夜狐参り

「それってラノベじゃん!」


本から顔を挙げた同居人が目を瞠るのも不思議ではなかった。

「天誅!」

「やめんかコラ。」


紙束を投げる癖をやめなさい、自称20歳の金髪ショートヘアー(幼馴染)。


「俺、そういうの一番信じたくないやつ!わかりる?それをいうなら」

「実録系心霊ドラマのほうがいいんだ。」

「びっくりでもお断りだわ。」


俺は続きの古典(訳あり)を読みふける。せっかくの休日なのに2人して、狭い部屋の中で転がったり椅子に座ったりしているのは昨日の出来事が信じがたかったからだ。・・・・・ラノベか。ラノベというより、妖怪とか魑魅魍魎とか、あのあたりじゃないのか。俺は異世界にでも転移したのか?夢ってことは・・・ないんだな?ちらりと見やった先の足元にクラゲの生き物はまだ浮かんでるし。女の子らしき面がコロコロと笑っている。しかも彼女には「見えていない。」


昨夜、酒にやられたわけでもない。しかし奇妙な出来事に出くわした。それはあいつの、狐の面を被った少女のほうから来たのだ。


道端に鈴が、カランと鳴った。

___



気がつけば前を歩いていたのだ。奇妙なことに夜の明かりもみえないのにはっきりと映し出されて。

寒気を通り越して妖しかった。赤い花柄の着物、音もしない下駄。顔は面で隠れている。

「異形」

その一言で十分にして、おぞましさのない「妖艶さ」。道はいつの間にか真の闇になっていたが俺は気づかなかった。むしろ少女の方に惹きつけられていたせいか。しかし次第に慣れが来てしまい、欠伸をした途端だった。


テン、と顔が


「・・・!」


ハッキリと狐の面が目の前にあった。彼女は気づいていたのだ。あの距離を一瞬でつめてきたのだ。


「・・・・ぁ、」


記憶がない。


そのあと、帰りを心配した同居人によって俺は介抱された、らしい。夢をみていた気がする。何の?お面に関係するお祭りではなかった、青い空の下だった。しかし、


断片的に突き付けられた映像は、とある社からはじまる。

「たすけて」

小さな声が、奥から響く。だが、「決して開けてはならない」。なぜそう思ったのか。

「逃げさねぇぞ。」

背後から来た彼らは一体ナニモノなのか。

彼らの一味が手を振りかざしただけで破壊された、先に見えた異空間は、一体なんだったのか?


誰も知る術はない。


少なくとも、俺以外は。





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