共和国軍の軍制改革
惑星トラファルガーに残留していたトーマスとクリスティーナは、星中で戦勝祝賀会が催した。これまでの事で住民達の間に広がる不満と鬱憤を、勝利への余韻と相まってお祭りで発散させようという狙いがあった。
大統領府でも大広間にて共和国の要人や共和国に逃げ込んだ諸侯が集って祝賀会を開いた。
四方を純白の壁に覆われたこのお広間には、各地から集った貴族達が手土産にと献上した豪華な調度品や室内装飾品があちらこちらに並べられて華を飾っている。
参加している諸侯の勝利による高揚も相まって、その賑わいはかつて帝都キャメロットにて頻繁に見られた旧帝国貴族達による晩餐会のようであった。
この祝賀会には、ジュリアスの
そんな彼女に礼服を着たトーマスが声を掛ける。
「ネーナちゃん、どうしたんだい? そんな暗い顔をして」
「トーマスさん。いえ。その、」
「あれ? ジュリーはどこにいるの?」
てっきりネーナと一緒にいるものと思っていたジュリアスがいない事に気付いたトーマスは辺りを見渡す。
ネーナを1人残して、使用人達が運んできた豪勢な料理を食べ漁っているのだろうと思ったのだ。
「そ、それが、先ほどウェルキン提督と話があると言って出て行かれました」
「ウェルキン提督と?」
「はい。私もお供したいと言ったのですが、ジュリアス様に私はここでパーティを楽しんでくれと言われまして」
「まったくジュリーは。ネーナを1人置いて何やってるんだか」
ネーナが暗い顔をしていた理由を知り、トーマスはやや呆れた表情で溜息を吐く。
しかしウェルキン提督と一緒という事は、何かあったのだろうかと思わずはいられなかった。
「ジュリーは僕が探してくるから、ネーナちゃんはもうしばらくここで待っててくれないかな?」
「あ。いえ。ジュリアス様はきっと大事な用で席を外したので、お邪魔したくないのです。ですからどうか、そっとしておいてもらえないでしょうか?」
「……分かった。ネーナちゃんがそこまで言うなら。ジュリーは本当に良い子を身内に持ったものだよ」
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今回の主役とも言えるジュリアスとウェルキンは祝賀会の最初こそは顔を出していたものの、しばらくすると共に席を外して大統領府の一室に籠っていた。2人にはやらなければならない事が多数あったからである。
今回の戦いでは勝利を得られたものの、帝国軍の驚異は依然として健在なのだ。いやむしろ、今回の戦いを受けて、次は総力を上げてトラファルガー共和国を潰しに来るだろう。それに対抗する術を確保しない事にはトラファルガー共和国に明日はない。
まず2人が着手したのは実戦部隊の再編成だ。今の
ジュリアスは17歳、ウェルキンは35歳。歳の差こそあるが、2人とも常に戦場に身を置いて前線指揮官として采配を振るってきた身。同業者だからこそ分かる話も多く、協議は滞りなく進んだ。
「今の共和国軍は階級制度や組織図自体が帝国軍時代のものをそのまま使い回しているのが現状であり、部隊間の連携には些か難があると言えよう」
組織体系を組み直す時間が無かったとはいえ、共和国軍が大きくなるにつれてその皺寄せは指揮系統の混乱などの形で戦場に現れる。そうなる前に対策を打つべきとウェルキンは考えたのだ。
「確かに提督の言う事は尤もです。しかし共和国軍の最高司令官は大統領である私とコリンウッド元帥、そしてヴァレンティア元帥の3人。これは譲れません」
「分かっている。何も最高司令官職をよこせと言うのではない。帝国軍の
「上級大将に、と言いたいところですが、今の共和国軍の規模的に将官クラスをそこまで細分化するメリットは無いでしょうな」
帝国軍のように巨大な組織であれば、必然的に大将の地位に就く者も多くなる。そうなるとその数多い大将を纏める存在として上級大将が必要になるが、トラファルガー共和国軍にはそれほどの規模が無いため、上級大将を設けてもややこしくなるだけだろう。
「そして各艦隊の司令官には中将、もしくは少将の地位。これより下も役職に応じた階級を与えていけば組織としての形は整うだろう」
大まかな階級制度の案が纏まったところでジュリアスは新たな提案をする。
「軍服を一新してはどうでしょう?今の小官は帝国軍の、ウェルキン提督は連合軍の軍服を着ていたりとバラバラになっています。これを1つに統一した方が皆の気持ちも纏まりやすいと思うのです。何事も見た目からと言いますから」
「なるほど。確かに面白いアイデアではある。しかし、何万もいる兵士の軍服などすぐに用意できるものでもあるまい」
「うッ!そ、それは、コリンウッド元帥に相談します」
困った時はトムを頼るに限る。そう考えながら、ジュリアスは満面の笑みを浮かべて頷いた。
今、大広間で諸侯達と慣れない談笑に勤しんでいるトーマスは、自分の知らない所で大きな仕事を押し付けられようとしている事など知る由もない。
「私のウェルキン艦隊は
ウェルキンの提案は、以前にジュリアスが第4艦隊及び第5艦隊を新たに編成して
「
元々
それだけに他所の部隊を次々と加入させるのには不安を覚えずにはいられなかった。
しかし、指揮系統を統一して各艦隊の連携を強化する事も重要である。
そこでジュリアスはウェルキンの提案に手を加えた新たな案を起草した。
「
「3つに?」
「はい。今の第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊を私の直営艦隊、第4艦隊、第5艦隊を遊撃艦隊に。そしてウェルキン艦隊も2つ目の遊撃艦隊にするのです」
「しかしそれでは、シザーランド元帥の下に指揮系統を一本化するのが難しくなりはしないか?」
「確かにそうかもしれませんが、やはり小官は大所帯でぞろぞろ動くのが苦手でして。できるだけ身軽で行きたいんです」
ジュリアスの話を聞いてウェルキンは笑みを浮かべる。
「変わった方だ。大艦隊を率いて戦うのは武人の
「ありがとうございます」
「それと、私に敬語は止めてくれ。これから貴官は私の上官になるのだからな。私も今後はそのように振る舞う」
「分かりました。ではそのように」
共和国軍の大まかな形が出来上がったところでウェルキンは今現在最大の脅威について話を始める。
「かつてバーミンガム星系にて我が軍の宇宙機動要塞アンダストラを一撃で破壊したあの要塞。あれに出てこられては、どれだけ軍備を強化しても無意味というものです」
「ニヴルヘイム要塞だな。それについては私に一案がある」
ジュリアスはまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
その自信は一体どこから来るのか、とウェルキンは思うも、なぜか釣られるように彼も笑みを零す。
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