防衛戦争・中篇
アンダルシア星系へと侵攻を開始した帝国軍艦隊の内、ブランデンベルガー艦隊は
しかし、
「ここまでは予定通りだ。だが、予定よりもモーデル艦隊の動きが速い。急がないとな」
ジュリアスはこの戦いに際して、アンダルシア星系の各所に監視衛星を敷設し、更に無数の哨戒機を飛ばす事で極めて精度の高い索敵網を作り出していた。これでジュリアスは3方向から攻めてくる帝国軍艦隊の動きを精確に、しかもタイムラグを少なく収集する事が可能になっていた。
「私の第2艦隊を先行させて、モーデル艦隊を足止めするって言うのはどう?」
ブレスレット端末の通信機能で、ジュリアスの正面に表示されている3Dディスプレイに映し出されている第2艦隊司令官ヴィクトリア・グランベリー中将がそう提案をする。第2艦隊は攻撃力と速力を重視する艦隊であり、単独行動で動いた場合、その機動力は
「いや。さっきの敵とは規模が違う。第2艦隊だけじゃ太刀打ちはできん。今は下手に兵力を分散させない方が良い」
「そ、それは確かにそうかもしれないけど」
「そう心配するな。俺達の
「ふふ。まったくあなたは、いつもいつもすごい自信ね」
画面の向こう側でグランベリーがニッコリと笑う。
ジュリアスの自信家ぶりは今に始まった事ではない。帝国軍ネルソン艦隊時代から続く部隊内の名物と言っても良かった。それは艦隊の将兵達にとって精神的支柱のような効果をもたらし、士気の向上と団結力の強化へと繋がっていた。
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しかし、モーデルもただ突き進むだけの猪武者というわけではない。いつどこから敵襲を受けるとしても極力迅速にそれを察知できるように通常の3倍の哨戒機を飛ばして周辺警戒を徹底させていた。
その中でトラファルガー共和国軍が尋常ではない索敵体制を敷いている事を確認し、既に自分達の所在地が敵に知れている事を承知していた。
「シザーランド提督は、大胆な攻勢を好む指揮官だった。そんな人がこちらの現在位置を把握しつつ攻撃を仕掛けてこないという事は他の艦隊への攻撃を行っている最中なのか。既に我等は敵の罠へと飛び込もうとしているのか」
落ち着かない様子のモーデルは、旗艦フェンスレーベンの艦橋の中をうろうろと歩き回っている。
「提督、少し落ち着いて下さい。皆が見ております。指揮官がそんな有り様では兵達が不安がりますよ」
第4総力艦隊参謀長アンハルト大佐が溜息を吐きながら注意した。
「分かっている。分かってはいるが、あまりに妙ではないか」
「お考え下さい。
「……確かに貴官の言う事は尤もだ。とにかく警戒を強めつつ進撃を続けろ」
その時だった。通信オペレーターが「敵影見ゆ!」と叫ぶ。それと同時にフェンスレーベンの艦内には警報が鳴り響く。
「敵はどこだ!?」
「5時の方向です!」
「回り込んできたのか」
モーデルの脳裏に緊張が走る。
「敵艦隊の規模はおよそ5個艦隊。おそらくあれが敵の全戦力でしょう」
「5個艦隊、か。こちらよりも数が多いな」
「マントイフェル艦隊とブランデンベルガー艦隊に向けて全ての周波数で救援信号を出しましょう。彼等が駆け付ければ戦力はこちらの圧倒的有利となります」
アンハルト大佐の進言をモーデル上級大将は即座に承認した。
しかし、味方が駆け付けるまでに自分達は
「いっそこのまま針路を変えずに惑星トラファルガーに直進した方が時間を稼げるのではないか。トラファルガーを焼き払ってしまえば、
「し、しかし閣下、それは下手をすると民間人に多大な犠牲を産んでしまう恐れがあります。それで仮に勝利できたとしても、ヘルの威信に傷を付けては後日、総統閣下のご不興を買う恐れが……」
「相手は反逆者とその共犯者だ。構う事は無い! 全艦、機関最大! 全速力でトラファルガーまで直行するぞ!」
しかし、追い付かれる前にトラファルガーに到達する事ができれば形勢は一気に逆転する。
モーデル艦隊が背後から迫る
艦隊の進行方向に、かなり広範囲に宇宙機雷が敷設されているのが確認された。
「熱反応型の宇宙機雷です。このまま前進を続けると、我が艦隊は宇宙機雷によって全滅してしまいます」
「くそ。小賢しい真似を。全艦、針路を変更! 機雷原を迂回しろ!」
機雷原を無理に強行突破しようとするのは愚策中の愚策。というのは軍事上の常識だ。
一度巻き込まれれば、どんなに精強な艦隊でも大きな損失を被るのは避けられないだろう。しかし、宇宙機雷というのはさほど使い勝手の良い兵器ではなく、あまり戦場で用いられる事がない事もまた軍事上の常識だった。
この広大な宇宙空間では、どれだけ広範囲に機雷を敷設しても回避するのは容易であり、手間の割には成果が得られない事の方が多いためである。しかし今回は戦場がアンダルシア星系内に限定されており、帝国軍がどの針路を通って来るかがある程度絞り込む事ができていた。
今、モーデル艦隊の行く手を塞ぐこの機雷原も待ち構えていた共和国軍の工作艦が敵の接近を察知してつい1時間ほど前に敷設していったものだった。
モーデル艦隊はすぐに迂回針路を設定し、この機雷原をやり過ごそうとする。その行動自体は間違いなかったのだが、それはジュリアスの作戦通りだった。
「前方より
「待ち伏せされていたか。敵はラプターだな」
「い、いえ。この熱紋は、《スピットファイア》です! およそ300機のスピットファイアが急速接近!」
「スピットファイアだと? あの
モーデル艦隊からは続々とセグメンタタ部隊が出撃して編隊を組む。そこへスピットファイア部隊が凄まじい勢いで殺到する。
モーデル艦隊には1000機以上のセグメンタタが配備されており、対するスピットファイアは300機と数の上では圧倒的にモーデル艦隊の方が有利だった。
しかし、スピットファイアは無人機であるという特性を遺憾なく発揮できるよう設計された機体であり、通常であればパイロットの人体への負荷から不可能な加速や動きが容易にできてしまうという強みがあった。
「ええい! あれだけの敵に何を手こずっておる!」
モーデルは苛立ちを募らせる。スピットファイアの動き回る戦闘宙域に飛び込むわけにもいかず、モーデル艦隊はその進撃速度を緩める事を余儀なくされた。ただでさえ機雷原で足止めを食らっているというのに。
このままでは背後から迫る
いっそ艦隊をこのまま進めて艦隊戦力を上げてスピットファイアの殲滅に乗り出した方が良いのだろうか。そんな事をモーデルが考え始めたその時。
「背後より接近する熱源を探知! これは、ラプターです! ラプターの大部隊です!!」
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