4章 早期退職

昔やっぱりひどい人間だった.

「お前、本当は馬鹿だろ」

「こんな学校来て失敗した」

 僕が中学時代、いや最近まで暴言を吐いていた。下手すると今後もどうなるかわからない。当時、何の映画かは分からないが結構暴言を吐く映画を見てその映画の主人公に憧れ真似をするようになってしまった。

「お前、ビッチ」

 とかも結構言っていた。今思うと自分の発言が恥ずかしい。僕はよく映画とかアニメに影響されやすい。ついこの間も小説講座に通っていたのだったが暴言ばかり吐いていた。これもアニメの主人公に影響されたのだった。

 でも、アニメとか映画とか小説を見なかったら僕は小説家を目指すことも無かったし、多分中学の時にいじめられたときに自死を選んでいたかも知れない。

 暴言を吐き続けていじめられ続けて転職し蒼風文社に入ったときのことである。OJTの園上さんと行動を共にしていていつも陰口を言っていた。

「あいつ、本当に試験受けて入ったの?」

 とかである。

「蒼ノ山さんって、いつも暴言吐いていますよね。ハハッ」

 園上さんがあきれて笑っている。

「そのくせ僕は何か失言をしていませんかとか言っていますよね」

 そうなのだ。僕は暴言を吐く癖に何か相手に取って失礼なことを言っていないか気にして病んでいた。相手に対して何か琴線に触れるようなことを言ってしまい激怒され嫌われないか。そのことばかり考えていた。


 人に嫌われたくない。

 人は残酷だ。

 嫌われたら地域の人間に村八分にされる。

 嫌われたら会社の人間に村八分にされる。

 嫌われたらぶっ殺されるかも知れない。

 嫌われたら社会的な死を迎えるかも知れない。

 嫌われたら・・・・・・

 嫌われたら・・・・・・

 人間が怖い。人間のあのほほえみは悪魔の笑みだ。

 人間が怖い。人間が怖い。人間が怖い。人間が怖い。


 僕の人から嫌われたくない、八方美人の性格は昔学生時代に先輩、同級生、後輩にゴキブリを見るような目で見られ、近づくことさえ嫌悪され、ましてや僕が触った物に触れるのはまるで生ゴミを触るかのような態度をされた。女子にはお前汚いから近づくなとか散々言われた。そしてトイレに呼び出され個室に閉じこめられたりもした。

 学校に僕の居場所はひとつも無かった。背中にある事件を起こした某教団の教祖の落書きを書いたプリントを背中に貼られながら家に帰った。帰るまで気がつかないことも多々あった。僕もうちの家族も某教団なんかに入っていないのに勝手にうわさを流され散々ののしられたりけなされたりしていじめられた。子どもは天使だと誰かが昔言ったのが頭のどこかに残っている。冗談じゃ無い。子どもにもいろいろいるよ。天使も悪魔もいる。天真爛漫な子もいればずるがしこい子もいる。ただ一ついえることは社会経験が少ないから人の痛みをまだ知らない、もしくは知った振りをしている子もいっぱいいた。僕がお年寄りを好きなのは、社会のいろいろな闇や光を見てきて優しいかどうかは分からないが少なくとも痛みは分かってくれるということだ。


 人から嫌われたくないという想いは人間への不信、恐怖から来るものだと思う。暴言を吐くくせに人間への恐怖を植え付けられた人間。いつ自分の発言が人の琴線に触れ人から生き死に関わるいじめを受けるかその恐怖にいつもおびえていた。もう精神薬は手放せなくなっていた。気持ちも落ちつくし、精神薬を飲まないと統合失調症が再発してしまうからだ。ある日の昼休み、昼ご飯を食べているとOJTの園上さんが話しかけてくる。

「君は失言を言う癖直したいの? 直したくないの?」

 そりゃ失言を言う癖を直したかった。切実な問題だった。失言を言わなければ自分自身の言った発言に対して布団の中でもだえ苦しむことはなくなる。毎日夜暗闇の中を震えおののくことはなくなるかもしれない。

「そりゃ直したいですよ」

「僕は君の言ったこと。失言を言ってしまう癖を直したいってことずっと考えていました」

 つばを飲み込む。なかなかのどの中に入ってくれない。

「失言を言ってしまうのはもう人間だからしょうがないと思います。でもね」

「ようは悪口や陰口が失言だと僕は考えます。悪口や陰口を言わなければもっと楽に生きられますよ」

「悪口や陰口」

「よく考えてみてください。悪口や陰口を言われた人間が良い気持ちすると思いますか? しませんよね。君もいじめられていたのなら分かるはずだよ」

 確かに僕も陰口や悪口を散々言われて苦しんできた。いじめられたことはトラウマに残っていて今も苦しい。

「確かに悪口や陰口を言われたら苦しくなっちゃいます」

「そうですよね」

「悪口や陰口を言われたら同じように反撃しちゃう人もいると思いますよ」

「それにね、君嫌われることを恐れているでしょ」

「人間の心は好きも嫌いも水のように変化するから制御しようとしてもできないんだよ」

「水の心?」

「そう人間は水のような心。だからそんなもんに囚われているのではなくて自分の人生を生きたらいいと思うよ」

「はい」


 学生時代いじめられていたが僕もいろいろと悪かったと思う。暴言とかいったり転勤族の子どもでいろいろと地方の学校に転校したりしたがその地域のことを馬鹿にしたり、そりゃ馬鹿にされた人間は怒るよなって今は思う。僕も悪かったし、いじめをした人間も悪かった。お互い様だって思える。当時のことを思い出して恥ずかしさに顔が真っ赤になる。当時は自分に酔っていたんだなあって思う。


 それに思う。人間の心は特に他人の心は水のように制御できないことを。それからは水のように制御できない心を知り、他人に好かれようとすることを辞めた。他人のこころは分からない。それでいいと思った。なおかつ悪口や陰口を言わないようにそれだけは気をつけて生きるようになった。これは失敗して気づいた。


 僕は失敗しないと分からない人間だ。何かを行動するたびに面白いようになにかずっこけて失敗してしまう。毎日会社に行き仕事をしていると恥ずかしい過去がどんどん製造されていく。顔が真っ赤になり布団の中でもだえ苦しむ話。失敗談。それはまた今度の話。

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