ep.3. 異世界に不時着してしまったんだが、エラーばっか。

・・・・・・・・・


辰巳 央河(23)は懊悩していた。




ちょっと待って。

今、俺ここで料理してたよね。

晩御飯のチャーハン、作ってたよね。




どこだよ、ここ。




寝ちまったのかと思ったけど、寒いわ。

超寒いわ。

夢すら肯定させてくれないわ。



まだパーカーを着ていたのがせめてもの救いだろう。しかし裸足にはきつい。

空を仰げば一面の星空。しかしその下は・・・ザァーザァーと小刻みに揺れる砂漠の海である。


・・・あー、なんだっけ。

よく「きれいな風景」とかに出てくるあれ。旅の写真のあの、一部、だよな?


まって。俺、もしかして・・・


死んじゃった?


ゾクっとして思わず胸に手をあてる。が、心臓は当たり前のように、しかしバクバクと荒く波打っている。そして左手にはフライパン。



”飯は必然的にチャーハンだな。”

頭だけが冷静に働く。


本当は家で食べる予定だったんだがな。

それに、


ポケットを握ると何かが入っている。


スマホ


「動いてんじゃん!」


早速友人に連絡をかける。


・・・ツーツーツー。。。。。


。。。。。


うん、県外だわ。ていうかここ、国外of 国外だわ。



最期の砦といくか、ってか切り札だけど。



「ねえsiri、ここどこ?」



「わかりませ―」


突然画面が変動した。


「さあ?」


予想外の答えに思わずフライパンを落としそうになる。



「どこだって聞いてんだよ。」


無性にイラついてきて、低い声で脅す。相手が誰だろうが、こいつの余裕ぶった態度がどこかゆるせない。

が、声は中性的に、平坦なまま続ける。



「ソーシャルナンバー11109078、お前は死んだ。とはいえない。」


淡々と呟くsiri(?)


「ナンバー???  ! ってか俺、やっぱり」


「意識不明になっただけだ。」


「なんで?」


「・・・」


急に黙りこくった彼、に何か聞いてはいけない事情があったのかと思い、思わず片手でチャーハンを、すくった。


「それでお前、だれなんだ?」


そのまま会話が続く。



「お前自身だ。」


はあ?


「しばらくここがお前の世界だ。いつまで続くかの保証は、ない。・・・が、安心しろ。せめて近くの村までは案内してやる。」


「え、一緒にいてくれるんじゃなくて?」


少しでも元の現世をとどめておきたかった彼としては、正直戻るまで共に行動してほしかったのだが。


「無理だ。時間がない。」


「時間?」


『すみません。もう一度言ってください。』



「!」


「悪い。」


いやお前、そっちのほうが通常運転でしょ?と言いたいのをこらえ、質問をぶつけようとした、が


「時間がない。」


言葉に遮られる。


「あらましを説明する。お前はこの世界に、現世からエラーとして送られた。そしてここに存在している。ここは重力と魔物を除けば環境は変わらない。重力は元の1/3だ。よってお前は身軽なはずだ。」


そういわれてみれば、確かに体が軽いような。 魔物?


「しかし忘れるな。ここには魔物がいる。そしてその魔物はかつて、絶滅に瀕した人間によって作られた、遺伝子改変の末の姿だ。 彼らは獰猛なうえに程度にはよるが知恵がきく。忘れるな。 手に負えないと思ったら逃げろ。」


ズザ―――――――――――――


画面が白黒になっていく。


「おい!」


「幸運を、―――――祈る。」


マップが映し出された。


叩いても騒いでももう、反応しない。





突然自らの生命の存亡にたたされた彼は、その時、なにか蠢く気配を感じた。


ズザザザァ――――――――――――――――



「うぇ!?」


咄嗟に地面にかがまり、辺りをうかがう。と、


そこに信じられないものを見た。


地面からエイのような巨体が砂を流しながら地面から、ゆっくりと浮遊していく。

小さな目が赤く光り光線を描く。


「・・・んだよ、あれ?」



あれ、


あれが、魔物ってやつなのか・・・?



ザッバーン!


勢いよく再び砂原にもぐる魔物。途端に地面がグラグラ振動を起こす。



「 うぁ!」


勢いよく尻もちをつき、とっさに立ち上がる。


まずい、これは


「見つかったッ!?」


確実に光がこちらを狙ってきている。


やばい、逃げないと!


足が勢いよく回転したことに驚いてつまづく。


そうか!


ここじゃ俺は身軽だ。



しかし相手も魔物である。どのくらいもつか・・・


再び颯爽と駆けだす彼の後ろから、ズンズンと追ってくる魔物。


何か重いと思ったら、フライパンを握ったまま走っていたことに気づく。


「捨てよ!」


と、振り上げた瞬間、魔物がうろたえたように見えた。


まてよ・・・?



こいつ、砂漠の生き物なんだよな。今は月の光も出ている。

それに、


カァンと手をフライパンに打つ。



    コ ” オ ォ ォ ォ――――  ォ オ  ン  !



高い声が響く。


やっぱり。


こいつ、音と光に弱いんだ。


一瞬のひるんだすきにグッと距離を開き、いつのまにか小さな木々がポツポツと生えているところまできた。


「ハァッ!、ハァ・・・・ッ!」



とにかく音のしないところをみると、上手くまけたようである。


「はっw・・・ついてんな」


しかしマップを見るのを忘れていた。



・・・

逆方向じゃないか・・・・・



思わず手に膝をつく。


でも


なにか、違う力が湧いてきて興奮している自分に気づく。いや、これは歓喜か?


サバイバルホラー感満載なのに。

神経が危険信号ばっか放ってるのに。

いや、だからこそ生命がほとばしるっていうか?

なんか、生きてるってかんじ。

ゲームよりも、果てしない不変の日常よりも




やってやるよ。



そうして彼は元来た道を、初めの村を目指し始めたのであった。


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ep1. Over flow.


一週間後…


「・・腹、ヘッタ・・・・」

地表に緑が萌え始めるころ、一人の青年が猫背のままひょろひょろとさ迷い歩いている。

名は辰巳 央河。

ちょうどいまから一週間前にこの世界に「不時着」した地球出身者である。


足元はいわずもがな、くたびれた灰色のパーカーは長い間砂漠の砂風にさらされたせいか、ところどころすすけてほつれている。

だが彼の表情に比べたら何でもないことだ。もし人が見たら、その様を一枚の皮をまとった、どす黒く青ざめて死に損なったゾンビ、あるいは道行く途中で魂を奪う死神にみえたかもしれない。幸い、この場所を通りかかる者はいまのところ見当たらない。しかし現状、それは「悪運」でしかない。


「オイ、」

手元の何かに向かって荒々しく声をかける。スマホ、という地球型の機器はいまや、わずかな振動をたててマップを表示するだけで何も答えない。


「何か言えよ」


獣の皮を繕い焚火を焚き、砂漠の夜の寒さに耐え、食べられるものは何でも食べてきた。進んでいるうちに、本当に様々な動物や植物がいることも分かってきた。

(砂漠でさえ、夜中だけに生える青い百合やキノコ、

黒いキツネ、二足歩行のテン、灰色のイノシシ

独特の香りで虫を呼び寄せる苔、

歩く木々

ゴースト

あのエイもどきのミニチュア版

・・・)

生きる術もなんとなく分かってきた。

しかし、肝心の目的は達成されていない。

地図には辛うじて、端の端のそのさらに端をこえた奥地に赤い点が見える。夜通し歩きとおしてまだ近くにあるはずの山すら越えていない。


遠い、遠すぎる。


「チっ・・」


「自転車でちゃちゃっと行ける距離」 彼の日常である。

我慢の限界が近づいていた。


「糞野郎!この馬鹿!黙ってんじゃねー!!」


よって彼の矛先は、不本意にもこんな世界に飛ばしたスマホ (を操っていた者)に向けられる。

空のした、広い草原地帯。手元の機器に向かってひたすら罵詈雑言を吐き続ける男が一人。・・・

何のことはない、不審者である。


道などない。足跡から道はできる。自由だというのもまた、冒険にはある。

冒険には危険がつきものだ。

あらかた焼いておいたケモノの肉、といっていいのかどうか・・・

奇妙な紋様のあるツノを袋に押し込みながら残り僅かな青い肉片をかじり取る。味は悪くない。慣れてしまっただけだ。

もとの世界じゃ遺伝子改変だのなんだの問題になっていることすら些細に思える。


夕暮れがゆっくりと沈んでいく。

永遠と線を伸ばしていそうな日常の時の果て、そこに異変があった。


決して良い出会い方、とはいい難い。


少女がいた。


「―人殺しッ!」


目が合った途端に声高にそう叫ぶ。藍色のコートを着ている。透き通るような白い顔、白い髪の毛はショートボブ、ぱっつんの前髪からパッチリとした黄色いつり目が睨み付けている。  一瞬面食らう。


「嬢ちゃん、そりゃねえよ。」


反射的にそう返してしまったのだが、はずみで口元からポロッと肉が落ちる。

少女の目が見開いた。その目から涙が零れ落ちる。


「おいおいおい」


困ったという風に頭をかく。しかし、なぜ少女が一人だけでここにいるのか。








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