ミッドファル星系の戦い・中篇

 エディンバラに向かう道中、共和国軍艦隊撃滅の命令をガウェイン元帥より受けたネオヘル軍艦隊は、ネオヘル軍でも指折りの猛将として知られるシュニーヴィント大将が率いる3個艦隊。戦艦23隻で構成されている。


「エディンバラを脅しに行くだけのつまらない任務だと思っていたが、先の戦いの雪辱を晴らす絶好の機会が巡ってくるとはな。俺は運が良い」

 シュニーヴィント艦隊旗艦ロートブルクの艦橋にてシュニーヴィント大将は意気揚々と語る。

 彼は先のスバロキアの戦い時に、キャメロット消滅で浮足立つ帝国領へと攻め込む侵攻軍の一軍を率いていた指揮官だった。

 しかし、アルヴヘイム要塞の陥落により作戦は中止となり、彼自身は負け無しだったというのに結局敗軍の将となってしまった事を不服に思っていたのだ。


「敵艦隊をいち早く発見して先手を取る。反撃の隙を与えずに完膚なきまでに叩き潰してやるのだ!」


 シュニーヴィントは哨戒機による索敵網を万全に敷いた状態で艦隊を進撃させている。

 彼は猛将と評される人物ではあったが、ただ猪突猛進なだけの指揮官ではなかった。


 そんな中、哨戒機の1機から敵艦隊発見の報がもたらされた。

「敵艦隊をミッドファル星系にて捕捉したとの事です! 艦艇数はおよそ14隻、2個艦隊規模です!」


「よし! ミッドファル星系ならここからでも近い。それにこちらの方が戦力が上だ。全艦隊、直ちにミッドファル星系に針路を向けろ!」


 シュニーヴィントがそう指示を飛ばすと、幕僚の1人が意見を述べる。

「提督、哨戒機の見つけた敵艦隊が敵の総数という保証はどこにもありません。ここはいきなり艦隊戦に臨むより、爆撃装備のフォートレスによる強襲作戦を仕掛けて、敵艦隊に多少なりとも損害を与えた上で艦隊戦を仕掛けて艦隊戦力を温存すべきではないでしょうか?」


 フォートレスは、射撃戦に長けた無人戦機兵ドローンファイターだが、幕僚の言う爆撃装備とは、標準装備の大型ビームバズーカよりも更に大きいタイプのビームバズーカ、背部には宇宙船用の大型スラスターと増槽を装備した機体である。


 このビームバズーカは、戦艦のエネルギーシールドも強化装甲も易々と貫く対艦兵器とも言える武器。

 しかし、フォートレスの全長よりも更に長い砲身であり、ただでさえ小回りの利かないフォートレスの機動性を更に悪化させてしまう。

 そのため、格闘戦ドッグファイトでは致命的な弱点となり、とても標準装備として使えるような代物ではなく、今回のように艦隊に直接攻撃を仕掛けるような状況でのみ装備されるようになっていた。


 機体の機動性を殺してしまうという点では、大型スラスターでも同様の事が言えた。

 無人戦機兵ドローンファイターであるフォートレスは、他の戦機兵ファイターとは違ってパイロットの負担を考慮してあまり行われない戦機兵ファイターによる星間航行が何の問題もなく可能だった。

 そのため、他の戦機兵ファイターではできないような長距離から出撃して爆撃を行う事が可能であり、ネオヘルは艦隊戦力を温存しつつ、敵にダメージを与えるという作戦も実行できた。


「……良かろう。マルシャル艦隊及びリュッチンス艦隊にフォートレスを爆撃装備に換装して出撃させる。本艦隊のフォートレスは敵の襲撃に備えて待機だ」


 シュニーヴィントの指令により、マルシャル艦隊及びリュッチンス艦隊の所属艦の格納庫では整備兵達が急いで装備の換装作業を始めた。

 およそ5分に及ぶ作業時間を終えて、各艦から続々とフォートレスが出撃する。


 背部にはまるで翼を広げた鳥を連想させる大きなスラスターがあり、両腕には機体の全長を超える長い砲身のビームバズーカが握られていた。


 これ等のフォートレスは両艦隊司令部の管制システムからの指令に従って編隊を組むと、ワープ航法でミッドファル星系に向けて飛翔する。



─────────────



 ネオヘル軍の哨戒機の報告通り、共和国軍艦隊はミッドファル星系を航行していた。


 ネオヘル軍とは違って未だに敵艦隊の発見には至っていないが、ネオネルの哨戒機の影を捉える事には成功しており、敵が近いことだけは分かっていた。


「警戒レベルを上げなさい。いつ敵が現れてもおかしくないんだからね!」

 グランベリーの表情にも緊張が走っている。


 その時だった。

 艦隊の周辺を直掩機の1機が発している識別信号が突如消滅した。

 それはほぼ間違いなく、敵機に撃墜された事を意味している。


「戦闘用意!」


 グランベリーがそう指示を出したのとほぼ同時にレーダーでも高速で艦隊に迫る反応を感知し、警報がグラディエーターの艦内に鳴り響く。


「敵機よりエネルギービーム来ます!」


 共和国軍艦隊に無数のエネルギービームの閃光が飛来する。

 艦の横をかすめて通り過ぎるビームもあれば、艦に直撃してエネルギーシールドと装甲を突き破るビームもあった。

 まだ距離があったので、有効打と言えるようなダメージを負った艦は無かったが、だからと言って安心はできない。


「敵が来るわよ! 弾幕を張りなさい! 後衛部隊は戦機兵ファイターを出撃!」


 グランベリーはそう指令を出すが、敵襲に焦った第6艦隊所属の戦艦ヨークの艦長レスリー中佐は自艦が最前衛に布陣しているにも関わらず、艦内配備のライトニング部隊を出撃させようとした。

 戦機兵ファイターを収容している格納庫のハッチが開き、戦機兵ファイターが出撃しようとしたその時。


 接近するフォートレス爆撃部隊が第二射を放った。

 先の第一射目よりも距離が狭まった事で、先ほどよりも精確な射撃が艦隊に襲い掛かる。


 ハッチが開いた格納庫から今にも飛び立とうとしたライトニングに、ビームが命中して爆発。それは格納庫に収容されている他のライトニングまで巻き込まれて誘爆を起こし、その凄まじい破壊力は戦艦ヨークを内側から大破させてしまった。


「ヨークは一体何をしているの!? 前衛が敵に急所を晒してどうするのよ?」

 戦艦ヨークが沈む様を画面越しに見ていたグランベリーは呆れた様子でそう言い放つ。


「閣下、前衛部隊の被害は甚大です」


「今は立て直している時間は無いわ。後衛部隊から出撃したライトニング部隊で弾幕を強化してちょうだい」


 その間にも第三射が艦隊を襲い、艦隊の混乱に更に拍車を掛ける。

 そして透かさずに、フォートレス爆撃部隊が艦隊の頭上を通過した。


 艦隊からの分厚い対空砲火に晒された多くのフォートレスは撃墜。

 基本的に一撃離脱戦法で直線的にしか移動できない爆撃装備のフォートレスは、艦隊からしたら軌道追跡が容易であり、一旦捕捉してしまえば恰好の標的だった。


「敵フォートレス部隊、我が艦隊の直上を通過!」


「その後を可能な限り、追跡しなさい! その先に敵艦隊がいるはずよ!」


 グランベリーの予測通り、フォートレス爆撃部隊は設定されたプログラムに従って艦隊に帰艦しようとしていた。

 その退却ルートを追尾すると、その先にネオヘル軍艦隊を発見する。


「追尾していた哨戒機が敵艦隊を発見! この星系の第4惑星イースタン付近の宙域です!」


 オペレーターの報告を受けたグランベリーは直ちにその宙域へと急行するよう命令を下す。

「艦隊の再編は移動しながら行いなさい! 敵の戦機兵ファイターは大半が格闘戦ドッグファイトには向かない爆撃装備のまま。今なら敵の防衛線を容易に突破できるわ!」


 グランベリーはどちらかと言うと猛将タイプの傾向がある指揮官であり、敵艦隊の所在地を知った時の行動は迅速なものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る