晒される事になる。
小さな瓦礫の一つや二つであればエネルギーシールドが艦体を守ってくれるが、大きな瓦礫であったり、無数の瓦礫が一度に飛来した場合はシールドが耐えられない。
総旗艦サンクトペテルブルクにも一際大きな瓦礫が砲弾の如く叩き付けられた。
シールドは消失し、エンジン部に大きなダメージを負ってしまい、サンクトペテルブルクは航行困難に陥る。
「書記長、この艦はもうダメです。どうか脱出シャトルへ」
幕僚の1人がそう声を掛けたその時。
さらに別の瓦礫がサンクトペテルブルクに激突。その衝撃で艦体は内部から木っ端微塵に吹き飛び、レナトゥスはその生涯を閉じるのだった。
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