第3話 魔王に与えられた祝福(呪い)
「くぅ! ま、まさか本当に我の力はなくなっている……のか!?」
女神レリアは我の放った闇の雷を、片腕だけで受け止めていた。
あり得ぬ、そんな馬鹿なことはあり得ぬ!
500年ぶりに力を使って鈍っているだけだ!
「ぬおおおおおおおお!」
もっと、もっとだ!
もっと力を込めて放てば、女神レリアなど……!
すべての闇の魔力を使い果たすくらい力を込めて雷を放つ。
しかし闇の雷は女神レリアの魔力の盾に、吸い込まれるように消えていく。
「ふふふ、今のあなたの力はこの程度なのよ魔王ヘキサ」
「ぐ……ぬかせ! 我の力はまだまだこんなものでは……!」
「それと気が付いていないようだから教えてあげる。左手の甲を見てみなさい」
左手の甲だと……なんだ何かあるのか?
右手で雷を放ったまま左手の甲に視線を落とす。
「な、なんだこれは!?」
言われるまで気が付かなかった。
我の左手の甲には見知らぬ刻印が押されていた。
「それは女神レリアの祝福の刻印。これからずっとあなたを縛る鎖になるの。気に入ってもらえた?」
「貴様ぁ……よくも!」
これからずっとこの刻印がついたままだとふざけおって!
左手の甲に刻み込まれた刻印を睨みつける。
不愉快だ、実に不愉快だ!
「よくも我の体に、なんかぶっさいくな動物の刻印を押してくれたな! というかなんだこれは?」
「ぶさいく!? ふざけるな、猫よ猫! かわいいでしょうが!」
「猫だと……おのれよくも我の体にぶさいくな猫の刻印を……!」
「またぶさいくって言った! ふざけんなぶっ殺すぞ!」
くそ、相変わらず口の悪い女神だ。
こんな輩に世界の守護を任せて良いのか人間どもよ。
それはそうと、どうしてこのぶさいくな猫は額に3と浮かび上がっている。
「この数字は何を意味しているのだ」
「ふーふーっ、ふ、ふふふ気が付いたようね」
女神レリアは荒い息を整えるとにやりと微笑んだ。
猫の額の数字が3から2へ変わった。
なんだ……何か嫌な予感がするぞ。
「それはね、あなたのレベルよ魔王ヘキサ」
「何、レベルだと?」
「そうレベル、あなたの強さを表す数字よ。でもあなたが闇の魔力を使えば使うほど、あなたのレベルは下がっていくの。それが私、女神レリアが魔王ヘキサを封印する時に与えた祝福よ!」
「なんだと、しまった!?」
魔力を練るのを止めて、右手から放っていた闇の雷をかき消す。
しかしすでに遅かった。
左手のぶさいくな猫の額の数字が2から1に減ってしまったのだ。
「とうとう力を使い果たしたようね魔王ヘキサ」
「くそ、おのれ女神レリアよくもやってくれたな!」
「私は何もしていないわ、あなたが勝手に力の無駄使いをして使い果たしただけ」
女神レリアは勝ち誇った表情で我を見下ろす。
「あの」
その顔と態度がとてつもなく頭にくる。
「あの!」
「ん? 何だ小娘」
「人の家の中でいきなり魔法を使わないでください! 家が壊れたらどうするんですか!」
「むぅ、そんなこと我は知らんが……」
小娘は大変お怒りのようで、凄まじい殺気を放って我に詰め寄ってきた。
「謝ってください!」
「どうして魔王である我が小娘ごときに謝らねば……」
「謝ってください!」
「…………ごめんなさい」
ひどくお怒りの小娘に頭を下げて謝ると、女神レリアは心底嬉しそうに笑いだした。
「ぷ……あははははははは、魔王ヘキサが謝ってる! レベルが1になっただけじゃなくて女の子に怒られて謝ってる! ぷくくくく、おかしいーあはははははは!」
おのれおのれおのれええええ!
なんて性格の悪い女神だ! 本当に女神なのかこいつは!?
「あーおかしいーあはははは」
「女神様、あなたも同罪です、謝ってください!」
「え、私もなの!? 私女神なのに?」
「はい、テーブルから降りて謝ってください!」
なんという気の強い小娘だ。
しかしこれは面白いぞ!
女神レリアはしゅんと肩を落としてテーブルから降りた。
「……ごめんなさい」
「くくく、ふはははははははは!」
おっとついつい声を出して笑ってしまった。
くっくっく、女神レリアがぷるぷる震えて我を睨んでおる。
心地良い、実に心地良いな!
「あなたのせいで私まで怒られたじゃない! もういい私帰る!」
「ふん、さっさと帰るがいい」
女神レリアは現れた時のように、青白い光の玉になってこの場から消え去った。
ふー、いなくなりおったか。
しかし、困った、非常に困ったぞ。
神にすら戦いを挑める強さを誇る、この我ともあろうものが後れを取ってしまった。
闇の力を使うと魔力がなくなりレベルが下がる祝福を受けていたとは。
しかもこのぶさいくな猫の刻印付きだ。
祝福どころかもはや呪いではないか。
早々にレベルを上げて力を蓄えねばならんな。
だが魔王とはいえレベル1だと苦戦する相手もおるかもしれん。
しばらくどこかに身を潜めながら獲物を狙うのが良さそうだ。
……この小娘の家があるではないか。
ここを拠点にしてレベルを上げる活動をすればいい。
そしていずれはこの世界に再び混沌を……くくくくく。
「小娘よ」
「はい?」
「本日からこの家を魔王の拠点として使ってやろう。光栄に思え」
「え、ダメです」
「……え?」
「ダメです」
小娘に笑顔で拒否された。
えっと、我これからどうなるんだ……?
今日は野宿? 魔王なのに?
おのれ……こうなったのもすべてあのくそ女神のせいだ!
許さぬ絶対に許さぬからなぁぁぁ!
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