4話 図書室でのトラブル。


「ねぇ、勇気君〜、ここはどうすればいいの〜?」


「ここか?…ふむ。コレはまずaに置き換えてから計算するんだ。」


「ん〜、こう?」


「あぁ。なんだよ、やれば出来るんじゃないか。やっぱ、亜希菜はY( やれば )D(出来る)K(子)だな。」


「Y( ヤれば )D(出来る)K(子供)?」


「それだと意味が違うだろうが!てか、図書室だからもう少し静かにやるぞ。」

 

さて、何故俺達が図書室で勉強しているのかと言うと、それは俺がさっきの授業(自習)で隣の女子の藍彩に勉強を教えたことが原因だった。それで一度は修羅場になったものの、なんとか解決。これで終わりかと思ったんだが、教室から出たところで亜希菜に腕を掴まれ、光のない瞳で俺に、『那菜に勉強教えてたんだから、私にも教えてよ。』と言ってきたのだ。もし、断ったら、『那菜は良くて私はダメなの!?なんで?なんで?なんで?なんで?』とか言われそうなので、了承した。


「さて、次は─」


「勇気、ちょっといい?」


そう言って声をかけてきたのは、黒髪をツインテールにしている美少女…もとい、3組のクラス委員で幼馴染の、打越美春うちこしみはるだった。


「美春か、なんだ?」


「別に大した用事じゃないのだけど、ちょっと、今夜家に行くから。いいわよね?」


…は?今なんて言った?今夜?いやいやいやいや。…冗談だろ?


「いや、無理。というかこれのどこが大した用事じゃないんだよ!それに、いくら幼馴染だからって家に上げるわけには…」


てか、この会話、今亜希菜のいる前でするなよ…、絶対に面倒くさく─

 

「勇気君?どういうこと?」


(ほらー!めんどいことになった…)


「いや、亜希菜?俺今断ったよ!?」


「うんうん、知ってる知ってる。そこじゃなくて、幼馴染ってどういうこと?」


「幼馴染は、幼馴染だけど?何?私に文句ある?」


(おいおい、美春さんよ…食って掛かるな…)


とはいえまずいことになったな…今日は本当にトラブル続きだな…これはまずい…


「あなたには、聞いてないよ。私は勇気君に聞いてるの。」


「なんですって!」


「おい、美春落ち着け。そして亜希菜、さっきの質問だが美春の言った通り幼馴染は幼馴染だ。他になんの関係もない。」


俺がそう言うと亜希菜は何故か美春を睨んだ。


「あなた、私の勇気君を狙ってるでしょ?」


「(ギクッ)…なんのことかしら?というかあなたには関係ないでしょう?というか何よ『私の勇気君』って…」


美春の言動で分かった。そうか、俺らが付き合ってること知らないんだったっけ…


「あぁ、そうか。言ってなかったけど、俺と亜希菜は付き合ってるんだ。」


「………………え?」 


俺がそう言うと美春が硬直する。


(あ、あれ?俺なんかおかしなこと言ったか??)


「つ、つつつ、付き合ってる!?私初耳よ!?う、嘘よね?私をからかってるだけでしょう?」

 

美春はすごいキョドってて、俺は逆になんでキョドってるのか分からなかった。


「いや、ホントだけど…」


「っ!…勇気、今この瞬間決めたわ。」


「何を?」


「今夜絶対にあなたの家に行くわ。」


いや、決めるな!てか、待てよ…そういえば昨日…亜希菜は…

俺は亜希菜の方を見た。


「なぁに?勇気君。あっ、もしかして昨日の約束のこと?」


俺は頷く。


「うん、もちろん今日だよ。…ね?だからちゃんと言ってね?」


亜希菜に圧をかけられる。…これは同棲するしかないし、美春に言うしかなさそうだ。…ただ、少しだけ“嘘”を吐くが…


「いや、美春。俺と亜希菜、同棲んだよ。だから来られると…」


俺が困ったように言うと、


「…!?……し、知らないわよ。同棲してようがなんだろうがわ、私は行くわ。」


まずい…亜希菜、頼む!だから怒らな─


「じゃあ、来たらいいじゃないですか。」


「…は?亜希菜?何、言ってるんだ?」


俺は今普段の亜希菜から想像できないような言葉が聞こえた。


「ええ、行くわ。…準備があるから私は先に帰らせてもらうわ。」


そう言うと美春は去っていった。


「おい、どういう風の吹き回しだ?」


「え?」


「お前が家に来ていいなんて言うなんてさ…普段なら『絶対にダメ』って言うのにさ…」


「あぁ、それ?ただ、私達がイチャイチャしてるのを見せつけたいだけだよ。そしたらあの女は帰るでしょ?…まぁ、帰らなかった場合は…ふふっ。」


「…なるほど」


俺の考えは甘かった。もしかしたらヤンデレが治ったのかと思ったのだ。…現実は決して甘くなかった。

そう思いながらリュックに勉強道具をしまい、図書室を出た。




私は急いで自分の家に向かった。

まさか、彼に彼女が出来てるとは思わなかった。


「はぁ…こんなことならもっと早くに告白しとけばよかった…」


私は勇気の事が大好きだ。彼の好きなものはなんでも知ってるし、彼の趣味や癖、ほくろの数、誰と何回、何分話したのかも知ってる。彼の為なら命だって差し出せる。なのに─


「まぁ、いいわ。今夜、勇気は、になるんだから。ふふっ、絶対にあの女から取り返す。」


私はそう言って、家まで走っていった。

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