街の夜の喧騒のままに歩いていると、ふと呼びかける声がある。

「今日も、駄目だったのかい。」

細い、男の声だ。やがて遅れて生温い風が吹く。それは男の頬をサッと、舐めるように掠った。

「ああ、駄目だった。」

「そうかぁ。」

ぐるりとその、長い腕を肩に回すとソイツの顔はにやりと笑った、ように見えた。

「ついていっていい?」

「駄目だ。」

「ケチ、別に男の右肩一つくらい減るもんじゃないだろう?」

「うるさい。」

相変わらずよく分からないやつだ、と思う。黒く焦げたような長そでのTシャツにこれもくすんだ白いジーンズをはいて、伸びた茶髪が風の吹かれるままに、というか、そのまま固まっているように見える。

「どけ、邪魔だ。」

「なんだよ水臭いな、この街はじまって以来の親友じゃないか。」

ブン!と鞄を回すとこの”親友”はちょうど暗闇の隙間の見えないのをいいことに消えた。

”裏切り者め”

舌打ちでもしたところで異変に気付く。

足元に黒い大型犬がいる。そうだ、こいつは狼男だった。悔しがる前にそいつの目がキラリと意地悪く光った。と思えば、脳内に声が谺する。

「ここだよここ(笑)俺だよ俺。周り見てみ?独身の男がたった一人で、気がフれたってよぅ(笑)」



貴様のせいだよ、と言いたいのをグッとこらえ、疲れも出ていたのでまた男は冷めた表情に戻り、淡々と店のライトを浴びながら何事もなく去っていく。見分けのつかぬサラリーマンだ。

街を外れ、靴音がやがて敷き詰められたレンガの道をカタカタと鳴らし始めた。


駄目だった。それは今日の”任務”


どうもこの街は人間という果実が搾汁されるシステムになっているようで、吸血鬼には絶好の機会と言えどとうに絞られたような人間の血液は、何年も地面に放置され、すっかりもとの味気のないものだった。




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