スターリング要塞攻略戦・後篇
スターリング要塞より出撃した
この青い機体の名は《シュヴァリエ》。セグメンタタに比べると機動性は劣るものの、防御性能が増して火力も向上している。
辺境星域を拠点とした反乱勢力である貴族連合軍は、銀河帝国軍に比べると人的資源が劣っている事と辺境星域に点在する鉱山惑星の多くを連合軍が掌握できた事の2点から量より質で帝国軍のセグメンタタに対抗しなければならないという事情があったため乗じた違いだった。
戦況は一進一退の互角の攻防を繰り広げ、セグメンタタの部隊は中々要塞に近付けずにいた。
その様子に、フィリップスは不満を露わにする。
「ええい!なぜあの程度の敵を早々に蹴散らせんのだ!!」
旗艦プリンス・オブ・ウェールズの艦橋にフィリップスの怒声が鳴り響く。
彼の怒気に怯みつつ、幕僚の1人が彼の問いに答えた。
「敵は要塞砲の射程で戦闘を展開し、防御に徹しています。いくら対艦用の大砲群とはいえ、援護射撃がある分、味方も易々とは近付けないのは当然かと。……艦隊に待機させている
「……こうなったら数の勝負だ。全艦隊に
フィリップスは攻撃目標をスターリング要塞の砲台群に絞ることにした。砲台さえ叩けば、艦隊による要塞への攻撃が可能になるのだから。
彼の命令は当然、後方に下がっているネルソン艦隊にも通達された。
ネルソンはすぐにも新たに
「あの砲火の只中に兵を送り出すのは正気の沙汰じゃないな」
ジュリアスはそう不平を漏らす。
「ですが司令、要塞攻略戦とはこういうものかと」
「分かってるよ。ただ言ってみただけだ。それよりすぐに
ジュリアスはどこか落ち着きが無い様子でいる。小刻みに貧乏揺すりをしたかと思えば、急に指揮官席を立ち上がって周囲をうろうろし出す。
その理由をハミルトンには手に取るように分かった。
「艦長。まさかとは思いますが、艦長も
「え?そ、そ、そんなわけないだろ!俺は艦長だぞ!艦長が自分の艦を放ったらかしにして飛び出すかよ!」
必死に否定するが、その必死さ却ってハミルトンの予想が的中している事を物語っていた。
ジュリアスは元々、
「はぁ~。2つ条件ほど呑んで頂ければ、艦の指揮は私が請け負いましょう」
「ほ、本当か!? で、条件ってのは?」
目の色を変えてジュリアスはハミルトンに詰め寄る。
「1つ目は護衛に1個小隊を付ける事。2つ目は決して前に出過ぎない事。この2点です。艦長の腕であれば、むざむざ敵に撃墜される事も無いでしょうが、まさか艦長たる者が護衛も無しに最前線に立つわけにもいかないでしょう」
尤もらしく言うハミルトンだが、これは彼なりにジュリアスに釘を出したのだ。ジュリアスは無鉄砲で行動力に富んだ少年だったが、その一方で艦長としての責任感も持ち合わせている。そもそも、これまでにも
「よ、よし、分かった。貴官の言う通りにしよう!」
そう言うとジュリアスは、玩具を貰った子供のように艦橋を飛び跳ねながら後にした。その後ろ姿を、ハミルトンを初め艦橋要員はまるで自分の子供か弟を見るような、微笑ましい笑みを浮かべながら見送るのだった。
軍服からパイロットスーツに着替えて
「我ら第3小隊! ハミルトン副長のご命令により艦長のお供をさせて頂きます!」
「おお、グレイ中尉。宜しく頼むぞ」
「はッ!!」
グレイ中尉は、アルビオンに待機中のパイロットの中では一番の操縦技術を持つパイロットであり、ハミルトンがジュリアスの安全を少しでも確実にするための人選だろう。
尤もジュリアスとグレイでは、ジュリアスの方が実力が上であり、過去に何度か訓練で対峙した事があるが全てジュリアスの全勝だった。そのためグレイは自分に護衛の役目が務まるのか、内心では不安に感じてもいた。
ジュリアスは自身のセグメンタタに乗り込み、グレイの第3小隊を率いて、アルビオンから発進した。
「各機、ちゃんと俺に付いて来いよ」
そう3機の護衛機に向けて無線通信で告げると、ジュリアスはスラスターの出力を最大にして帝国軍艦隊の間を抜けて最前線、
ちゃんと付いて来い、と言いつつ、彼は後続機を引き離す程の超高速で戦場を飛翔した。それは通常の戦闘速度を遥かに上回る最高速度を維持した状態で飛び続けたためである。
本来であれば、このような飛び方を続けていれば数千機の
一見、無謀でしかない飛び方だが、ジュリアスは機体の動きと周囲の状況を完全に把握していた。そして敵機の編隊に突入して両手に握られたビーム突撃銃を単射モードで発砲する。その射撃は精確であり、1発目で最初の1機を、続く2発目で2機目の敵機を撃墜した。
交戦で足が少し止まったところでグレイ中尉がジュリアスにようやく追いついた。
「中尉、遅過ぎるぞ」
「艦長が速過ぎるんです」
「あはは!そいつは悪かったな。じゃあ、このまま要塞に取りつくぞ!」
「・・・副長から、あまり前に出過ぎない様に目を光らせておけ、と命じられているのですが」
「うぅ!そ、そうだったな。うっかりしてたよ」
結局ジュリアスは
数千機が交戦する戦場の中でたった4機の編隊が上げる戦果が、戦局に大きく影響を及ぼすような事はまずないだろう。
しかし結果として帝国軍は連合軍の
要塞司令官ヴァロワード中将は全ての
帝国軍艦隊の総司令官フィリップス上級大将は全艦隊に前進を命じ、要塞への直接攻撃を開始する。帝国軍のセグメンタタは艦隊の艦砲射撃に巻き込まれないようにと攻撃ポイント外への退避を図るが、要塞表面に取り付いて砲台同然になっていたシュヴァリエは持ち場を離れて退避行動を取るわけにもいかなかった。その僅かな遅れが彼等の命を奪う事になる。帝国軍艦隊より放たれた無数のビームの雨は要塞表面へと降り注ぎ、その表面に着地しているシュヴァリエを次々と粉砕していった。
「これでこの戦いも終わったな」
セグメンタタのコックピットからジュリアスはそう呟いた。
敵の
ジュリアスがそう予想した通り、事の経過は推移した。
ヴァロワード中将は敗北を覚悟して自害して果て、指揮権を引き継いだ副司令官フェロップ少将は降伏した。
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