ガラティア星系の戦い・前篇
ジュリアス率いる第1艦隊こと
同じくそこへ向かうネオヘル軍は、ローゼンベルグ艦隊と呼ばれる艦隊だった。
ネオヘル軍中将エルンスト・ローゼンベルグの指揮する艦隊で、ビスマルク級宇宙戦艦9隻で構成されている。
ビスマルク級宇宙戦艦は、旧帝国軍の主力艦ドレッドノート級宇宙戦艦の設計をベースに、ネオヘルに合流した旧帝国軍の技術者が最新技術を投じて建造した艦である。
全長は2000mあり、艦の大型化が図られたという点では、共和国軍のインディペンデンス級宇宙戦艦と共通している。
しかし、あちらがかつてジュリアスが帝国軍時代に提唱した電撃戦構想を体現するかのように、
しかし、大型の艦砲を搭載して、対艦戦闘では無類の強さを発揮する。また対空火器も充実しており、押し寄せる敵機を蹴散らせる重厚な弾幕を張る事が可能。
「デーニッツ上級大将直々のご命令だ。共和国軍の背後を取り、奴等を殲滅する。そうすれば、この辺り一帯の星系は我等ネオヘルの物になる」
ローゼンベルグ艦隊旗艦グルーテンの艦橋にて、そう高らかに語るのは艦隊司令官ローゼンベルグ中将である。
25歳と若く、肩まで掛かる長めの緑色の髪をした美男子だった。
「しかしながら司令官閣下、共和国軍は既にこちらの方面にも迎撃部隊を差し向けている可能性が高いです。ここは哨戒機を増やして、索敵にもっと力を注がれるべきかと」
「そんな悠長に構えてなどいられるか。我が艦隊が1分1秒でも早く動けば、それだけ勝利に近付くのだぞ」
ネオヘルは、ローエングリン総統という指導者の死によって生じた混乱の最中に発足されたという経緯もあって、今の形に落ち着くまでは数々の権力闘争と内部分裂を繰り返していた。
現在、ネオヘルの指導者であるレナトゥス書記長が自身の政権を固めるまでに経験豊富な指揮官達は、これまでの闘争の中でほとんどが失脚するか暗殺されている。
そのため、ネオヘルの指揮官の多くは、実戦経験の乏しい若年将校が占めていた。
「レナトゥス書記長がこの銀河に新たな秩序を構築される。その日を目指して我等は戦っているのだ。今更何を脅えている?」
「仰る事は尤もですが、脅えるのと無謀は違います」
「もう良い。全艦、最大戦速。予定通りの針路を通れ。敵が現れるというのなら蹴散らすだけだ」
ローゼンベルグ艦隊の任務は確かに迅速さが求められるものであり、今後の戦局にも影響する重要な役目であった。
その重圧がローゼンベルグに焦りを生じさせていたという一面は否めないだろう。
その時だった。
艦橋に警報が鳴り響き、索敵オペレーターが慌てた様子で声を上げる。
「5時方向に熱源多数! これは、ミサイルです! ミサイル、多数接近!」
「何だと!?」
周囲に敵が存在しない状況で突然のミサイル攻撃。これには誰もが驚き、迅速に対応する事は困難だった。
ミサイル群はローゼンベルグ艦隊に襲い掛かり、艦に命中しては信管が作動して爆発を引き起こす。
「グラウカ、機関部に被弾! 航行に支障有りとの事です!」
「ユゴニス、主砲が損傷! ビームのエネルギーに暴発して炎上中!」
「ミサイル着弾の影響で、プリムラの針路が逸れました! このままでは本艦と衝突します!」
「回避せよ。……で、敵の姿は捕捉できたのか?」
「い、いえ。敵影、どこにもありません!」
「くそ。自走式機雷か? それともステルス艦か?」
敵が捕捉できないローゼンベルグは、ひとまず各艦にエネルギーシールドを展開するよう指示を出した。
ミサイルの威力は、エネルギーシールドを張っておけばそれほどの脅威ではないレベルだった。
仮に光学迷彩などで姿を眩ませている敵がいるというのなら、次にミサイル攻撃があれば今度はそのミサイルの発射位置や軌道から敵の所在座標を割り出せば良い。
ローゼンベルグはそう考えたのだ。
光学迷彩は姿をほぼ完璧に隠す事ができる便利な技術ではあるが、汎用性及び量産性は今でも低い。
光学迷彩展開中はビーム兵器が使用できず、攻撃手段はかなり制限される。
また、エネルギーシールドも使えなくなるため、一発でも直撃を受けると命取りになってしまう。
そして最後に、熱源を探知されないように推進装置を使うわけにはいかず、移動は慣性航行に限定される。そのため、一度位置が知られると、コンピューターによる計算で容易に座標が特定される。
それ等の要因もあって、光学迷彩は奇襲においては有力な技術だが、それ以外ではあまり活躍の場が見込めないというのが現状だった。
ローゼンベルグ艦隊が陣形を密集させて、目に見えない敵の攻撃を備えている最中、ジュリアス率いる第1艦隊が姿を現した。
「くそ! 嫌なタイミングで現れやがって!」
─────────────
第1艦隊は各艦の間隔を広げながら最大戦速でローゼンベルグ艦隊に迫る。
密集陣形を取るローゼンベルグ艦隊を包囲しようというのがジュリアスの狙いだった。
「敵は混乱している。この隙を逃すな!」
高速でローゼンベルグ艦隊に迫ると、有効射程まで充分に距離を詰めたところで一斉射撃をお見舞いした。
そこへ透かさず、ジュリアスは
その命令を受けて、各艦の格納庫から次々とスカイブルー色の
これはラプターMk-IIをベースにして開発された共和国軍の新型機ライトニング。
外見はカラーリングが異なる点を除けば、かつてのジュリアスの専用機ラプターEXに類似している。
しかし、その中身はラプターMk-IIよりも更に基本スペックと汎用性の向上に重点が置かれた設計になっており、共和国軍の
ライトニング部隊の出撃から一歩遅れて、ローゼンベルグ艦隊からも
こちらは、かつてラプターシリーズの開発者であるシャーロット・オルデルートがラプターとは別に設計図を作成し、ネオヘル技術部がそれを開発した機体 《フォートレス》である。
ラプターやセグメンタタと言った従来の
敵のビーム攻撃に耐える強靭な装甲とラプターのビームランチャーをも上回る火力を持つ大型ビームバズーカを有する。
その一方、機動性はラプターシリーズに大きく劣っており、戦術シミュレーションでは俊敏に動き回るラプターに対応し切れず撃墜されるという結果が出たため、シャーロットも没にしたという経緯を持つ。
しかし、ネオヘル技術部はその問題を、
砲撃戦に特化した戦術プログラムを搭載し、人間離れした正確な射撃でラプターを近付けないようにする。
これにより、フォートレスは驚異的な戦闘能力を発揮できるようになった。
また、ドローンの導入を後押しした要因として、パイロットを育成するための労力と時間を捻出する余裕が無かったというネオヘル内の問題も存在した。
共和国軍のライトニング部隊とネオヘル軍のフォートレス部隊は、正面から衝突し、激しい砲火を交わす。
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