夢の果て

何かが世界からインパクトされる瞬間にぶっ壊されるものがあったとしたら、それはきっと絶望などではなく、「限りない悲泣」だったかもしれない。

誰もが夢にまで見たユートピア。ああ、なんていい「創造」だろうか。破壊はいつも一瞬だというのに。それでもその夢はきっとどこかで生き続ける。生まれ続ける。生きている限り。

翌日、目が覚めると、日差しに変色したいつもの時計が朝の7時を指している。


「おはようございます。」


透き通る声、やわらかな調べが上から降ってくる。目の前には少女の顔があった、がソレは正確ではない。宇宙人(現実)を見た世界がパステルカラーに刺激されて、思わず目をパチパチさせる。長い、スカイブルーの髪が空よりも眩しい。彼女の名前は”mikuro”,未来の地球より脱出してきた人型の”宇宙生命体”である。


「あれ、」


「床から移しました。3月18日火曜日。「我々」がここに到達して2日になります。現在地、居住区1013。あなたの住所、登録番号です。」


「わかった、ありがとう。けど・・・ちょっと、どいてくれないかな。」


現にこの衝撃(現実)、(服を着てこそいるが)彼女が覆いかぶさっていて身動きがとれない身をどうにかせねば、朝は始まらない。一方彼女は少し眉をひそめながら、さきほどと変らぬ調子の声が続ける。


「失礼。あなたの瞳の色は、「海老茶」なのですね。合ってますか?日本語。 光を純粋に吸収する様子が興味深かったもので。」


「あー、合ってるよ。でもな、一般的に言ってこのようなことをするのは避けた方がいいと思う。」


同じ地球由来のはずなのに、こういった常識は向こうにはないのだろうか。しどろもどろになりながら。


「・・・」


「あ、いや、ね?恋人ならともかくこの恰好は、そぐわないっていうことだよ。」


「なるほど、あなたはヘテロですか?心拍数」


「言わんでいい!」


「それならパーツを男性に組み替えれば、問題ありませんね?」


「そういうことじゃない・・・!ていうかできるの??そんなに興味があるの?」


「はい。前者と後者において肯定します。」


「潔いな。そういうところは嫌いじゃない。」


昨日もそんなやりとりがあった気がする。

自由になれば昨夜の疲れが取れていないせいか、起き上がれば妙に気だるい。昨夜、というより深夜、まさか大学から寄り道した帰り道に公園で、ブランコに座ってるのが宇宙人だとは思いもしなかったし・・・・説明すればするほど長くなるが、とにかくあのあとも始終部屋をうろうろしていたものだから気が気でなかった。そのうちテーブルに突っ伏して寝落ちてしまったらしい。

目を向ければ開けたカーテンの窓の外には家々と、遠くのビルと、山、走っている人、通学の子供ら、年寄り・・・日常は何ら変わらない。ここも、雑多にある街中のアパートの一部屋に過ぎない。


トイレで用を足しついでに着替え、顔を洗って出てくると、彼女はいつのまにか白いパーカーとデニム姿で、部屋の片隅にたたずみ、窓の外を見ながらつぶやいた。


「朝ごはん、準備しますか?何もなければこちらに持ってきているのですが。こちらの情報が洩れては厄介なので、先に処理してしまいたいのですが。」


「え、作ってくれんの?やった、ありが」


その瞬間、テーブルに突如UHOが着地し、その衝撃でテレビだの冷蔵庫だの、今日の課題だのが一斉に四散した。




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