ep.5 V

「うぜェんだよ。」

路地に怒号が響きわたる。


「ちょっと、カラオケでやってよ(笑)。」

冗談のつもりだったのに、こちらの静脈までさざめきそうなぐらいの眼球がギロリと、こちらをむいた。

はいはい、黙ってろってことですか。

再び獲物?の襟首を引き寄せる友人。

達彼 蒼(あおい)。


31そこそこくらいの青年が呻く。

そんな彼に容赦もなく自分の顔を引き寄せ、唾の飛ぶのも構わずに、

「力で押さえつけるんじゃねェよごみくずが!そうやって暴力で相手に責任押し付けて、楽でいいよなぁ?テメェのこともテメェで片つけらんねぇで。人様にすがりつくだけの要介護者よ、不憫なもんだぜ!」

また始まった。

「ねえそれ俺もきいてるんだけど。俺のメンタルにとってよくないんだけど。」

「じゃあどっか、コンビニでもいっとけ。俺はこいつに用があるんだ。」


そうしたいのにできないのが何でかわかるか?一回警察のお世話になってるんだから。


確かに突っかかっていったのはこっちのほうだ。クレーマーで有名な(ゲーセン)こいつに目を付けられ挑発された。それだけのことだ。



「お前は幼稚だな。幼稚以下だよw。」

やめときゃいいのに煽る男性。駄目だ、こいつの神経もわかんない。

こっちが手を出せない(大学生)のを分かってるんだろう。楽しそうに笑う。前は(別件だが)話し合いですんだだけよかったほうだ。これ以上騒ぎが大きくなったら、面倒くさい。



蒼の拳が痙攣してように震えている。血管が今にも音をたてそうだ。まずいな。

「なあ、アイス買いに行こうぜ。」

「ああ”?」


腕を引っ張って小声で言う。

「ほどほどにしとけ。あいつのテンションに引っ張られてどうすんだよ馬鹿。構ってくれてありがとね~♪って。」


凄んだ目で睨み付けると、少しは怒りがおさまったらしい。

「・・・チっ。」


へらへら笑ってる男を置き去りにして路地を去る。

快晴だというのに灰色のシャッターと雑草だらけ。寂れている。人もまばら。

セミがギシギシと暑苦しい。


こういう町だ。



「あちー・・・」


アイスを食べていると、



ズンッ


「おい、何か変な音しなかったか?」

ふいに草むらの向こうから何か妙な音が聞こえたので、思わず二人して立ち止まった。

「誰か地団太踏んだんじゃない?」

「そんなわけあるか。」

誰もいない。草原の向こうにはトンネルがあるけど、十数年前、対面の道路工事とともに新しい橋が架かってもう使われていない。


「こっちだよこっち。」

「!」

いきなり腕をとってその方向に歩いていく彼、なにか嫌な予感がする。

「やめとけってば!」


しかし、残念ながらこのKYを振り切るほどの腕力があるわけでもない。

当然のごとくトンネルに引き寄せられ、気が付くと入り口に立っていた。

なめるような黒い深淵の奥底からしんとした風の古いにおいを連れてくる。ボツボツとした黒い汚れに交じって気持ち悪い。

構わずに周りをうろうろうろつき始める。


「ここだと思ったんだけどなあ。」

「おいKY、いい加減にしないと縁切るぞ。」

「ひでぇな。」

それでも気になるらしく、しばらくトンネルの中やら付近の茂みを見回した後、

「・・・しゃーね、何もなかったってことで。」

お手上げのポーズをして、ほっとした俺も背を向けた


途端、硬直した。



なにか、いる



隣を見ると、彼も固まっている。固まったまま、片目で合図してくる。

冷や汗がツーと垂れる。


駄目だ、でもそれはトンネルのなかにいる。

こっちを見ている。でも、振り向いちゃだめだ。絶対に駄目だ。

・・・危険を感じた頭がヒートアップしていくのがわかる。


え、こんなことってあんの?怪談?そんなのテレビで十分だよ。なのになんなんだよ、この状況。さっきまでフツーの日常だったよね。ただの遊びみたいに続いてたよね?

その延長にあってはいけないもの、なのに、拒絶できないこの現実。

なんでだ。

なんでこんなことになってる?!あいつのせい?―でも断らなかったのは自分。


プレッシャー

全身が警報機のように鳴り響いて心臓がうるさい。


怖い。



誰か――――――――――――――――!



不意に体が前かがみになって風が起こった。

「走るぞッ!」

蒼が、目の前にいて腕をとって走っていた。

息が吹き返したようにせっついてくる。肺から空気が大量に入ってきて。

足が感覚を取り戻してきた。よし、その調子だ・・・!

こんなに必死になったのは、たぶん後にも先にもない。

だからこそ



何 だ っ た ん だ 

・・・


「向くな!」

彼の忠告を無視し、思い切って顔を後ろに向けた。



なんにもいなかったはずのトンネルの中。



「・・・・・v・・?」

それがちらりと、赤い閃光を放ったようにみえた。


――――――――――――――――――――――――――――




「vぃ?なんだよソレwウルトラマンの亜種とか?アハハハハw」


楽しそうに右手でコップをゆらす金髪の女性。右耳に銀のピアス、中指にキラリと指輪が光る。冗談でしょ、とばかりに鋭い目がいたずらっぽく歪む。

埃っぽいせいか、照明は爛々とおぼろげな雰囲気を醸し出している。

人の少ない夕方の時間。街中のとあるカフェ&レストにて、俺と蒼は待ち合わせしていた友人に一昨日のことを打ち明けていた。・・・その隣に申し訳なさそうに縮こまっている気の弱そうな制服男を除いて。


「なあリン、そいつ誰?」


当然の疑問だと思ったが、笑いが止まらないらしく黒い鞄を抱えたままうつむいて震えている。握りしめていた手からうっかりキーホルダーが床に落ちた。所詮俺らは「お馬鹿コンビ (蒼10;俺1)」でしかないのだ。

「っすみません!」たえきれずに男の方が挨拶した。拍子に黒メガネがずれる。緊張しているのか赤面しながら。


「僕は、あの、僕はリンさんに頼まれてきた


「自称霊感兼ストーカー少年だよ、諸君。」


「唯名さんっ・・!!」みるみる蒼白になる男。


「「ああ?」」


二人して聞き返してしまう。いや、パワーワードすぎる。



「・・・すとーかぁ?」


早くもブちぎれそうになる蒼の腕を抑えつつ、向き直ったリンの返答を待つ。


「まあそんなのはどうでもいいいんだけど、」


「いやよくないだろ。手ぇ放せよ、瀬川。」


「ひっ・・!ごめんなさぃ!!」


どうも事実は事実らしく、震えて涙声になりながら必死で頭を振っている。とれそう。


「でー、百歩譲ってあんたらの言うことが本当だったとしてもさ、それからなんもなかったんでしょ?」


「「・・・」」


否定はできない、けど気味の悪さも抜けない。


「じゃあいいじゃん、って「あたしも」思ってたわけ。そこで眼鏡の登場。」


「・・・あそこ、人が死んでるんです。」


「ちょっと待て、どうやってリンに近づいた?」


まさかの伏線回収の前に制止する。ていうか少年、否定しないの?(眼鏡)






















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