第10話 女神の仕事、魔王の使命
「……もう一度聞くぞ、貴様何をしている?」
「だからお肉食べてるって言ったじゃない。おいしいわね~、ターニアちゃん私のために、毎日ごはんを作ってくれないかしら」
そうか肉を食べておるのか。
ごくごく……あぁ水がうまい。
違う、違うぞ我。水飲んでる場合ではない。
「何故貴様がここにいて我の肉を食っておるのだあああ!」
「相変わらずうるさいわね。様子を見に来たら、おいしそうなもの食べてるから少しいただいただけじゃない」
「少しどころか全部食べておるではないか!」
我の肉……我の肉がぁぁぁ……。
おのれくそ女神満足そうな顔をしおって、この借りはいつか絶対返すぞ!
「それで今日はどうしたんですか女神様?」
「このバカ魔王がまたバカなことをしでかさないか見に来たのよ」
ターニアがさっきの話を、女神レリアに話すがもう遅い。我はすでに世界を混沌を導く第一歩を踏み出しておるわ。ふはははは。
メインの肉がなくなった皿の上のサラダをもしゃもしゃ食べながら、ターニアが話す我の武勇伝をくそ女神と一緒に聞く。
「……というのが今日のヘキサさんの出来事だったみたいです」
「バカ魔王の行動力は恐ろしいわね……でも安心してターニアちゃん、今の話を聞いて私も行動を開始する決心がついたわ」
女神レリアは口元に笑みを浮かべながら我を睨みつける。
一体何を考えているくそ女神レリア。
まさかまた我を封印するつもりではあるまいな……!?
「女神様は何をしようとしてるんですか?」
「ふふ、よくぞ聞いてくれました。私はこのバカ魔王を倒すために、勇者アーレスと同じ意思を持ってる人を探すことにしたわ!」
「なっ、勇者アーレスだと!?」
散々我の邪魔をして魔王城にまで攻め込んできて、我を封印するにまで至らしめた勇者アーレス。思い出しただけで腹立たしい。あの者と同じ意思を持ってる人間を探すだと……迷惑極まりないことを平気で考えるなこのくそ女神は!
「我は反対だぞ!」
「あなたの意見は聞いてないわっていうか、あなたは意見できる立場じゃないでしょうが! というわけでターニアちゃん安心して良いわよ」
「騙されるなターニアよ! こやつは我の肉を黙って勝手に食す女神なんて名ばかりの悪魔のような女だぞ!」
「誰が悪魔よこのバカ魔王!」
ターニアは我とくそ女神レリアの争いを黙って見ている。
そして何か思いついたように、ポンと手を叩きとんでもないことを聞いてきた。
「お二人を見てると仲が良さそうに見えますが、仲良くはできないんですか?」
くそ女神レリアと目を合わせた。相変わらず憎たらしい顔をしておる。見よ、すごい睨んでくるぞこのくそ女神。
「無理だ無理。こやつと仲良くするなどあり得ぬし、仲が良さそうに見えるのも何かの間違いだ」
「無理ね無理無理。世界が滅んでもこんな奴と仲良くなんてできないわ」
「は、はぁ」
まったくとんでもないことを口走る小娘だ。
それにしてもだ、勇者アーレスのような者が、また我の前に現れるのは非常に困る。好敵手と言えば聞こえは良いが、実際に数々の計画を台無しにされるとそんなぬるいことは言ってられん。
今のこの場でくそ女神を消すか封印をできればいいのだが。悔しいが今の我では勝ち目は薄かろう。だとすれば我がするべきは、勇者アーレスのような者が現れる前に戦えるように準備をすることだ。
「さてと、それじゃおいしいものも食べたし私は帰るわね」
「さっさと帰れこの疫病神が!」
「なんですって! ふん、言われなくても帰りますぅ。じゃあねターニアちゃん、また来るわね」
「もう来なくていい! ここは我の拠点ぞ!」
くそ女神レリアは最後に、あっかんべーっと憎たらしい仕草をして消えた。
「女神様が来ると賑やかになりますね。でも本当に仲良さそうにみえるんですが、二人は争わなくてはいけないんですか?」
「さっきも言ったが仲良くするなどというのは無理だ。奴はこの世に秩序と平和をもたらす女神で、我はこの世に混沌と滅びをもたらす魔王なのだからな」
テーブルの上の籠からパンを取ってがぶりと齧りつく。
明日からの活動は、今日よりももっと力を入れて取り組まなくてはなるまい。
勇者アーレスか……人間である奴はもうこの世にいないだろうが、奴のような人間は必ずいるだろう。
だがしかし、次に勝つのは我だ!
我が勝ちこの世を混沌と滅びの世界へ変えていくのだ!
「じゃあ私はお二人が仲良くできるようにがんばってみますね!」
今度こそ、今度こそだ!
ん? 今小娘が何か良からぬことを言ってた気がするが……。
まぁ良い、今日は早めに休んで明日からの活動に備えよう。
決意を新たにして我は椅子から立ち上がった。
「ターニアよ、我は明日から本格的に始める、世界を混沌の渦に叩き落とす計画のために今日はもう寝るぞ」
「後でおなか減ると思うので、もう一度お肉焼こうと思いましたが食べなくて平気ですか?」
「…………食べてから寝るぞ!」
「ふふっ、はい、少し待っててくださいね」
もう一度椅子に座り直して肉を焼くターニアの背中を眺めながら、我は混沌とした理想の世界を想像して肉が焼けるまでの時間を潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます