防衛戦争・後篇

 スピットファイアの襲撃によってモーデル艦隊のセグメンタタ部隊はほぼ全てが艦隊前方に展開してスピットファイアへの応戦に追われた。

 これよりほぼ丸裸状態となったモーデル艦隊はラプターMk-IIの大部隊による攻撃を背後から受ける事となった。戦艦の装甲すら破壊できるビームランチャーIIを装備するラプターMk-IIが艦隊の至近距離を飛び回るとどうなるかは考えるまでもない。


「艦同士の間隔を空けて対空砲火を厚くせよ! 何としても敵を蹴散らせ! すぐに敵艦隊が押し寄せてくるぞ!」


 モーデルは第四提督フォード・アドミラルの地位に恥じない勇猛な指揮ぶりを披露する。

 しかし、縦横無尽に動き回るラプターの攻勢を跳ね退ける事は叶わず、モーデル艦隊は手痛い損害を被った。


 そしてモーデルが言った通り、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルがモーデル艦隊の背後に襲い掛かる。

 ラプター部隊の襲撃で艦隊の隊列は大きく乱され、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルへの応戦どころではなかったモーデル艦隊は一気に崩壊していった。

 特にグランベリー中将の指揮する突撃機甲艦隊ストライク・イーグル第2艦隊の戦いぶりは凄まじく、モーデル艦隊の戦線に幾つもの亀裂を生じさせる活躍を見せた。


「よし。もう一押しで敵を殲滅できるぞ。このまま攻撃の手を緩めるな!」

 旗艦ヴィクトリーにて指揮を執るジュリアスはこの時、ほぼ勝利を確信していた。


 しかし、そこで索敵オペレーターが声を上げる。

「背後に敵艦隊反応! マントイフェル艦隊と思われます!」


 突撃機甲艦隊ストライク・イーグルの背後に現れたのは、惑星コルドバに釘付けされていたマントイフェル艦隊だった。

 マントイフェル大将は、コルドバ全域を人海戦術で索敵に当たるも敵艦隊を発見できなかった事から、既にコルドバを離れていると読んで、惑星トラファルガーへと舵を切り急行していた所を戦闘の反応を発見し、現在に至るというわけだ。


「くそ。思ったより早く出てきたな。仕方がない。全艦、最大戦速!モーデル艦隊を殲滅した後、艦隊を反転させてマントイフェル艦隊を迎え撃つぞ!」


 ジュリアスはモーデル艦隊とマントイフェル艦隊を順番に攻撃する各個撃破戦法に出る事を考えた。

 しかし、それは危険な賭けでもある。もしモーデル艦隊を壊滅させる前にマントイフェル艦隊が到着した場合、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは敵軍に前後を挟まれて包囲されてしまうのだから。


 それは参謀長ハミルトン准将も抱いた不安だった。

「閣下、帰艦したラプター部隊を再度出撃させて背後の艦隊に向かわせましょう。それで敵の進撃速度を鈍らせる事が叶います」


 モーデル艦隊を攻撃していたラプター部隊は、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルによる攻撃が始まったのと同時にモーデル艦隊から離れて順次帰艦していた。

 ハミルトンはこれを出撃させてマントイフェル艦隊にぶつける事で、各個撃破の成功率を上げようとしたのだ。


「いや。今のラプター部隊には補給が必要だ。今すぐには無理だろう」


 ラプターは確かに強力な兵器ではあるが、補給が不十分な状態で出撃させては、それなりの損害を被る事は避けられないだろう。突撃機甲艦隊ストライク・イーグルにとって貴重な戦力であるラプターをそんな使い捨てるような運用はさせられない。そうジュリアスは考えてハミルトンの意見を退ける。


「それはそうです。しかし、このままでは!」


「分かっている。……代わりにドローンを向かわせる事はできないか?」


 無人戦機兵ドローンファイタースピットファイアもラプター部隊と同じように母艦へと帰艦しつつあった。

 しかし、モーデル艦隊の戦機兵ファイター部隊を一手に引き受けたスピットファイア部隊の損害はかなりのものであり、もはや部隊としての運用は不可能だろうというくらいまでに撃墜されていた。


「仮に出撃させたとしても、敵艦隊の足を止めるほどの力はありますまい」


「……そうか」


 その間にも突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは勇猛果敢な戦いぶりを見せて、モーデル艦隊の軍艦を次々と撃沈していく。

 しかし、モーデル上級大将も今だ戦意を燃やし続けて艦隊を指揮している。その抵抗は頑強であり、中々ジュリアスの思うように事は運ばなかった。


「まもなく我が艦隊は、マントイフェル艦隊の有効射程に入ってしまいます!」

 索敵オペレーターが焦りと動揺を含んだ声を上げる。


 このまま背後を襲われれば戦況は一気に劣勢となり、仮に勝利できたとしても艦隊の半分は沈められてしまうだろう。

 何とかしなければならない。そう思い、必死に思案を重ねても有効な策が思いつかずに決断に困るジュリアス。


「くぅ」


 自分の考えが甘かったばかりに艦隊の皆に余計な犠牲を強いてしまう。その罪深さをジュリアスが痛感しているその時だった。

 マントイフェル艦隊に所属する戦艦1隻が突如、どこからともなく飛来したエネルギービームに貫かれて爆沈した。


「な、何だ!?」

 突然の事に驚くジュリアス。


 ハミルトンはすぐに状況確認をするよう各オペレーターに指示を飛ばす。

 そして最初に口を開いたのは索敵オペレーターだった。

「マントイフェル艦隊のさらに後方に艦隊反応を確認! 確認できた艦影をデータベースと照合した結果、貴族連合軍のヴァンガード級宇宙超戦艦2隻を確認しました!」


「ヴァンガード級が2隻だと? まさか……」


 ジュリアスの脳裏にある敵将の名が浮かぶ。

 その時、通信オペレーターが突如出現した艦隊から通信が届いたと告げる。


「……回線を繋げ」


 そうジュリアスが指示を出すと、ジュリアスの正面に3Dディスプレイが浮かび上がった。その画面には短めの銀髪と鋭い緑色の瞳を持つ、貴族連合軍の軍服に身を包んだ提督の姿が映っている。

「旧貴族連合軍元帥リクス・ウェルキン侯爵です。故あって貴軍を援護させて頂きます」


 そう言いながらウェルキンは敬礼をした。

 それに応じてジュリアスも敬礼をする。


「お久しぶりです。というのもおかしいかもしれませんが、援護に感謝致します。色々と話したい事はありますが、まずは目の前の敵を倒す事に集中するとしましょう」


 トラファルガー共和国には貴族連合軍の残党も集まりつつある。銀河の何処かに潜伏しているウェルキン艦隊がいずれ現れる事は充分想定できた事態だが、正に危機一髪と言う状況で現れたせいかジュリアスはどこか釈然としない感覚を覚えた。

 しかしいずれにせよ、ウェルキン艦隊の登場で戦況がひっくり返った事は事実である。

 一撃で戦艦をも撃沈できる強力な主砲を擁するヴァンガード級宇宙超戦艦を2隻も持つウェルキン艦隊の背後からの攻撃によってマントイフェル艦隊は完全に翻弄されて、ろくな反撃もできないまま艦の大半が宇宙の藻屑と化してしまう。

 貴族連合崩壊後、初の艦隊戦ではあったが、歴戦の猛将であるウェルキン提督の指揮ぶりは見事と言う他ない。

 マントイフェル大将は艦隊を反転させて応戦しようと試みるも、その反転している間に集中砲火を浴びてマントイフェル艦隊は壊滅した。


 そしてその間に、ジュリアス率いる突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは陣形を再編してモーデル艦隊に最後の攻勢を仕掛ける。

 モーデル艦隊は辛うじて突撃機甲艦隊ストライク・イーグルの攻撃を持ち堪えるも、次第に機雷原の方へと押し込まれてしまい、そのまま機雷原に突入。一斉に爆発した無数の機雷よってモーデル艦隊は大損害を被り、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルの攻撃と相まって撤退する事もできず、降伏の道を選んだ。

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