第4話 魔王レベルアップ

「どうかこの通りだ、頼む!」

「はぁ~、もうわかりました! その代わり家の中で戦闘とかしないでくださいね」

「もちろんだとも」


 なんとかお願いしてこの家を拠点として使わせてもらうことに成功した。

 が、どうして我が小娘なんぞに頭を下げねばならんのか。

 我、魔王ぞ?


 ともあれ次に必要なものは世界を混沌に陥れるための軍資金だ。

 金がなければ兵を雇うこともできんからな。

 それにこの拠点にタダで居つくわけにもいくまい。

 我はこう見えて結構義理堅い。


「それで小娘、ここはどこの国でなんというところなんだ? 我は今どこにおるのだ」

「ここはフェターレ王国の王都フェタレアですね」

「ふむ、聞いたことのない国だな」

「100年前にできた比較的新しい国です」


 ほほう、人間どもめ我がいなくなり調子に乗って国を作りおったか。

 まぁ今はまだ見逃しておいてやろう。

 しかしいずれ世界は混沌に飲み込まれこの国も……くくく。


「あ、何か悪いこと考えてますね?」

「もちろんだ、我魔王だからな」

「ここに住むなら大人しくしててくださいね!」

「ぬぅ」


 人差し指を立てて叱りつけるよう釘を刺してくる小娘。

 その気はないがこれから世話になるから今は従おう。


「それじゃあ私はお買い物に行ってくるので、ヘキサさんもフェタレアを見て回ってはどうですか」

「良い提案だ、拠点付近の地理に詳しくなっておいて損はないからな」

「じゃあ少しだけどお小遣い渡しておきますね」

「うむ」


 小娘から少額の金を受け取り懐に入れておく。

 一緒に家を出て小娘は買い物へ、我は散歩へ出かける準備ができた。


「では小娘よ、買い物に行ってくるが良い」

「うん、いってきます。あ、そうだ」


 一歩前に踏み出した小娘は脚を止めて振り返る。

 なんだ、まだ何かあるのか?


「まだ名前を言ってませんでした。私はターニアこれからよろしくお願いします、ヘキサさん」

「うむ、よろしく頼むぞ小娘ターニアよ」

「そういう呼び方になるんですね!? はぁ、じゃあ行ってきます」

「行ってくるが良い」


 ターニアの後ろ姿を見送って我も移動を開始した。


 まずは拠点付近に何があるか調べておく必要がある。

 辺りの様子をじっくり観察してやろう。


 建物はどれも2階建ての似たようなのが並び、石畳の道はよく整備されているように感じる。

 そこを小童どもが駆け回り、平和ボケした娘どもが世間話に華を咲かせていた。

 なかなかに治安の良さそうな街だ。

 ここが混沌に塗れ争いで逃げ惑う人間どもに溢れると面白そうだな、くくく。


 おっと楽しそうな光景を想像して、ニヤニヤしてると怪しまれるかもしれん。

 次のところを見に行こうぞ。


 その後、気の向くままに歩き王都フェタレアのおおよその雰囲気を確認した。


 いずれこの国を乗っ取り王都そのものを拠点にするのも悪くないな。

 くくく、我が復活したのがどれほど恐ろしいか、愚かな人間どもに教えてやらねばなるまい。


 ドン!


 痛い。

 妄想しながら歩いてたら何かに肩をぶつけてしまった。


「オイ、テメェ!」


 背後からぶつけた肩をがしっと掴まれる。

 振り向くと二人組の悪そうな小僧どもが我を睨みつけていた。


「なんだ?」

「なんだじゃねぇだろ!? 人様の肩にぶつかっておいて謝りもしねぇのかテメェ!」


 文句をつけてくる小僧の後ろで、大げさに肩を抱きかかえる小僧が見える。

 それに酒臭い。小僧どもは昼間から酒を飲んで酔っ払っているようだ。


「くだらん」

「あぁん!? テメェ痛ぇ目に遭わねぇとわからねぇみたいだな!」


 指をぼきぼき慣らして威嚇してくる小僧ども。

 ほう、酔っているとはいえ小僧どもは我を相手に戦いを挑もうというのか。


「くくく、面白いかかってくるがいい、くそ女神の呪いがあろうと人間の小僧ごときに負ける気はせん」

「何を意味不明なこと言ってやがるテメェ!」

「構わねぇ、わからせてやるぞ!」


 肩を抑えてたほうの小僧、小僧Bが殴りかかってきた。

 大振りなパンチを避けて懐に潜り込み、腹に右腕の一撃をくれてやる。


「ぐぼぉ!?」


 小僧Bは腹を抱えてその場にうずくまった。

 その光景を目にし一歩後ずさった小僧Aだったが、叫びながら殴りかかってきた。


「て、テメェよくもやりやがったなぁ!」


 小僧Bと同じような大ぶりなパンチを避けて、顔面に右ストレート。

 まともに食らった小僧Aは吹っ飛んでそのまま動かなくなった。


「ひぃぃ、ずみまぜんでじだ!」

「我に挑んだ威勢だけは良かったぞ小僧ども」


 恐怖した小僧Bが自分たちの愚かさを謝罪する。

 これ以上は良いだろう、なかなか楽しかったからな。

 我は小僧どもに背を向けてその場を離れた。


「ぬ?」


 なにやら左手の刻印が光っておる。

 歩きながら確認してみると、ぶさいくな猫の額に浮かび上がった数字が1から2に増えた。

 今の喧嘩でレベルが上がったということか!


「くっくっく、ふははははははははは!」


 良いぞ良いぞこうやってレベルを上げて、以前の最強の我に戻ってやろうではないか!

 今に見ておれ女神レリアよ、我が必ず貴様を泣かしてやるからな!

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