総統暗殺計画
帝都を脱出した
これからの事を思えば、戦力は1人でも多い方が良い。
しかし、トラファルガーに向かう事は列記とした反逆行為であり、
そう判断して、自分達の行為に賛同できない者は離脱して構わないという旨も告げていた。
グランベリーとバレットにとって、これは大きな賭けであった。
しかし、離脱を希望した者は全体の1割にも満たなかった。これは2人が予想していたよりも少ない数字であり、喜ばしい結果である。
ジュリアス達は兵士から絶大な人気を集めており、その人気ぶりを如実に表していると言えた。
「これで元帥達にデカい顔をして合流できるな」
「そうね。でも、もう元帥って呼び方は止めないとね」
「ん? あぁ、そうなるのか。確かトラファルガーでは大統領になってるんだったか。じゃあ、向こうに着いたら大統領閣下とお呼びするか」
これから帝国への反逆者として修羅の道を歩もうとしているというのに、2人の表情はとても明るいものだった。
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帝都キャメロットの
「ネルソン子爵家が決起した。と言っても、これはヘル内部の揉め事という性格が強いがな」
そう語るのは、マイケル・シュタウフェンベルク伯爵。この邸の主である。幼い頃に病気で失明した左目には黒い眼帯が掛けられているが、爽やかな印象を与える20代半ばの青年だった。
「それで、シュタウフェンベルク伯爵はなぜ、我等をこうして集めたのかね?」
「まさか我々もトラファルガーに行こうと言うのは無いだろうね?」
「そのような気はありません。先ほども申し上げましたが、これはあくまでヘル内部の問題です。それに乗じようなどと考えるのは伝統と誇りある我等帝国貴族のする事ではありません。ですが、これが好機であるのは皆様もお分かりのはずでは?」
「……言いたい事は分かる。だが、具体的にはどうするつもりなのだ?」
「ローエングリンを暗殺するのです」
「なッ!」
シュタウフェンベルクの発言に、集まった旧帝国貴族達は唖然とした。
「ほ、本気で言っているのか?」
「当然です。形はどうあれ、この一件はローエングリンの支配体制を揺るがす亀裂となり得ます。とはいえ、今のままでは勝敗は誰の目にも明らかです。私としてはトラファルガー共和国を応援したい所ですが、ヘルに勝つ可能性は無いでしょう。ですが、もしローエングリンが死ねばどうなります? ヘルは求心力を失ってバラバラになり、トラファルガーとの戦いは泥沼化するのは間違いありません! その間に我等帝国貴族が!真の支配者が再びあるべき地位に返り咲くのです!」
「……」
シュタウフェンベルクの熱弁を聞いて、他の貴族達は沈黙のままでいた。
無謀な話だ、とすぐにも言いたい所だが、ローエングリンの暗殺は彼等にとっても大変望ましい事なため、公然と反論ができなかったのだ。
しばらく続く沈黙の内、1人の貴族が重苦しい空気を吹き払う。
「暗殺するにしても、奴の周りはヒムラーの親衛隊がガッチリ固めている。それに奴の傍にはいつも妙にすばしっこい奴隷の小娘が付いている。聞いた所によるとあの娘、幼い頃に殺し屋から暗殺者の技術を学んでいるとか。そんな娘が護衛している奴をどうやって暗殺するのだ?」
「何も毒を盛ったり、後ろから刺し殺すだけが暗殺ではありませんよ。私は今度開かれる会議に出席するのですが、そこにローエングリンも来る事になっています」
「な、何だと? まさか貴公は、」
「私は鞄に爆弾を仕込んだ状態で会議室へと入ります」
「奴と心中するつもりか!?」
「勿論、爆弾をセットした後、頃合いを見て私は会議室から席を外しますが、もしもの時はローエングリンを道連れに死ぬのも辞さない覚悟です」
「な! ほ、本気か!?」
「帝国貴族たる者は、国の正義のためなら死をも厭わぬのは当然でしょう」
シュタウフェンベルクは場合によっては死ぬ覚悟も固めていた。
トラファルガー共和国建国、
「私がローエングリンを始末したら、あなた方には兵を率いて政府及び軍部の制圧をお願いしたい。以前に奴がやったように、今度は我々が政権を奪取するのです!」
悩んだ末に、この場に集まった貴族達は、シュタウフェンベルクの提案に乗る事を決断した。
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数日後、最高幕僚会議が開催された。
そして、最近新たに大将に昇進したシュタウフェンベルク伯爵もこの会議に出席していた。
会議の進行役を務めるのは、ローエングリンの副官アルベルト・ボルマン少佐である。
集まった帝国軍の重鎮達の視線は、会議室の奥、ローエングリンの背後の壁に設置されている巨大スクリーンを向きながら、ボルマンの説明を聞いていた。
「トラファルガー共和国を名乗る反乱勢力の下には、
ローエングリンの指示で、貴族連合やデナリオンズの残党を惑星トラファルガーに集結させて一網打尽にするという計画が秘密裡に動いた結果であるが、これはあくまで内々の話であり、会議の場でそれを宣言するわけにはいかなかった。
「ふん! そんな奴等がどれだけ騒ぎ立てようと恐れるに足らん! 帝国軍の総力を以ってすれば、トラファルガーがなど一捻りだ!」
そう高らかに宣言するのは、オレンジ色の髪をした30代前半くらいの男性ハリー・グデーリアン大将。男爵家当主であったが、ヘルとディナール財団の抗争には終始中立に徹し、軍務一筋かつ優秀な人物なため、ローエングリンに重用されて大将の地位に上り詰めた。
そんな彼に、国家保安本部長官エアハルト・ヒムラー上級大将が異見を唱える。
「そう焦るな。確かに総力を以って当たれば勝利を得るのは簡単な事。だが、現実的に考えて全軍を動かすなど不可能だ。とりあえずは、トラファルガーの周辺星域の部隊と召集できた艦隊で対処するしかない」
旧貴族連合領を完全併呑化するために帝国軍の多くの艦隊は、銀河系外縁部広く展開していた。反抗を続ける旧連合の残党への牽制や未だに叛意を内に潜める輩に睨みを利かせるために。
「本来、こういう時に最も自由の利く戦力だった
「今、統合艦隊司令部で、ニヴルヘイム要塞を中心とした討伐艦隊の編成を進めている。今少し待て」
「そんな事をしている間に、トラファルガー共和国の軍備はどんどん増強されるぞ!」
「その通りだ。ニヴルヘイム要塞には惑星1つを粉砕する程の強力な兵器があるのだろう!それを使って反乱勢力を根絶やしにすべきだ!」
議論が白熱する中、ローエングリンは特に何か発言するでもなく、この激論を見守っていた。
ここに集まっている将官達は、今は少々気が立っているとはいえ、優秀な者達ばかりで自分よりも軍事に明るい専門家であると理解していたからだ。彼等の議論がどういう方向性に向かうのは、ローエングリンには興味があった。
そんな中で、ローエングリンは気付かなかった。この会議室で一言も発さずに、妙に周囲を気にしているシュタウフェンベルクの事に。
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