第6話 野望のための第一歩
「さぁどうする小僧?」
視線を泳がせ答えを迷っていたが、どうやら自分のことがかわいかったようだ。
「……わかりました、あなたと手を組みます」
「くくく、良い答えだ」
うむ、ここまでは順調。
これでこの小僧に恩を売っておけば完璧だ。
「それで、そいつはどっちに行ったんですか?」
「あっちだ」
大柄な男が去って行ったほうを指さす。
小僧はそれを聞いて走り出そうとした。
「待て小僧、その輩の容姿についても教えておいてやろう」
「あ、ああそうですね、教えてください」
我は覚えてる範囲で大柄の男の容姿についてを教える。
すると小僧は驚いて絶句した。
「そいつはうちのグループと敵対してる、『黒い鴉』というグループの男だと思います。くそ、よりにもよって奴らに盗まれたなんて」
小僧は頭を抱えてるが我はツイている。
相手が誰かわかるのなら探す手間も省けるというもの。
これで後はそやつらから荷物を取り返すだけで済む。
「どういう組織なのだ、その『黒い鴉』とやらは?」
「盗みや恐喝、薬やその他いろんな悪事に手を染めてるグループです。まぁ俺たちのグループも大差はないんですが……」
やはりこの小僧は『こっち側』の人間だった。
魔族ではないにしてもこういう輩との繋がりは今後役に立つはず。
くくく、封印が解けて僅かな時間でこの巡り合わせ。
世界は我が招く混沌を求めているようだな!
「くくく、ふははははは!」
「ど、どうして急に笑いだすんですか、俺何か変なこと言いました?」
「いやなんでもないぞ、ただ無性に笑いたくなっただけだ。ふはははは!」
小僧が困惑した表情で我を見ているが気にはせん。
これが笑わずにいられるものか!
「ふははははははは!」
「あの、話続けてもいいですか?」
「おお、そうだったな構わん続けろ、ふははは」
周りの人間どもに聞かれないように、少し声のトーンを落として小僧は続ける。
「今回俺たちが仕入れたのは、あなたの想像通りこの国では御法度のものです。それを交換条件に、取引相手から武器を仕入れる予定だったんです」
「戦いでも始めるつもりか?」
「はい、うちのボスは『黒い鴉』だけじゃなくこの辺り一帯を制圧して俺たちみたいなやつらを牛耳るつもりなんです」
なるほど、そのための武器か。
面白いではないか、ますます小僧の組織が気になってきたぞ。
これは必ず恩を売っておかなければいかんな。
「ある程度のことはわかった、では行動に移ろうではないか」
「はい」
くるりと身を翻して歩き始める。
む、まだ肝心の敵の居場所を聞いてなかった。
「『黒い鴉』の連中がどこにいるのかは知っているのか?」
「はい、奴らの縄張りはわかります。でもどうやって取り戻せばいいのか…」
「ふむ、盗まれた荷物の取引はいつなのだ?」
「今日の18時です、それまでになんとかしないと……」
「時間はまだたっぷりあるな。それでそやつらの縄張りはどこだ?」
「市場の西の区画にある『白い鳩亭』という酒場です」
黒い鴉の次は白い鳩が出てきた。
小僧たちのグループ名はきっと茶色い雀かなんかだろう。
ともあれその『白い鳩亭』とやらに行ってみるとしようか。
我らが歩きだすのとほぼ同時に背後から大声が聞こえた。
「おい、待てランツ、てめぇどこへ行くつもりだ!」
声を聞いて小僧がびくっと肩を震わせる。
振り返るといかにもならず者っぽい男が近づいてきた。
あれがこの小僧のいう兄貴分なのだろうか。
「ランツてめぇは仕事もしねぇで何をしてやがる!」
「あ、えっと、すみません!」
「さっさと戻って働け! じゃねぇと俺がアニキたちにどやされんだよ!」
「はい……すみません」
ふむ小僧もなかなか苦労しているようだ。
それに盗まれた荷物と残している仕事の、どちらを優先するかを迫られる状況で焦っているのが顔に出ている。
「ランツよ、件の物は我に任せて貴様は残っている仕事をするが良い」
「な、あなた1人で行くつもりですか!? それは無茶だ」
「構わん。貴様は貴様の仕事をこなして、そのうるさい三下を黙らせておけ」
「あぁ!? なんだてめぇは、おいコラ待て!」
うるさい三下の男の怒声を無視して我は目的地へ向かう。
しかし市場から離れてみたものの西はどっちだ。
ランツに方角も聴いておくべきだった。
結果、道に迷ってあっちこっち歩き回った。
早くこの街に慣れねばいかんな。
そして今、ようやく目的の西区画に辿り着いた。
辺りの様子を見ると『黒い鴉』のメンバーと思しき者の姿がちらほら見られる。
どいつもこいつも『こっち側』の顔をしているのですぐわかるな。
さて、では『白い鳩亭』へ御法度のものを奪いに行こうではないか。
道の端でたむろしている小僧たちに案内してもおうか。
「そこで暇そうに油を売ってる貴様ら」
「あん? なんだこいつ」
「貴様らは『黒い鴉』の者で間違いないな。いやこの際間違っていても良い。我を『白い鳩亭』という店まで案内させてやろう。光栄に思え」
小僧たちは顔を見合わせて頷くと我へ近づいてきた。
「兄ちゃんこの辺の奴じゃねぇな。俺らに何の用だ?」
「なに、先ほど貴様らの仲間が盗んでいったものを取り返しに来ただけだ」
それだけで小僧たちには何のことかがわかったようだ。
3人の小僧がナイフや棍棒を持って我に向かってきた。
くくく、それでは最初の仕事を始めようではないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます