36話 亜希菜は本気。     

「ねぇ、咲来楽ちゃん。勇気君の奪ってもいい?」


突然、亜希菜は私にそう言った。


「なに…言ってるの…?てか、葬式場で言う事…?」 


正直、亜希菜の発言は突然のことで混乱していた。


「もう一回、言ったほうがいいかな?『勇気君の童貞をもらっていい?』って言ったの。」


「そうじゃなくて!」


「じゃあなに?何か問題でもある?」


「っ………」


亜希菜は、光のない真っ黒な瞳で私を見てきた。不覚ながらも私は怯んでしまった。…に関しては私も


「…どうして、今なの?」


「?」


「どうして美春が死んだ今、言うの?」


私が訊くと、亜希菜は淡々と答えた。


「そんなの決まってるよ。私は勇気君の事が好き。だけど、今、勇気君は心を閉ざしてる。そんな勇気君を癒やして辛い記憶を忘れさせてあげられるのは、美春ちゃんと私しかいない。もちろん、咲来楽ちゃんに出来ないって言ってるわけじゃない。けど、咲来楽ちゃんは、現段階ではまだ、一番、過ごした時間が少ないし、義理だけど、妹という立場にある。だから、私しか勇気君を癒やしてあげられないの。」


「………………」


…確かにそうだ…私は義妹という立場にある。お兄ちゃんと過ごした時間も少ないし、美春が死んだ今、私じゃお兄ちゃんを癒やしてあげることは出来ない。


そうだよね…


他のメスどもに、お兄ちゃんの童貞を奪われたら反吐が出るくらい気持ち悪いけど…

亜希菜と、死んでしまった美春なら、お兄ちゃんの童貞を奪っても構わない。


「………うん、分かった。いいよ。」


この決断が私は死ぬまで後悔することになる。この時に私がお兄ちゃんの童貞を奪って、処女を卒業していたら…と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る