逃亡劇
マザラン男爵の声明発表によって、ジュリアスとクリスティーナは危機的状況に陥った。
なぜなら、エディンバラ大公国とその周辺勢力が結成した“エディンバラ協定同盟”がエディンバラ大公夫人暗殺犯として共和国を名指しし、明確に敵対を宣言したからだ。
そのエディンバラ協定同盟の勢力圏の只中にいる彼等の身が安泰であるはずがない。
先日の爆発事故を受けて、ジュリアス達は念のためにクラモンドの港から出港し、クラモンド付近の宙域に艦を置いていた。
そのため、声明を見るやジュリアスは即座に現宙域からの撤収を決意し、惑星エディンバラの重力圏外に待機していた共和国軍第1艦隊と合流。
安全圏へと離脱すべく移動を開始した。
第1艦隊は今、基地建設のために動いていたシオボルト少将の部隊を救出すべくアリューソルト星系に向かっている。
そしてミッドファル星系の戦い以後、ネオヘル軍と対峙状態にある第2艦隊と合流して共和国領まで撤退する。
それが今の基本方針だった。
「ジュリー、やはりあそこで逃げるのは得策とは思えません。これではまるで濡れ衣を認めたようなものではありませんか?」
クリスティーナは自分達の身の潔白を証明するためにもクラモンドに残るべきだと主張した。
しかし、ジュリアスはそれを聞き入れずに艦隊を出向させていたのだ。
「あのマザランって奴はおそらく俺達に罪を擦り付けるのが狙いだ。となると、いくら正論を並べたとしても話し合いで解決するのは絶望的だと思う。それにここは連中の掌の上。今のままじゃネオヘルへの手土産にされるだけだぞ」
「ですが、濡れ衣を着せられておめおめと逃げると言うのは、」
「そりゃそうだが、連中だって明確な証拠を提示してきたわけじゃない。外交的な手段も含めて冤罪を晴らす手はいくらでもあるさ」
ジュリアスの言葉にクリスティーナは僅かに驚いたような表情を浮かべる。
「ど、どうしたんだよ?」
「いえ。ジュリーは普段は無鉄砲で、無茶な事ばかり言いますが、たまに冷静な策士のような一面を見せるなと思いまして」
「むー!クリス、それは俺を馬鹿にしてると捉えて良いのかな?」
ジュリアスは頬を膨らませて、拗ねた子供の様な態度を取る。
「ち、違いますよ。褒めているんです。だから、そんな顔をしないで下さい」
クリスティーナがジュリアスの機嫌を取っているその時。
インディペンデンスの艦橋に警報音が鳴り響く。
「正面に艦影を確認!数3!熱紋照合、旧連合軍のマジェスティック級宇宙戦艦です!」
索敵オペレーターからの報告を耳にして、まずはハミルトン少将が口を開く。
「どうやら大公国軍の艦隊のようですな。しかし数からして追撃部隊ではなさそうです。如何なさいますか?」
「敵は正面から向かってきてるんだろ。だったら回り道をしてる時間も無いし、一気に打ち破るぞ!戦闘用意だ!」
意気揚々としたジュリアスの命令に、クリスティーナは溜息を漏らしながら「やっぱりジュリーは無鉄砲ですね。ここは隠密行動に徹するべきでしょうに」と呟く。
「まあ、そう言うなって。このまま追撃されても面倒だしよ」
共和国軍は戦艦7隻。対する大公国軍は戦艦3隻。
このまま正面から戦えば勝利は共和国軍側に喫するのは自明の理。
「妨害電波を出して通信を妨害しろ。通報されて敵にこっちの居場所を知られるのはマズい」
自分達の現在位置と針路が惑星エディンバラに伝われば、無事に安全圏へと離脱できる可能性が大きく下がってしまうのは疑いようも無い。
仮にここで目の前の大公国軍艦隊を壊滅させれば、艦隊が消息不明になった事でいずれ惑星エディンバラも異変に気付くだろう。
しかし、それには少ならず時間を要し、その間にジュリアス達は現宙域を離脱して行方を眩ませる事ができる。
「敵艦隊より
「旧式のシュヴァリエなんてライトニングの敵じゃない。が、このまま
ジュリアスは艦艇数の有利を最大限に活かすために、あえて敵軍のシュヴァリエ隊を無視して正面突破を図る策に出た。
元々シュヴァリエの対艦性能はあまり高くない。
対空性能の充実化も図られている次世代型戦艦であるインディペンデンス級宇宙戦艦の前では致命的なダメージを与える事は不可能と言って良かった。
インディペンデンス級からの対空砲火と直掩機のライトニング部隊の応戦で、シュヴァリエは艦隊に取り付く事すらままならなかったのだ。
そうしてシュヴァリエをハエ叩きのように軽く蹴散らし、次は艦隊同士が艦砲を撃ち合う砲撃戦を展開する。
「中央の艦に集中砲撃!密集隊形のまま突撃だ!」
ジュリアスは勇猛果敢な指揮ぶりを披露した。
だが、大公国軍艦隊もただやられてばかりではいない。
後退して適度に距離を保ちながら共和国軍艦隊の攻撃を受け流し、被害を最小限に留めようとしている。
このまま戦いが長引くと、いくら妨害電波を出しているとはいえ異変に気付いて他の大公国軍が援軍に駆け付ける可能性が高くなってしまう。
その事が気掛かりのジュリアスは徐々に焦りを覚える。
しかしその時だった。
大公国軍艦隊が突如、背後からの砲撃に晒され、中央の艦が爆沈したのだ。
「な、何だ!?」
突然の事に驚いたジュリアスはすぐにも報告をオペレーターに求める。
「こ、これは、味方です!味方の艦隊です!」
妨害電波の影響で確認が遅れたが、それはグランベリー大将の第2艦隊だった。
前後から挟み撃ちにされた大公国軍艦隊は呆気なく全滅した。
第1艦隊と第2艦隊が合流し、旗艦インディペンデンスの艦橋のメインモニターにグランベリーの姿が映し出される。
「シザーランド元帥もヴァレンティア元帥もご無事で何よりです」
「助かったよ、グランベリー大将。でも、どうしてこんなところにいるんだ?」
「クラモンドの一件を聞いて、あのままネオヘル軍を対峙したままってわけにもいかないと思って元帥閣下達を合流しようと思ったんです。それで閣下達が通るであろう航路を計算して先回りしたというわけです」
「流石はグランベリー大将だな」
「それでこれからはアリューソルト星系に向かうんですよね?」
「ああ。あそこで戦っている友軍を回収して一度戦線を立て直す。そんでもってエディンバラとネオヘルが本格的な共同戦線を張る前に叩くぞ!」
「まったく。簡単に言ってくれますね」
ジュリアスの隣に立つクリスティーナはやや呆れた様子で溜息を吐いた。
「でも、連中が勢いづく前に出鼻を挫く必要はあるだろ?」
「それはそうですが・・・」
「まあいずれにせよ。まずはこの窮地を抜け出す事です。今はそれに専念しましょう!」
グランベリーの言葉に、ジュリアスとクリスティーナも同意した。
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