防衛戦争・前篇
トラファルガー共和国包囲網を布く帝国軍に、国家保安本部長官ヒムラーが主導する
包囲軍の総司令官は、
包囲軍の一角を担う3個艦隊を率いるジョン・マントイフェル大将もモーデル上級大将からの指令を受けるや進軍を開始させるも、以後はほぼ独自の判断で動く様に命を受けていた。なぜなら、一々通信でモーデル上級大将の判断を仰いでいては戦機を逸する恐れもあるからだ。
マントイフェル大将はジュリアスと同じ
とはいえ、彼がここまで出世できたのには、身分よりも実力を重視するローエングリンの人材登用方針が軍に浸透し始めていたという時代背景と旧帝国貴族の衰退、そして最後の決め手となったのはヒムラー上級大将へのゴマすりに他ならない。
マントイフェルはヒムラーが上級大将の階級を得て
「全艦、最大戦速! 他の部隊よりも先に惑星トラファルガーへと到達するのだ!」
旗艦オーフェンにマントイフェルの声が鳴り響く。デナリオンズも貴族連合も消え去った今、このトラファルガー共和国討伐こそが武勲を立てる最後の機会と考える彼には若干の焦りも見え隠れしていた。
そんなマントイフェル艦隊がアンダルシア星系第7惑星コルドバ付近の宙域にまで到達した時、通信オペレーターが声を上げる。
「哨戒機が敵艦隊を発見!」
「何だと!? 敵はどこだ!?」
「惑星コルドバの大気圏内に姿を消したとの事です」
惑星コルドバは、惑星全体を常に分厚い雲に覆われたガス惑星。哨戒機からの報告だと、敵艦隊はこの雲の中へと消えて行ったのだという。
これを聞いたマントイフェルは、敵の狙いが自分達が敵艦隊の存在に気付かずにコルドバを素通りしたところで背後から奇襲を仕掛けるというものだろうと予想した。
しかしその一方で、マントイフェルには雲海の中に自分達を引きずり込むためにわざと哨戒機に発見されたのではという可能性も脳裏に過った。
「哨戒機が見つけたという敵の規模はどのくらいだったか分かるか?」
「少なく見積もっても3個艦隊はいたとの報告です。
「情報によればトラファルガー共和国軍の戦力は精々4個艦隊か5個艦隊程度だという。それだけで考えても敵戦力の大半があの雲の中に隠れているという事か」
マントイフェルは自分の前に表示されている3Dディスプレイに映し出されている惑星コルドバの映像を見ながら思案する。
敵の主力がコルドバに潜んでいるのは状況的に見てほぼ間違いない。であれば、マントイフェルはこれを叩くべきか、それとも別方面から進軍する味方を呼び集めて総力戦を挑むべきか。悩んだ末、マントイフェルは決断する。
「全艦隊、針路を惑星コルドバに向けろ!
ここで
マントイフェル艦隊は針路を惑星コルドバへと向けた。
「艦隊を大気圏外に展開!
艦隊からは続々と
現在帝国軍では、《ラプターMk-II》の増産体制を強化しつつあるが、まだ前線に行き渡るにはしばらく時間が掛かるという状況だった。
数百機のセグメンタタがコルドバの各地に展開して雲海に突入。手探りによる捜索活動が始まった。その間に艦隊は大気圏外ギリギリの高度に布陣していつどこに敵が現れたとしても、即応できる位置に陣取る。
しかし、捜索からどれだけ時間が経過しても敵艦隊を発見する事はできずにいた。
「どういう事だ!? なぜ敵が見つからんのだ!?」
「わ、分かりません。現在、
「……とにかく急げ!」
苛立ちを募らせるマントイフェルは、少しでもそれを発散しようと床を蹴る。
─────────────
マントイフェル艦隊が惑星コルドバにて捜索を行う中、当の
「よし! これであの敵はしばらくは、コルドバに足止めできるぜ!」
ジュリアスが旗艦ヴィクトリーにて心底嬉しそうに声をあげる。それは作戦行動中の軍艦ではまず聞く事は無いであろう無邪気で明るい声だった。
「この隙に我が艦隊は、他の二方面から攻めてくる敵艦隊を撃退しなければなりません」
そう言うのは、
「ああ。計算上では、第4、第5艦隊が交戦している敵の背後に回り込めるはずだな?」
「はい。ですが問題は第4、第5がこちらの作戦通りに動いてくれているかです」
第4艦隊及び第5艦隊は、ネルソン子爵家の私設艦隊、そしてデナリオンズと貴族連合軍の残党を再編成して作った急ごしらえの部隊であり、その実力にはやや疑問があった。
それもあり、今回はジュリアス率いる本隊とは別行動を取らせていた。
「それを気にしても始まらないさ。今は信じるしかない。敵艦隊の所在地は全て把握できているんだろうな?」
「はい。ご命令に従いまして、敵が通るであろう航路上には監視衛星と哨戒機による索敵を強化しています。敵艦隊の位置はほぼリアルタイムで確認可能な状態です」
「こんな状況だ。せめて地の利くらいは無いとな」
第4艦隊と第5艦隊は、ハミルトン准将の予想を他所に、かなりの奮戦を見せており、数の多い敵を相手に五分五分の勝負を展開している。
ブランデンベルガー艦隊を背後から強襲した
ブランデンベルガーは何とか立て直しを図ろうとするも前後からの挟撃に持ち込まれたこの状況では挽回はかなり難しいだろう。
そこへ追い打ちを掛けるように、
ブランデンベルガー艦隊もセグメンタタを出撃させて応戦しようと試みるも、時すでに遅し。押し寄せてきたラプターMk-IIから次々とビームランチャーによる高エネルギービームが放たれ、ブランデンベルガー艦隊はあっという間に壊滅の危機に陥る。
「そろそろだな。グランベリー中将に、艦隊を前進させるよう伝えろ! 敵の残存艦を一気に沈める!」
ジュリアスは止めの一撃を加えた。
この戦いは時間との勝負でもある。やるなら迅速かつ徹底的にだ。
攻撃力と速力を重視したグランベリーの第2艦隊の投入は、ジュリアスの期待通りの働きを発揮してブランデンベルガー艦隊は1隻残らず壊滅した。
中には降伏しようとした艦もあったのだが、ジュリアスは敵からの通信の一切を断つというやり方でそれを受け入れようとはしなかった。敵が降伏した場合、武装解除などでどうしても時間と労力を取られてしまう。それは今は絶対に回避せねばならない事だったのだ。
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