33話 美春の死。

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風邪が治り、ようやく学校に登校出来るようになった。俺が寝ている間は亜希菜達が俺の看病をしてくれていた。


そのおかげで随分と早く風邪が治った。


そして今、登校しているわけなんだが…


「なぁ、俺から離れることはできないか?」


3人から抱きつかれて歩いていた。


右腕に亜希菜。左腕に美春。そして正面に咲来楽。


……咲来楽に至ってはただ普通に抱きついているだけだと思う。


「「「ない!」」」


「…そうですか…」


即答され、俺は周りからの嫉妬の視線(主に男子のもの)から耐え、学校に到着する。



「…おい勇気。しばらく休んでたと思ったらなんだ?久しぶりに登校してきた初日から見せつけか?ああ?リア充爆発しろや…」


裕斗が俺に気付くなり文句を言って来た。ちょっとからかいたくなり、俺は言った。 


「お言葉ですが、『リア充』というのは『リアル充実』と、いい、爆発したら世界の人口がほぼ絶滅します。」


「おめー!わざと言ってるだろう!?ザッけんなー!」


「サア…ナニヲイッテルノカワカリカネマス」


「棒読みで言ったら許されるとでも思ってんのか!?」


「おっと…一時間目の授業の準備をしなくては…」


「逃げんな!」


………………


「「ぷっ…」」


そんなくだらないやり取りが続いて俺達は思わず吹き出す。


さて、それはともかく、亜希菜達がこっちに来る前に急いで準備しよう。


「…世界史かぁ…ダルいな…」


俺は一時間目が世界史だったことに軽く絶望しながら授業を受けた。


授業が、終わったが、ほぼ、眠っていた気がする。


世界史の山川先生は優しいから見逃してくれるけど、次の数学Aはそうはいかない。


あの先生は厳しいから寝させてくれないだろう…


俺は軽く寝ながら四時間目まで過ごした。


* * *


昼休み─


学生達にとって唯一の自由時間。


さぁ、俺も自由だ!


「勇気君、屋上に行こっ♪」


と、思っていた時期が僕にもありました…


「ああ。…美春と咲来楽は?」


ふと、亜希菜の近くに美春と咲来楽がいない事に気が付く。


「ああ、あの二人は先に屋上に行っています。さ、行きましょ。」


そう言って亜希菜は、俺の手を握ってきた。…お互いの裸を見てしまった今となってはこんなこと、なんとも思わなくなってしまった。


そして美春達と、合流し、亜希菜が作った弁当を3人で食べる。


食べ終わったところで俺は口を開いた。


「今日の放課後、寄り道しないか?」


そう─


俺はこの時、こんな提案をした事を死ぬまで後悔することになる。


* * *


放課後になり、俺達は近くの『ドンキ○ーテ』に来ていた。

クレープ屋さんでクレープを買うためである。


店内からはお馴染みの『ドンドンドン、ド〜ンキ、ドンキ、ホ〜テ〜』とbgmが流れていた。


……なんだろう、この曲を聞くと、『鈍・鈍・鈍・鈍〜器、鈍器、法〜廷』と聞こえるのは気のせいだろうか…?


「勇気君って、ノーマルが好きなの?」


俺が頼んだクレープを見て、亜希菜が呟く。


「ん?あー、そうだな。ノーマルならいくらでも食べれるしな。」


そんな会話を亜希菜達と少し話して、帰るため『ドンキ○ーテ』を出る。


出てすぐにある横断歩道を渡ろうとした時だった。


キキーッ!


突然、車のタイヤが外れて、タイヤは後ろに飛び、車体が猛スピードでこっちに向かってきていた。


…俺のいる場所に。


俺の先にいた亜希菜達がそれに気付く。


俺はとっさのことで動けないでいると、


「ッ!勇気っ!」


俺は美春に手を掴まれ、美春達の所に引き込まれる。


それと引き換えに、美春が俺のいた場所へと入れ替わる形になる。


バーンッ!


─グチャッ…


迫っていた車に美春は撥ねられ、あろうことか、そのまま轢き潰されてしまう。


内臓の潰れる音が聞こえた。


一瞬の事だった。俺と亜希菜と咲来楽はあまりの出来事にしばらく静止したままだった。


「─っ!美春!」


だが、俺はすぐに正気に戻り、倒れている美春の元に駆け寄る。


「大丈夫か!?みは…る……」


俺は美春に近づき、美春の容態を確認した。


………腕と足の骨は曲がってはいけない方向にまがっており、腹部からは内蔵がはみ出ており、潰れていた。


美春の心臓に手を当てる。脈と呼吸も確認する。


………


亜希菜が急いで救急車を呼び、美春は病院に搬送された。


だが─


美春は助からなかった。


ただ、分かったことがある。それは─


俺が放課後に寄り道しようなんて言わなければ美春が死ぬことは無かったということ。

俺が死ぬべきだったということ。


そして、死に顔がやり切った感じの幸せそうな表情だったということだ…

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