35話 裕斗の助言。

10/1


今日は美春ちゃんのお葬式…


勇気君には声を掛けたけれど、反応は無かった。


「……私達だけで行こう、咲来楽ちゃん。」


私と咲来楽ちゃんは喪服を着て、家を出て、会場に向かった。


葬式場に着くと、まず分かったのが、同級生がいっぱいだという事だ。

その中に最も知ってる人物の顔を見つける。


相手も私達に気付き、こちらに駆け寄ってくる。


「っ!……勇気は…いないんだな…」


「声は掛けたんだけどね…」


裕斗君は優しく笑った。そして、普段聴かない声色で言った。


「…姫乃さん…いや、。」


「っ…!」


名前呼びされ、私は少し、怖気付いてしまう。けれどもその後に続いた言葉は私が驚くような内容だった。


「前に約束したよな。勇気の事を束縛したりするのはやめろって。こんなこと、葬式の日に言う言葉じゃないが…」


裕斗君は、間をおいて言った。


。」


「っ…!?それって…」


ダメ…そんなこと言われたら…


「要するにな…勇気の事を好きにしろって言ってんだ。」


私…勇気君への感情が…


「…勇気を愛せ。この悲しみを癒やしてやってくれ。アイツは表には出さないが、死にたいって思ってるはずだ。」


抑えられなくなるっ!


「…亜希菜?だ、大丈夫?」


はっ、と我に返る。私は今、暴走しかかっていた。…いや、違う。もう抑える必要はない。暴走なんてしていない。これは私の勇気君への愛が足りないから今、一人で引きこもってる。


あははッ


もう、裕斗君の言葉で正直な自分の気持ちに気付いた。


私は裕斗君が去っていくのを見届けた後、咲来楽ちゃんに向かって言った。葬式の場で言うことじゃないけど、私は言った。


「ねぇ、咲来楽ちゃん。勇気君の奪ってもいい?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る