西獄の果てに

眠りから醒めると、夕日の光が岩陰にちらちらと零れて、ゆれている。


「・・・」


ごそり、腕を動かしてみる。真っ黒なカラスの目が自分を仰ぎ見た。問題はない。少し痛んだだけだ、過去の―夢をみていた。

ごつごつした地面から起きようとして、滲んだ砂利とともにうめき声をあげた。

何度目の日常が来ただろう。この洞窟には俺以外もう誰もいない。

俺も、


危険だなんてことは分かっている。

ろうそくの火を消し、弓矢を手に取った。くたびれたリュックを下げると立ち上がる。


出発しなければ。


ーーー――――――――――――――――

ep.1 過去


”西の方角を知っているかね?”


この言葉に騙されたことがある。どことも知れぬ森の中で、一人の老人と出会った。持ち物も何ももっていない。せめて助けになれば。

応えようとしてダマされた。突然何者かによって後頭部を撃たれ失神した先の、「村」。


彼女の助けがなければ、とうに「生贄」として悪魔に捧げられていた。命辛々脱出し、そこで能力(ちから)を失ってしまった。自活を始めてからはや3週間。


俺は西を目指している。


xxxw年、今は、今となっては誰もがソレを知りたがる。

地軸は少しずつ、太陽に傾き始めている。

この星は、「彼」によって愛された。愛されたものの運命は滅びる定めにあるらしい。


誰もが安楽を願った。

西には神が創り給うた新世界がある。そんなキセキを信じて。


ーーー――――――――――――――――

ep.2 今日の晩ごはん


・鹿肉とトマトの煮込み

・イタドリ


――――――――――――――――

ep.3 舞い降りる天使



「あたし、ニンゲンなんて大っ嫌い♪」

少女は極めて無邪気にそう言った。


この時期には肌寒い、白いワンピースを着ている。少し汚れている。

背後にはザーザーと緑の滝が流れている。

「あたし、大っ嫌い」

「キライ」

「キラ」


開けた空から青空が広がっていた。苔にまじって木々の間を光がせせらいでいる。

少女は笑う。笑いながら狂っていた。首筋のA145がのぞく。アンドロイドだった。


「俺は人間だ。」


沈黙


彼女は奇妙な目つきをした。入ってきた太陽の光の眩しさに思わず、と言った風に。

目線がこちらの得物に移る。

鳥の血で汚れた腕と拾ったガラクタでつくったナイフ。


無言で掴みかかってきた。トン、と両足で飛んだ、白い顔、大きな黒い瞳がただ、「ニンゲン」をみつめていた。ふわりと藍色の髪が肩と頬にふれ、そのまま地面に押し倒される。


抵抗しようとは思わなかった。空がいっそう透き通っているようだった。少女が微笑んだ。

「サヨナラ」

白く細い腕が伸びてきて、滝の激しい振動とともに呼吸が止まる。

自殺とか、他殺願望とか、はじめからありはしなかった。でも

指がどんどん喉元に喰らいこんできても、彼女の前だと忘れてしまう。


かつて出遭ったどんなモノよりも純真すぎて。


時は止まらない


ぼやける視界の端に禍々しいものをとらえてしまった。

「人間喰らい」

瞬間、咄嗟に手を振りほどき、笑い声をあげる少女とともに逃げ出した。


ーーー――――――――――――――――

ep.4 おいてけぼり


10月3日(水)

ガレキの街につく前、少女はどこかへ行ってしまった。


ーーー――――――――――――――――

ep.5

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