ごめんね、ありがと

 思ったことをそのまま口にしたのに、

 それはことばになった瞬間、安っぽいガラスのように砕け散った。


(ハハ…………なんだそれ。

 どこかの歌の歌詞かよ。借り物のことばだよ。

 もうちょっと何とかしろよなー、俺)


 ミムの目がまた涙でいっぱいになり、

 涙と一緒にヒロハルの胸に突っ伏した。


(ああ…………。

 これで、今度こそ本当に、終わったな。


 ごめんなミム。

 何にもできなくて、ほんとごめん)


 ただ単にそうしたかったというだけの理由で、

 ヒロハルはミムの背中をずっとなでていた。





 しばらく経って、ミムはくしゃくしゃの顔を上げた。


「ごめんね。


 …………ありがと」


 まだ鼻をぐしぐしいわせながら、

 ズレた眼鏡で、ミムは一生懸命笑顔を作った。


 そんなでも、かわいかった。


 ヒロハルはことばが見つからず、

 ただ一生懸命笑顔を作って、立ち上がった。


「もう大丈夫?」


 ミムは小さくうなずいた。


「じゃあ、俺、帰るな」


 精一杯やさしく聞こえるようにそう告げて、

 せめて去り際ぐらいは美しく、

 ふり返る未練など残すまい、と背中を見せたその瞬間、





「待って!」


 いわれたのでヒロハルは素直にふり返った。

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