22話 裕斗の作戦。


「なんだ。そういうことね。じゃあ、電話をかけさせていただくよ─」


咲来楽はそう言ってスマホを取り出した。


「あ〜、そんなことしてもだぜ?」


俺がそう言うと、紅条さんは、『え?』という感じで固まる。


「だから、無駄だって言ってんだよ。何度も言わせんな。それともなんだ??」


俺が煽るように言うと紅条さんは表情を変えた。少しのことで感情をあらわにする。情緒不安定な所を見ると、間違いない。紅条さんは黒(ヤンデレ)だ。


「まぁ、聞けよ。お前らがイチャイチャしている間に何があったのかをな。」


そう言って俺は話し始めた。


* * *  


「…紅条咲来楽。そして、厄介な事に勇気の妹。さっき、教室に俺も残ってたんだ。一部始終は聞いている。」


「だったら…!」


姫乃さんに期待を込めた眼差しを送られた。だが…


「…いや、だな。」


俺は無理だと答えた。


「どう、して…!」


姫乃さんは叫んだ。…黒い綺麗な瞳に涙を浮かべながら。俺の返事に美春さんも反発する。


「だったらなんで私達の後をつけてきたの!」


(…………………それを言われるとぐぅの音も出ない…はぁ、俺も腹をくくって、いっちょやるか。)


「…ないことはない。」


俺は覚悟を決め、を取り出した。


「なにを…?」


姫乃さんは首を傾げながら聞いてきた。


「もちろん─勇気の母親…祐子(ゆうこ)さんにかける。安心してくれ。作戦はある。」


そう言うと、俺は電話をかけた。


プルルルル、プッ。


『もしもし?珍しいね、裕斗君?一体どうしたの?』


「あっ、もしもし。ご無沙汰しております。ちょっと聞きたいことがあって…」


『あら?なに?』


「実は勇気に彼女が出来たんですよ。」


『あら〜そうなの!うちの息子に彼女ができるなんて…あの子ったら全然そんなこと話してくれないのよ〜』


「あ、一応言っておくとです。」


『…え?二人って…まさか、勇気は二股してるの!?』


祐子さんが電話越しでも分かるように慌てていた。


「まぁ、そうなりますね。でも、この関係は彼女達が決めた事なんです。…勇気を二人が取り合ったらしくて…それで、彼女の一人が3人で付き合えばいいんじゃないかって話になったらしくて…」


『なんだ。そうだったの。だったらいいわ。』


俺がそう説明すると、祐子さんは安堵していた。そこで俺はあの話を切り出した。


「それで勇気に聞けって言われたんですけど、同棲ってまだ早いですかね?」


『同棲?早くはないとは思うけど…ほら、咲来楽ちゃんが…』


やはり、そう言われるよな…だが、こっちは勇気のがかかってるんだ。


「分かってます。でも、勇気だって年頃です。もし、二人で暮らしていて、勇気がく…咲来楽ちゃんに手を出したら…?二人は義理なのでヤる可能性もあります。それを防ぐためにも同棲はどうでしょうか?」


『それもそうね。分かったわ。勇気に伝えといて。同棲はオッケーだって。』


「っ!分かりました。伝えと来ます。では、また。」


『はいは~い。またね〜。』


ブツッ…


電話が切れると俺はガッツポーズをした。


「お二方さん、許可取ったぜ!」


俺が二人にそう告げると、先程まで暗かった表情がぱぁっと明るくなる。その時だった。


『っ!?何を─ってうぁっ!?』


勇気の悲鳴が聞こえた。その瞬間、二人の表情が険しくなる。…というか殺気を感じるな…!


「よっし、行くか…」


俺が勇気の家の扉を開けた時だった。


「お兄ちゃん…心も体も、一つになろう…?」


「まっ、やめろ!俺達は兄妹だろ!?こんなこと─」


、だけどね。」


そんな言葉が聞こえる。俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、勇気と紅条さんの前に躍り出て言った。…その場に似合わない声で。


「はいは~い、邪魔するぜ。」


「はぁ…せっかくいいところだったのに…なんですか?」


紅条さんは明らかに不機嫌そうな声で呟いた。だったら俺がやる事は一つしかないじゃないか。


「あっれぇ〜?ごめんねぇ?お楽しみをする前に入ってきちゃってぇ。」


もう、煽るしか無いだろう(笑)

俺はガチで紅条さんを煽った。


* * *


「─それで、現在に至るって訳だ。オッケー?ドゥーユーアンダスタンド?」


俺が再び煽るように言うと、紅条さんは拳を握りしめていた。


「嘘をついてる可能性だってある!それが本当か分からない以上、電話して確かめる!」


紅条さんがそう叫ぶ。だから、俺は言った。


「そう思うならそれでいい。それがお前の限・界・だ!」


俺は右の人差し指で頭をトントンと叩きながらバカにしたように言った。


ソレに顔を真っ赤にさせると、電話をかける。それから数分後─


「う、そ…本当だった…」


紅条さんが表情を絶望の色に染めた所で紅条さん以外の3人に言う。


「はい!コレで同棲は大丈夫だな。俺は帰るぜ。」


そう言って、俺は早足で勇気の家を出る。後ろで何か言っていたが、俺には聞こえなかった。


…いや、聞こえないふりをしていた。


『裕斗!ありがとね。』


『裕斗君!ありがとうございました。』


『裕斗…今回もすまなかった!でも助かったありがとな。』


そう、そんな言葉なんて俺には聞こえなかった─



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