第5話 金のためにお仕事を探そう

「うむ、うまかった。我は満足だ」

「お口にあって良かったです」


 500年の封印が解けてから1日経った。

 今朝の料理は人間の小娘が作ったものにしては美味だったから今は気分が良い。


「昨夜の食事は大胆にも骨付きの生肉がそのまま出てきたからな、驚いたぞ」

「魔族の方はああいうのを普段食べてると思ってました」

「それは一部の者だけだ。我は人間と同じような料理しか食わん」


 小娘ターニアが食器を片付けてる様子を、食後の紅茶を飲みながら眺める。

 しかしあれだな、この小娘は魔王である我を目の前にしてるのにまったく動じんな。

 やはり見た目が若返って貫禄がないからかもしれん。

 レベルが上がれば元に戻れるのだろうか?

 あまり期待はしないほうが良さそうだが。


「では食事も済んだことだし我は出かけてくるぞ」

「あれ、王様なのに家でのんびり過ごさないんですか」

「馬鹿を言え、魔王というのは忙しいものだ。特に我はこの世界を、混沌に陥れなければいかん使命があるからな。ではいってくる」

「いってらっしゃい、お気を付けて」


 拠点を出て歩きながら何するか考える。

 何はともあれまず必要なものは金だから、金になりそうなことを探そう。

 手っ取り早いのは、その辺をうろうろしている街の住民から奪うことだが、レベルが低い現状を考えるとこの国に追われるようなマネはまだ控えたほうが良いだろう。


 となるとできるのは情報を集めるくらいか。

 この時代の情報も欲しいから丁度よいな。

 ではまずは人間が多そうな市場で情報収集だ。

 幸い昨日小娘ターニアに小遣いも貰っておるしな。

 買い物しながら話を聞くとしよう。


 道行く人間に場所を聞き、我は市場へやってきた。

 市場には大量の人間どもがわらわらいる。

 どいつに聞いてやろうか。


 視線を巡らせ適当な人間を探す。

 お、こっちに向かってくる男、あれで良いだろう。

 大きな箱を肩に担いで歩いてくる大柄な男を呼び止める。


「おい、貴様」

「ん、なんだお前は? 俺は今忙しいんだ」

「我は金になるものを探している。だから知ってる情報を話せ」

「はぁ? いきなりなんだこいつは……ちっ、それなら冒険者ギルドにでも行ってきな」


 冒険者ギルドだと?

 まだ存在してるのかあの組織!

 500年経った今でもあるとは!


 勇者アーレスと共によく我の邪魔をしておったな。

 そうか老舗になるほど続いているのか。

 邪魔な存在ではあるが、未来のこの世界でも残っているのは嬉しい気持ちにもなる。


 だがあの組織はこの時代でもいずれ敵対する。

 変な情が移らんように、初めから関わらんのが良いだろう。


「他には何かないのか?」

「知らねーよ! 俺は忙しいっつってんだろ、邪魔だどけ!」


 大柄な男は我を押し退け急ぎ足で去って行った。

 生意気な人間め、まぁ良い次を探すか。


 それから少しの間広い市場を歩き周り情報を集めた。

 しかしこれといった情報を得ることはできなかった。


 ふむ、困ったぞ。

 これだけ人間がいると少しくらい何か良い情報が得られると思ったのだがな。


 まぁ良い焦ってもことを仕損じる。

 喉も乾いたことだ、茶でも飲んでしばし休むか。

 近くで茶を扱ってるところを探して歩いていると。


 ドン!


「おっと」


 昨日に引き続き今日もまた何かにぶつかってしまった。

 一応確認のために見ておく。


「……いてて」


 どうやらぶつかったのは、まだ小童から抜け出せぬくらいの小僧だった。

 盛大にこけてふらふらと立ち上がろうとしている。


「大丈夫か小僧」

「え、あ、はい。すみません、俺は大丈夫です」


 そう言いながら小僧は不自然にあちこちを見回した。

 同じように視線を動かすが、市場には特に変わったところはない。


「どうしよう……時間までにあれを探し出さないとアニキたちに殺されちまう……」


 小僧はぶつぶつと物騒な独り言を漏らした。

 どうやらわけありのようだ。


「何かを探しているのか?」

「あ、はい……その、大事な取引で必要な物を探してます。あの、このぐらいの大きな箱を持った奴を見かけませんでしたか?」


 小僧は腕を広げて探し物の大きさを我に示す。

 ちょうど情報収集で最初に声をかけた大柄な男が持っていた荷物が、小僧の言う箱の大きさと同じくらいだった。


「近いものを持った輩は見た覚えがあるぞ」

「え、本当ですかっ。それは、そいつはどっちに行ったか憶えてますか!?」

「ああ憶えているぞ」

「お願いします教えてください!」


 よほどアニキとやらが怖いのだろう。小僧は必至に頭を下げて嘆願してきた。

 だが簡単に教えるわけにはいかん。

 こいつからは金の匂いがする。


「小僧よ、探している箱の中に入っていた物はなんだ?」

「えっ!?」

「この国では御法度の物だったのではないか?」


 我の質問に小僧の顔から血の気が引いていく。

 どうやら図星のようだ。


「貴様が望むなら、我が手を貸してやっても良いぞ」

「な、あんた何が望みなんだ……?」

「もちろん金だがどうする小僧よ、我と手を組んで荷物を探すか、それとも断ってこの国の兵にでも通報されるか……好きなほうを選ぶが良い」


 くくく、我はついておる、これは思わぬ収穫だな。 

 我は不適な笑みを浮かべて、焦る小僧の顔を覗き込んだ。

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