第7話 平和とは程遠い白い鳩亭
左手のぶさいくな猫の刻印の額に3の文字が浮かび上がった。今の『黒い鴉』の小僧どもとの戦闘で、また我のレベルがあがったようだ。良いぞ良いぞ、順調だ。
「さて、では案内してもらおうではないか」
「痛ぇ……はい」
昼間っからガラの悪い小僧どもを引き連れていると、周囲の一般人どもにチンピラのボスだと思われてるかもしれんな。くくく。
「また『黒い鴉』の連中が幅を利かせて歩いてるぞ」
「後ろを歩いてる見ない顔は新しく入った下っ端かな?」
「マヌケそうな顔をしてるから下っ端に違いない」
誰が下っ端か! 我魔王ぞ!?
しかもマヌケそうな顔だと……殺されたいか人間ども!?
おっといかんいかん、今はまだ我慢の時だ我慢我慢。
おのれ人間の一般人どもめいつかヒィヒィ言わせてやるからな!
小僧どもと戦った場所から、少しばかり歩いたところに目的の店はあった。『白い鳩亭』という割には、あちこち落書きだらけで平和らしさは欠片もない。
店の前でゲラゲラ笑ってる小僧どもが我に気付き会話を止めた。
道案内の小僧どもは仲間に出会えて安堵しているだろうが、我は魔王。貴様らの役目はまだ終わってはいないのだ!
一番近い小僧の頭を掴み店の柱に叩きつける。
それだけで効果は十分だった。案内役の残りの小僧どもも見張りっぽいバカ笑いの小僧どもも、顔を青くして呆然としていた。
「小僧どもよ、こうなりたくなければ黙って道を開けるがいい」
静かに頷き我から離れる小僧ども。
これよ、これこそ魔王の所業、魔王の威厳。
人間どもなんぞ所詮この程度の存在で、我に歯向かえるわけがないのだ!
中から騒ぐ声が聞こえる『白い鳩亭』の入口の階段を上って、扉を蹴破りズカズカと中に入っていく。店内はしんと静まり大量にいる小僧どもが我に注目した。
「なんだてめぇは、ここがどこだかわかってんのか?」
「くっくっく、もちろんわかっているぞ『白い鳩亭』だ」
「そうだ、それじゃあ俺たちが『黒い鴉』だということもわかってるよな?」
座ってた連中が立ち上がり鋭い目で我を睨む。
人数はざっと10人くらいか……くっくっく、おもしろい。
雑魚がどれだけ集まっても雑魚だということを教えてやろう。
「わかっていないかもしれんぞ? くくく、まぁ戯れはこの程度にして……先ほど貴様らが盗んだ物を返してもらおうか」
「本当にわかってないみたいだな。この人数相手に1人で勝てると思ってるのか?」
「くははは、もちろん思っておるぞ」
「……お前らやっちまえ!」
命知らずの小僧どもが襲い掛かってくる。
剣やナイフで斬りかかってきた小僧どもの攻撃を、わざと受けて隙を作り油断したところに魔王の鉄拳を食らわせてやる。
斬られた腕と頬から血が出てるが気にせず、次の小僧を魔王の蹴りで仕留める。
くくく、脆い脆いぞ人間どもよ!
もう少し手ごたえがないと面白くないではないか!
「くっ、なんだこいつ、マヌケな見た目の癖に強ぇ!?」
「誰がマヌケな見た目だああああああ!」
余計な口を開いたモヒカンの顔面に、拳を叩きこんで倒れたところを踏みつけた。
くそう、どいつもこいつも我をマヌケ扱いしおって!
「どうした小僧どももう半数がいなくなったが貴様らの強さははその程度か?」
「くそ……おい!」
「へいっ!」
リーダーっぽいのが合図を送ると、小僧の1人が店の奥へと走って行った。
仲間を呼びに行ったか。ふははは、何人仲間を連れてこようが、この魔王ヘキサ様の前では無力!
しかもだ、ぶさいくな猫の額に4の文字が浮かび上がったぞ。
くくく、負ける気がせぬ、レベルが低かろうと負ける気がせぬわ!
余裕の表情を見せて小僧どもの増援を待つ。
すると店の奥から更に10人くらいの人間が現れた。中には魔法を使えそうなのもいる。もっとも何が来ようが我に勝てるはずはないのだが。
しかしその中の一人、無精ヒゲの剣士だけは、他の小僧どもと少し違う雰囲気をしていた。ただヒゲの処理をしてないだけではない、こやつ……強いな。
「すみません先生、頼んます!」
「ふん、ネズミを逃がさないように取り囲んでろ」
「へい!」
リーダーっぽい男は他の小僧どもに指示を出してから、何かの苗らしき物を庇うように立った。どうやらあれが盗まれた物らしいな。
出口と周りを小僧どもに囲まれる、正面には無精ヒゲの剣士。
無精ヒゲは剣を抜くと静かに構えた。
「さぁ始めようかネズミ」
「くくく、後悔するでないぞ」
すぐに勝負を決めてしまいたいが、無精ヒゲめ隙がないな。
どこから攻めようか……。
ドン!
「ぐぁ!?」
油断した!
背中を蹴られて前のめりになりバランスを崩す。
すぐ前でにやりと笑い無精ヒゲが剣を振るった。
ザクザクっと体を2回斬られ痛みが我を襲う。
ぐぅ、人間どもめえええ!
ダンっと床を蹴って無精ヒゲの背後に逃げ、トドメの一撃を免れた。
これはまずいかもしれん、今の我では手に余る強さだ!
くそ、我ともあろう者が人間ごときに!
ここは一旦退くしかなさそうだ。
世界を混沌に叩き落とすために、このようなところで力は使いたくなかったが仕方あるまい。
意識を集中して体の中に闇の魔力を湧き上がらせる。
力を使っても無精ヒゲを倒せる保障はない。
ならば……。
闇の衝撃波を使い我を囲んでいる小僧どもを吹き飛ばす。
「魔法か……!」
しかし予想通り無精ヒゲは倒れはしたが魔法を耐えきっていた。
我は倒れたリーダーっぽい男の、背後にある何かの樹の苗を抱きかかえて全速力で『白い鳩亭』から脱出する。
走りながら後ろを見るが無精ヒゲが追いかけてくることはなかった。
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