衝動

翌日の勤務も夜勤だった。

 僕は発見したメモの内容で頭がいっぱいで仮眠することができず、若干眩暈を思いつつ職場に向かった。

 仕事はスプレー缶工場のライン監視係である。ベルトコンベアを流れてくるスプレー缶に、傷が無いかどうか確認しつつ、流れが滞らないよう気を配らねばならない。


 その日任されたのは持ち場の中でも割と忙しい部分だった。コンベアが曲がりくねっているので缶が溜まりやすいのである。

 ふらつくのを堪えながら作業をこなしたが、次第に流れてくるスピードに意識が追い付かなくなった。すぐさま、缶が曲がった部分に詰まってブザーが鳴る。慌てて取り除こうとする間も缶が流れてくる。ついにあふれだした缶が床へ散らばり、監督がすっとんできて機械を停止させた。

「おい!!どこ見てるんだ!!さぼるんじゃない!」

 必死で何度も謝り、再び持ち場につく。今度こそ、メモの事を考えないようにしようと思うのだが、どうしても考えてしまう。そしてまた。


そんな状態が2、3度続き、ついに僕は監督に事務所へ呼び出された。


監督は赤らんだ丸顔を醜くゆがめ、禿げた頭に青筋を立てて怒鳴り声を上げる。そのひくひくと動くこめかみの血管を、僕は思わず凝視した。

 あの弛んだりひきつったりしている、薄い皮膚の下に脈打つ血管があるのだ。

「聞いてるのか、貴様!おい!」

 やにわに胸倉をつかまれ、僕は目を見張った。中年の男が迸らせている激しい感情と、それがもたらす体臭、そして蠢く血管から心が離せない。


 今まで感じた事のない衝動が湧き上がってくる。

 これが例の……

 そう思った時にはもう、監督のこめかみに噛り付いていた。

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