犯罪者だと思って追跡してたやつが、元勇者だった。
「ハアッ、ハア ッ!」
移動距離2.5メートル。黒いジャケットが舞う、バン!俺が発砲する。「・・っ」小さな呻き声とともに、弾が肩袖をかすり、つんのめりそうになるところまでは見えた。
その瞬間、
ボン!
「!」
煙が視界をふさぐ。左手のポケットには煙玉が入っていたらしい。とっさに腕で鼻をふさぐ。
男は路地のどこかへ姿を消した。
「クソッ・・・!!」
彼方に向かって叫び、膝に手をついて息を整える。銃が震える。
「No1013」
「史上最悪の犯罪者」
それがターゲットだ。
――――――――――――――――
逃げ切った男が村を歩いている。霧が覆う夜、身を隠すにはちょうどいい。
「ぐっ・・・」
肩から流れる血をおさえ、震えながら何事か呟く。やがて、息がゆっくりと通常の呼吸音を取り戻す。よろめきつつ、
まばらな家々を通りすがる。ひかえめながらあたたかな窓の光、わずかにもれる笑い声・・・
― ああ、俺達も、最初はあんなだったのにな
思い出が男の頭に巡る。頬にあたたかな筋が伝う。あの時以来、永らえさせられている「不死身」の身を何度も呪った。自らにかけた死の呪文でさえも、彼を滅ぼしはしなかった。
俺はいまだあのときのまま。青年の皮を被った、屍。
何故、
何故
なぜ・・・・・
穴の開いたブーツを引きずるようにして、また男はいづこへと消えてゆく。
――――――――――――――――
数世紀前―
戦士、魔法使い、体術使い、賢者、祈祷師、そして勇者・・・その昔、この国が建つ前から、彼らは英雄であった。遠い国から攻めてくる魔物の軍勢を押しのけ、人々を守り、人々と魔物との間において境界をつくった。
彼らはほめたたえられ、その功績は未来永劫となる、はずであった。
勇者が堕ちた。
そんな噂が広まったのは間もないころだ。
いわく、女児を誘拐した。
いわく、権利を利用し店主から金を恐喝した。
また数々の女性とみだらな関係をもった。
数々の噂が勇者をどのようにさせたのかは分からない。最初は公衆の前で熱心に否定し、演説していたものの噂が加速するにつれ暴力沙汰にまで発展し、以来、その姿を見ることはなくなった。
とどまることを知らない流れはやがて国を揺るがし始める。
魔物と結託して国を滅ぼそうとしてるなどと流れたときには、民衆の不満と懐疑は頂点に達した。決定的にさせたのは、道端で魔物に襲われたとみられる少年が倒れていた事実。
毎日のように押し掛けるデモ隊を国は無視することもできず、ある日変装していた勇者は、深夜の道を捕らえられた。否定は焼け石に水であった。
騒ぎを聞きつけた賢者が目にしたときには、あわれ髪の毛は抜け落ち、衣服はズタズタ、腕にはすでに罪人の印を刻まれた半死半生の旧友の姿であった。賢者、もとい当時の国の補佐官は民衆を説き伏せた。もともとの人望もあり事態は一端の収束を迎えたが、厄介だったのは「勇者」という体質。
名のもとに課せられた不朽、および魔王にかけられた「不死」という業のため、国は彼がこの先も生き続ける未来を、国の未来を恐れた。
元勇者をのぞくパーティはじめ、会合が行われた。最終決定権を信頼に値するパーティにおいて。
結果、賢者をはじめ、かつての仲間は彼を国外に追放した。
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