終章 大好きな彼女達。
47話 超越した想い。
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─“俺”は今、“あの頃”の思い出がとても深い桜ヶ岡高校の屋上に来ていた。
まだ夏なのに、夜だからか、少し肌寒かった。
大人になってここに来ることになるとはあの時は思いもしなかった。
誰もいない校舎に忍び込んで屋上に来た俺は、ちゃんと今までの『思い出』を確認してここにたどり着いた。
高校生時代に“
最初は、『俺の青春どうなるんだろう?』と思ったけど…それも今思えば悪くなかった。
むしろ俺はもっと彼女達の気持ちを尊重して、大事にすればよかったのかもしれない。いや、
そうすれば彼女達が“最後”あんな悲しい顔をすることがなかったのかもしれない。
そう、みんな強がってたんだ。幸せそうな顔をしながら本当は…
ふぅ、と息を吐きフェンスの前まで行く。
登る前に自分の意思を再確認する。
「………悔いはない。ない、はずだ…………あれ?どうして涙が出るんだ…?」
おかしいな…すべて吹っ切ったはずなのに…こんなんで自殺とかできんのかな…?
いや、悔いはあるのかもな…
もう一度…
「…思い返して見よう。…死んで何もかもなくなる前に。」
そして俺は、目を瞑って“5年前”の記憶を思い返す。
そう…あの日のことを─
* * *
「…はは…懐かしいな…本当に。」
俺は5年前の記憶を思い出していた。亜希菜と美春と付き合って楽しかった日々を。
「そういえば…」
アイツは…裕斗は元気だろうか…?
高校を卒業して以来、裕斗とは会っていない。かつて、あの二人を論破し、更には束縛を軽くするという、普通はありえない偉業を達成したすごいやつだ。
アイツのことだ。きっと達者でやっているのだろう。
…最後に会っておけばよかったな…………いや、会っていたら自殺をしようと思っていることがバレていただろう。
アイツは妙なところで勘が鋭いからな…
「本当に………今、何時だ?」
俺は呟いて腕時計を見ると、『PM:9:30』だった。
随分と長い時間、回想にふけっていたようだ。
「…死にたくないのか…?…はやく二人に…亜希菜と美春に会いたいはずなのに…」
俺がそう言うと、『まだだ。』と心の中の自分が呟いた。
…そうか。まだすべての記憶を辿っていないか…
「…裕斗の偉業のあとは………あっ…ふ、ははは…そうだ、そうだ。
そう言って目を瞑ると5年前の夏休み明けの始業式を思い出す。
* * *
─ああ。本当にあの頃は楽しかった。こんな自分なんかに可愛い彼女が3人もでき、ハーレム状態。あんな夢のような状況で俺はどうして素直になることが出来なかったのだろう。3人の愛情は酷く歪んだものだった。嫉妬が強く、束縛もあった。だが…
たとえ形がどうであれ、俺は愛されていた。
…誰もが羨むぐらいに。
だが、それに俺がその思いに応えた事は一度もなかった。
なんであのときにその思いに応えることが俺は出来なかったんだろうか。
今でも思い出すとそう思える。
『生きたい。』
─なんで?生きて、俺はどうする?
『まだ死ねない。』
─
『死んだところで何になる。』
─決まってる。みんなに会うんだ。
心の中にいる自分に問われる。しかし、俺はその言葉を掻き消した。生きたいと思ってしまったら、亜希菜や美春、咲来楽に会えないからな…
咲来楽が3人目の彼女になり、なんだか自分の周りが一変し始めた時だった。…まぁ、亜希菜が彼女になった時点で自分の周りは一変し始めたが。
でも、あの時は確か─
そう。突然。本当に突然起こった。思い出すと胸が締め付けられて…苦しくなる…あの悲しい記憶─
でも…それでも俺はすべてをもう一度思い返すんだ。悔いが残らないように。死んで、生まれ変わった来世でコレラの記憶を枷として。
「………ふ」
俺は不敵に笑う。
─ああ。そうだ。俺はこんなところで死ぬんじゃなくて…
─俺はあの時に死ぬべきだったんだ。
そう呟いて再び、5年前の記憶を思い返した。
…自殺する要因にもなった“あの”出来事を。
* * *
そして俺は5年前の記憶をすべて回想した。
亜希菜と出会い、そして付き合って、美春がやってきて修羅場になって気付いたら二股することになっていて…新学期になって、咲来楽という可愛い妹が出来て、俺を拉致してそして亜希菜達と和解して、俺は3股することになって…そして美春を失って、その翌月に咲来楽も失い、俺は捕まった。
ようやく出れた時、亜希菜が抱きしめてくれた。それなのに、俺がいない事からのストレスもあり、がんにかかり、認知症までも患い、そのまま他界した。
「あの一年間俺は人生で一番幸せだった。大好きな彼女達に愛されて…………それなのになんでこうなっちまったのかな…」
やっぱり俺は…
「あの時に…美春じゃなくて俺が死ねばよかったのかな…」
さっきも思ったがやっぱり俺はあそこで死ねばよかったんだと思う。そうしたら、咲来楽が死ぬこともなくなるし、ストレスで亜希菜が死ぬこともなくなる。
「でも“過去”は変えられないからな。」
考えるだけ無駄か…さて、と。
「覚悟は固めた。すべて思い返した。もう悔いはない。」
俺はフェンスを乗り越えた。
と、その時だった。
『命の儚さ♪ 新愛の歌を〜♪』
ポケットに入れていたスマホから着信音が流れる。
「誰だよ…こんな時に…ま…気にしなくてもいいか。どうせ死ぬんだし、出なくて、も…!?」
俺は着信音のメロディを聴いてなんの曲か思い出した。
* * *
『お前等もこの曲知ってんのか。』
『あ、勇気君。うん、いい曲だよね。』
『命の儚さ 新愛の歌を 散らばった カケラの〜 ピースを〜』
『これ、作品にピッタリマッチしてる曲よね。』
『そうだな、ホラーアニメだからな…命の儚さとかを表現してる曲でもあるしな。』
『あっ、そうだ。お兄ちゃんとの着信音、この曲にしたらいいんじゃないかな?』
『あ、それいいね!グッドアイデアだよ、咲来楽ちゃん。』
『そうね、この曲を着信音にしとけば、私達の誰かだって勇気も分かるはずだし。』
『あ、それ、俺が設定するやつね。』
『まぁ、いいよ。それじゃ、設定するか。』
* * *
いつか…亜希菜達とした会話を思い出す。そうだこの歌は…
「『命のカケラ』…でもこの着信音を設定したのは…亜希菜と美春と咲来楽だけのはずだ…」
着信音はまだ鳴っていた。俺はスマホを取り出し、見て驚愕する。
「っ!?」
それと同時に涙がぶわっと溢れ出た。着信画面には、
『あなたが大好きな彼女達。
姫乃亜希菜 打越美春 紅条咲来楽』
と表示されていた。
俺は黙って通話ボタンを押した。すると…
『『『勇気!』君!』お兄ちゃん!』
3人の…大好きな彼女達の声が漏れ出した。
「なんでだよ…お前等…死んだはずじゃ…!」
俺は電話越しに叫んだ。死んだはずの彼女達と通話している現実を受け入れられなかったのもある。
『なんでって…勇気の事が
この声は美春の声だ。
「っ………」
『
『お兄ちゃん、何泣いてるのよ?もういい大人なんだからみっともないよ。』
続いて咲来楽の声が聞こえてくる。
「なんで分かんだよ。」
「─それはね、勇気君の事が好きだからだよ。」
突然、亜希菜の声が通話越しじゃなくて真後ろから響く。
俺はバッとフェンスに掴まりながら後ろを振り返る。
「みんな…っ…」
俺の後ろには亜希菜と美春と咲来楽がいた。俺は幻影でも見ているのだろうか…?
一度目を瞑り、深呼吸をする。そして目を開ける。
が、彼女達が消えることはなかった。
「勇気君、自殺なんてやめて。私達はいつまでもあなたの側にいるから」
亜希菜が俺をそう諭す。
「勇気…もう私達はいないのよ。あなたは私達に囚われちゃダメ。自分の道を進まなきゃ。」
美春も俺をそう諭す。
「お兄ちゃん…辛かったよね?みんな…次々と死んで…でもそれを乗り越えて。お兄ちゃんになら出来るはずだよ」
咲来楽も俺をそう諭した。
「やめろ…やめてくれ…自分で選んだ道を進めというなら死んでそっちに行くしかないだろ…なんで止めるんだ…」
「私達は勇気君に死んでほしくないから今、ここにいるんだよ?」
亜希菜の言葉で俺ははっとして彼女達の顔を見る。
みんな…真剣な顔だった。
「…美春…ごめん。俺があの時、寄り道しようなんて言わなければ…咲来楽…ごめん。助けられなぐて。そして亜希菜…5年間寂しい思いをざせてごべん。」
俺は彼女達に“あの世”で会ったときに言おうとした言葉を言った。
言いながら俺はずっと涙を流していた。しかし、それは俺だけじゃなかった。いつの間にか彼女達も涙を流した。
「私が死んだのは勇気のせいじゃない。
「お兄ちゃん、私、嬉しかったよ。私の為に必死になって探してくれたこと。それだけで充分。」
「勇気君…もういいよ。その気持ちだけで充分。だから…」
3人はそれぞれの“想い”を俺に話す。
「「「死なないでよ!!!」」」
そうか…
俺はようやく分かった。
こうしてまた彼女達と会えたのは彼女達の【
俺は生きる覚悟を決め、戻ろうとする。
しかし、そこで突風が下から突き上げた。
フェンスを跨ごうとしている俺はそれにバランスを崩し、屋上から真っ逆さまに落ちて行く。
「結局─」
俺は落ちる瞬間、走馬灯と言うやつなのだろうか…?
【あとがき】
おはこんばんにちわ。春咲勇気です。
みなさん、最悪なバッドエンドで完結したと思ってませんか?
いいえ、完結してません!完結する訳がありません。ということでもうしばらくお付き合いください。
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