黒い気持ち

(ヒロくん、悩んでたんだ…………。


 私、そんなことも知らないで余計なこといっちゃった……。


 それどころか私なんて、

 昼間からあんなことを………………)





 妄想ノートは妄想のネタを書くノートだ。

 そしてミムは、推しで妄想することを固く自分に禁じていた。


 では――――――誰で?


 自分の欲望で推しを汚すようなマネはできない。

 でも、幼馴染なら平気だった。

 まったく気にならなかった。


 いつか推しにふさわしい自分になったその日のために(その日が決して来ないことも知りながら)、

 幼馴染でイメトレ、ぐらいの軽い気持ちでいた。

 いまのいままでは。





 いま、ヒロハルは真剣な眼差しでミムを見つめている。


 ヒロハルに見つめられれば見つめられるほど、

 ミムの罪悪感は深く、大きくなっていく。


(その上、ヒロくんを疑って、

 自分に都合のいいように操ろうとして………………)


 そう思うと、幼馴染の顔をまともに見れなかった。


 まばたきをすると、涙がひとすじこぼれ落ちた。





「ミム」


 心配そうな声でヒロハルに呼びかけられ、また涙がこぼれた。


「ミム…………泣くなよ。泣かないで」


 そんなことをいわれたら、もう涙を止められなかった。


 なんでヒロくんのほうが泣きそうなのよ。

 なんで。なんで。

 もうやめてよ。


「私…………、

 ズルい女だから。

 汚い女だから」


 嗚咽の合間合間に、ようやくミムはそれだけを絞り出した。


「ミムは汚くなんかないよ」


 ヒロハルのことばを聞いたミムはくしゃくしゃになって、

 黒い気持ちを押し出すように、いった。





「ヒロくん、私のこと何にもわかってないじゃない」

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