38話 美春家訪問。
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久しぶりだった。人の温もりに触れたのは。亜希菜を抱いたことにより、俺の思考は冷静になる。
亜希菜は、俺を元に戻すために夜這いしたのかもしれない。
「よしっ…!」
亜希菜が作ってくれた朝食を食べると、俺は、
「行って来る。」
そう言って、目立たない服装で家を出る。時刻は、9時47分。
この時間帯なら、美春のお母さんもいるだろう。
俺の家から美春の家は約30分のところにある。俺は小走りで美春の家に向かった。
* * *
「…結構、覚悟してきたつもりなんだが…やっぱり、緊張するな…」
俺の手には、来る途中で買った12個入のおまんじゅうが入った袋が握られていた。それを一層強く握り、インターホンを押す。
すると、インターホンから、『はい…』という、あまり元気のない返事が聞こえる。
「おはようございます、春咲勇気です。」
俺がそういった途端、何故だかわからないが、突然扉が開いた。
開いた扉から顔をのぞかせたのは美春のお母さんだった。
「…さ、入って。」
美春のお母さんに促され家に入る。
リビングに来たところで、俺は、おまんじゅうを渡す。
「つまらぬものですが…」
「あら…ありがとう。」
俺は、美春の写真が飾ってある仏壇に線香を上げ、手を合わせる。
(美春…ごめんな…葬式に、出れなくて。せっかくあの時に買った下着だって…)
俺は、思い出す。赤紫色の下着を買って彼女は、亜希菜達と共に浮かれていたことを。
………あれ、そういえば昨日、亜希菜を抱いたときに着てた下着って…
俺は、よく思い出してみる。
確かにあれは、赤紫色の下着だったはずだ。…そうか、亜希菜は、美春のことも配慮して、あの下着を着たんだ。
俺は、立ち上がると座っている美春のお母さんに頭を下げた。
「改めまして。み…雪子さん、お久しぶりです。勇気です。…葬式にも出席せず、こんな形で訪ねることになってしまい本当に申し訳ありません。」
俺は、深々と頭を下げる。
「…頭をあげてちょうだい。なにか、事情があったんでしょう?」
雪子さんは、優しく声を掛けてくれる。…自分が一番辛いはずなのに。
「…僕の気持ちが整理出来てなくて、勝手に自分は、美春の葬式に出る資格がないと思いこんで、行くことが出来ませんでした…」
「………………」
俺は、自分のことを正直に話す。
「雪子さんには、伝えとかないと、いけないことがあります。実は─」
「─美春も含め3人と、付き合っている。…違うかしら?」
俺が、言おうとすると、雪子さんが遮って言った。
「っ………知ってたんですね…」
「ええ。あの子が、勇気君と同性したいと言った時に。あの子が決めたことだから、3股してても、私は怒らないわ。」
「…俺は、美春を殺したようなものなんですよ…あの日…あの日に俺が寄り道しようなんて言わなければ…俺がもっと早く動いていれば…美春は今も笑っていたはずなんです…俺が…俺が…」
俺は、言いながら涙をこぼしていた。すると、体が柔らかな感触に包まれる。
俺は、目を見開く。雪子さんが、俺を抱きしめていたからだ。
「大丈夫。勇気君のせいじゃないわ。人はいつ死んでもおかしくない。それは誰も一緒。みんな平等よ。だから、そんなに気を落とさないで。もう高校生なんだから
」
雪子さんは、そう言って、泣く俺を慰めてくれた。本当は、自分の方が辛くて悲しいはずなのに。
俺は、しばらくの間、雪子さんに体を預けた。
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