秘密・3

 キッチンに入ると、ミムは割れたコップをかたづけていた。


「俺がやるから。

 ミムは床ふいて」


「あ、ありがと。

 ぞうきん取ってくるね」


 ヒロハルは手に持っていた布を渡しそうになって、


(っぶねー!)

 あやうく踏み止まった。


「……あ、危ねーからガラス気をつけろよ」


「うん」


 そのすきにヒロハルはパンツをポケットに入れた。


 ミムは気づかなかった。

 創作ノートじゃないほうのノートのことで、頭がいっぱいだったから。





 創作ノート――――――――。


 それは、夢小説用のアイデアをメモしたノートだ。


 ミムの最推しは、銀髪赤眼の高飛車系。

 その推しに、

 ふだんは(ことばで)嬲られなじられ踏みにじられ、

 でもそこまでしつこいのはミムに対してだけで、

 ひとたびプライドがへし折られると、ミムの前でひざまずいて、上目遣いで許しを請う、

 請われたい。

 そういう立場にミムはなりたい。


 ――――でも、

 創作ノートの中でふたりは、ケンカしたり、仲直りしたり、イチャイチャしたりしつつ、

 最終的には添い寝かハグかキス(ディープじゃないほう)止まり。





 だって、尊すぎてダメなんです。

 そんな、自分の下衆な欲望で推しを汚すとか無理なんです。


 これが相手の欲望ならね、いつでも汚される、いや汚していただく心の準備はできてるけど、

 そんなことあり得ないんです、悲しいけれど。

 いやむしろ推しには、自分ごときに欲望をいだく人でなどあってほしくない。





 そしてミムの世界には、創作ノートと対をなす、もうひとつの存在があった。


 ――――その名を、妄想ノートという――――――。





 妄想ノートは、通常状態では創作ノートと同様、引き出しの奥深くに隠されている。


 しかし妄想タイムには、枕の下に置かれることでその真価を発揮するのだ。

 いや、しないけど。

 なんとなくそのほうが、はかどる気がするので。





(枕の下に置いたといっても、何かの拍子に飛び出したかもしれない。

 枕自体が動いちゃったかもしれない。

 もし、部屋にいない間に妄想ノートをヒロくんに見られたら…………!)


 それはミムにとって、

 パンツに手をつっこんでいる現場を見られるより、ヤバい気がするみたいな感じっぽいことだった――――――――。

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