思いがけず

(いま帰ったら変に思われるかな。

 かといって、このままここにいても気まずいしな)


「もう俺、帰るから」


 そういってヒロハルが背を向けたとき、






「待って」


 キッチンは部屋より広々としているせいか、

 距離が急に遠くなった感じがした。


「え」


「あ…………。

 もうちょっと……いても……いいんじゃない? っていうか」


(あれ?

 なんで『待って』とかいってんの私?


 ヒロくんが帰ればノートのこともバレないんだから、

 そのほうがよくない?)


 なのに。

「それとも…………なんか用事ある?」


「いや……別にないけど」


「じゃあ、いいじゃん」


「うん」

 ヒロハルは椅子に腰を下ろした。





 けれど引き止めてしまったぶんだけ余計に沈黙が重い。


(うーん、話題話題…………。


 用事、ないんだ。夏休みなのに。


 あれ? たしか)


「そういえば、ヒロくん野球部だよね」

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