41話 咲来楽の失踪。

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「はっ、はっ、はっ…どこだ!どこにいるんだ!」


夜の街を俺は一人走っていた。大切な人を探すために。彼女が、俺につけていたGPSを辿ってあちこちを走り回っているが、GPSが切られていた為、追跡も出来ない。


「ち、くしょう…」


俺はとことん運がない人間らしい。


こうなったのは、今日の放課後のことだった─


* * *


「─お兄ちゃん、今日は亜希菜と先に帰ってて!」


唐突に咲来楽からそんな事を告げられる。


「え、咲来楽ちゃん、どうしたの?」


亜希菜も咲来楽の発言には驚いたようで訊き返していた。


「逆にどうした咲来楽?」


俺がそう言うと、何故か頬を赤らめ、


「ううん、なんでもないよ。でも今日は先に帰ってて。…その後に、ね…♡」


「?」


何故かのりのりな咲来楽と別れて亜希菜と帰路につく。


「ねぇ、勇気君…」


「なんだ?」


亜希菜が突然立ち止まって、声を掛けてくる。


「家に帰ったらさ…シない?はぁ…はぁ…」


亜希菜は振り返って、息を荒らげながら俺に歩み寄ってきた。


「お、おい、落ち着け?な?」


それでも亜希菜は止まらず、俺に抱きついてくる。……いや、家もう少しなんだけど…


いや、ちょっと待て!この言い方はまるで、家に帰ったらいいってことになるぞ!?


あ、あぶねぇ亜希菜に言わなくて良かった…


「だ、だめに決まってるだろ!第一、咲来楽が途中で帰って来たらどうすんだよ!」


俺がそう言うと、亜希菜は荒らげていた息を整え、光輝いていた瞳から光を消す。


…あれ?俺、まずいこと言った?もしかして!?


「ねぇ、勇気君…今は二人っきりのはずだよね?なんで二人っきりの会話で他の女咲来楽ちゃんが出てくるのかな?ねぇ、どうして?答えてよ。何?途中で帰ってきたらまずいの?なんで?なんでまずいの?付き合ってるんだからまずくないよね?というか、そこくらい空気読んでくれると思うけど?ねぇ!聞いてるの…?…なんでそんなに怯えた顔をするの…?ねぇ、なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?」


………やべ、めっちゃ怖い…こんな時なんて言えば………そうか!普通に言えば…


「あ、亜希菜─近所迷惑だ。静かにしてくれ。」


違〜う!なんで、俺は火に油を注ぐみたいな発言をしてしまうんだよ!


「…なんで?なんで、勇気君と私だけの会話に近所迷惑が関係するのかな?関係ないと思うんだけど…?」


亜希菜が淡々とそう言ったので俺はそこに訂正を入れた。


「いや、近所迷惑は関係あるからな!?」


そんな事を言って俺は亜希菜に何故かお姫様抱っこされ、家に、入り、亜希菜の部屋に連行された。


ベッドに手を掴まれて拘束状態にされ、俺は亜希菜に文字通り食べられた。


…逃げようともがいたのは言うまでもない。


* * *


亜希菜にこってりと(色々な意味で)搾られた俺はヒョロヒョロだった。


「………なぁ、亜希菜…」


「………うん、勇気君…」


亜希菜も俺と同じ事を思っているようで…


「咲来楽ちゃん、遅いですね…」


そう、咲来楽が帰ってきてなかったのだ。咲来楽は『先に帰ってて』そう言った。だから寄り道をしてくるのは分かっていた。


でも、こんなに遅くなるか?


「ちょっと電話かけるか…」


俺は咲来楽に電話を掛ける。


プルルルル、プッ


「あ、咲来楽?」


『あ?何だお前?』


しかし、咲来楽のスマホから声を出したのは知らない男の声だった。


俺はすぐにスピーカーをオンにして亜希菜に、聞こえるようにする。


「お前こそ誰だ!咲来楽はどうした!」


『なんだ、この女の家族か。……この女は、俺がした。探せるもんなら探してみな』


「待て!お前の目的はなんだ!」


俺がそう聞いた途端、男の高笑いが聞こえた。


「なにがおかしい!」


『特に目的なんざねぇよ。まぁ、強いて言うなら…だな』


「「っ!」」


俺と亜希菜は目を見開く。それはつまり…


『一時間だけ待ってやるよ。その間は、犯さねぇから安心しな。あ、警察に連絡したらその瞬間犯すから覚悟しとけ?おっと、GPSを切るのを忘れるところだったぜ。GPSも切っとくからよ、せいぜい足掻きな。ヒャハハハハ!』


ブツッ…


「…………………」


電話を切られ俺は放心する。だが、そんな事をしてる場合じゃない。


咲来楽を探し出さないと、駄目だ。


あんな男に咲来楽を汚させない…!


「亜希菜、留守番頼む。警察にも、連絡しちゃ駄目だ。」


「分かった…」


「必ず、見つけて連れて帰ってくる。だから待っててくれ─」

 

俺はそう言うと、動きやすい服装に着替え、家を飛びした。


残り、56分。

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