ガラティア星系の戦い・後篇

 練度の高い優秀なパイロット達が操縦するライトニングは、攻撃編隊を組みながら真空の中を縦横無尽に飛び回る。

 そして隊長の指示で一斉にビームランチャーから高エネルギービームを放ってフォートレス部隊を攻撃した。


 宇宙戦艦の装甲すらも容易く貫きそのエネルギービームは、フォートレスの分厚い装甲を一瞬で焼き尽くして機体を爆散させる。


 一方、フォートレスはライトニングに比べると俊敏さには欠けるが、ライトニングを上回る長射程と精密射撃を駆使して確実に敵機を撃墜していく。


 双方は一進一退の攻防を繰り広げるが、戦機兵ファイターの数はライトニングの側に分があり、戦況はライトニング部隊の方が優勢となりつつある。


 その戦況を旗艦インディペンデンスの艦橋から見守っていたジュリアスは何やら落ち着かない様子で司令官席に腰を下ろしている。


「ジュリアス様、もしかしてご自身も出撃したいとお考えですか?」

 一応、“もしかして”と付けたものの、ジュリアスの性格をよく知るネーナにはその確信があった。


「え? そ、そ、そ、そんなわけあるわけないだろ! まったく、ネーナも冗談きついぞ~」


 明らかに動揺するジュリアス。

 その挙動が全てを物語っていると言える。

 しかし、ネーナはあえてそれに気付かないふりをした。


「ふふ。そうですよね。ジュリアス様も昔とは違いますからね~」


「お、おう! 勿論じゃないか。あはは~」


 ジュリアスとネーナがそんなやり取りをしていると、艦隊参謀長ルイス・ハミルトン少将が2人の間に割って入る。


「閣下、戦況はこちらが有利とは言っても、今のままでは味方の損害もかなりの物になってしまいます。ここは増援を出すべきかと」


「ぞ、増援? あ! そうか。増援か! そうだな。よし。そうしよう! でも、残った部隊はほんの僅かだからな~。大した数が送れない。こうなったら仕方がない。俺が出撃して増援部隊を率いるとしよう! うん! そうしよう!」


「え? ちょ、ジュリアス様!?」


「というわけだ。ハミルトン少将、後の指揮は任せるぞ!」


「了解しました」


 ハミルトンが返事を言い終えるより早くジュリアスは席を立つ。

 そして早々と艦橋を後にした。


 何も言う間が無く去ったジュリアスの背を見送ったネーナは大きくため息を吐いた。

「ジュリアス様を甘やかしてもらっては困りますよ、少将! ただでさえ、欲に弱い方なんですから!」


「いや何。ここで欲求不満を溜め込まれて後で手に負えなくなるくらいから。いっそここで発散してくれた方が良いと思ったのでね。それに元帥閣下が出撃すると、前線のパイロット達の士気が飛ぶように上がる。戦いを早めに終わらせるためにも、ここは元帥に一肌脱いで貰った方が良いと考えたのも事実だよ」


 副参謀長アントニー准将もハミルトンの意見に同意する。

「そうだよ、ネーナちゃん。元帥は後ろで大人しく椅子に座っていられるような方じゃないからね」


「皆して元帥に甘いんですから」

 そう言って、ネーナは腕を組みながらそっぽを向く。


「ふふ。元帥が最前線で活躍すると、人一倍嬉しそうにはしゃぐのは一体誰だったかな?」


 ハミルトンの指摘に、ネーナは身体をビクッと反応させた。


「そ、それとこれは話は別です!」


 顔を真っ赤にして声を上げるネーナに、艦橋の皆は笑みを浮かべる。



 それからしばらくして、ジュリアスは自身の専用機であるライトニング・カスタムに乗り、1個中隊を引き連れて出撃をした。


 通常のライトニングとは細部の作りが異なっているものの、大まかなシルエットは大差ない。

 しかし、かつての愛機ラプターEXと同じくハイスペックを追求した機体であり、パイロットには高い技量を要求するじゃじゃ馬だ。

 その甲斐もあって総合性能は通常のライトニングのおよそ倍という数値もある。

 と言っても、この機体の設計を担当したのは、シャーロットのようにパイロットの負担を無視するような人間ではなかった。


 パイロットに過度な負担を掛けないようにある程度は配慮が成された仕様になっており、ジュリアスの体感的にはラプターEXよりもやや性能が劣ると感じた。


 出撃したジュリアスは、ライトニング・カスタムの性能を遺憾なく発揮して戦場を流れ星のように高速で飛翔する。


 フォートレスは射撃戦タイプの戦機兵ファイターであり、その動きはライトニングに比べると鈍く見えた。

 そんなフォートレスをジュリアスは、的確な射撃で次々と撃墜していく。

 フォートレスからも多数のエネルギービームで反撃を受けるが、最大加速で飛翔するライトニング・カスタムには掠りもしなかった。


 その勇猛果敢な戦いぶりに、他のライトニングのパイロット達は最初はあまりの技量に唖然とし、次の瞬間には歓喜の声を上げてジュリアスの後に続く。


 格闘戦ドッグファイトは、一気に共和国軍側の優勢となる。

 これを受けて、ローゼンベルグ艦隊旗艦グルーテンでは戦機兵ファイター部隊を撤退させるべきという意見が出始めた。


「今、戦機兵ファイターを呼び戻せば、敵のライトニングが艦隊に殺到するぞ。そうなっては我が艦隊は全滅だ」

 ローゼンベルグはそう言って幕僚の進言を退ける。


 戦機兵ファイターはこの時代、艦隊決戦における補助的な役割から、宇宙戦艦に並ぶ戦場の主力という地位を確立しつつあった。

 ラプターシリーズの登場から技術革新を迎えた戦機兵ファイターと違って、宇宙戦艦の技術発展は微々たるものだったのだ。


「で、ですが、このままではいずれフォートレス部隊は敵に突破されてしまいます」


「その通りです。そうなる前にフォートレス部隊と艦隊とで強固な弾幕を形成して応戦すべきではありませんか?」


「……」

 ローゼンベルグは決断しかねていた。

 その僅かな隙に戦況はさらに悪化する。


「敵部隊がフォートレス部隊を突破!本艦に真っ直ぐ向かってきます!」

 オペレーターの1人が声を上げる。


 それはジュリアスのライトニング・カスタムだった。フォートレス部隊の陣形の一角に穴を空け、後続のライトニング部隊がその傷口を開いて敵陣を突破したのだ。


「防空陣形を取れ! 弾幕を張って敵を近付けるな!」


 しかし、時すでに遅し。

 ライトニング部隊の動きは速く、ローゼンベルグ艦隊が迎撃態勢を整える前に攻撃を仕掛ける。


 懐に飛び込んだライトニングは、ビームランチャーから高エネルギービームを放ってビスマルク級宇宙戦艦を攻撃した。

 重装甲で覆われたビスマルク級と言えども、艦砲並みの火力を持つビームランチャーをまともに受ければタダでは済まない。

 艦橋や機関部を破壊してしまえば一撃で戦艦を無力化、もしくは撃沈する事が叶う。


「ええい! 退却! 退却だ!」


 しかし、もはや逃げ場などない。

 ほんの数秒後、ライトニングの高エネルギービームが旗艦グルーテンの艦橋を貫き、ローゼンベルグもビームの熱に焼かれて一瞬で灰と化した。

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