嫌なことをされたらきちんと嫌という
会社でもどこでも人に嫌われたくなくてあまり自己主張が出来ないでいた。会社で嫌みを言われても何でそういうことを言うんですかと反論できずに黙ってしまっていた。
「いつもにこにこして気持ち悪い」
ある女性社員が僕に聞こえるように言う。そのとき、頭がカーッと急激に熱くなった。心の中で反論する。
(だってしょうがないじゃないか。精神障がい者は常ににこにこしていなければいけないんだから。相手の機嫌をとっていなければいけないんだから。精神障がい者は社会の底辺なんだから相手の機嫌を取り部屋の隅っこで生きていかなければいけないんだから。) またあるときその女性社員が男性社員と話していて、
「うちの近所に変な人がいるんですよ。うちにも子どもがいるから少し怖くて」
「はははっ」
「だからどうだってことはないんですけれど」
その時にも心にずきずきと痛みが走る。僕は自分自身の事を変人だと思っている。会社で疲れ切るまで仕事をして帰ってくると、しょっちゅう対人恐怖症になる。また発達障害の神経過敏が出る。発達障害の神経過敏というのは、目に映る全てのもの、耳で聞こえる全てのもの、鼻で感じる全てのもの、手で触れる全てのもの、舌で感じる全てのものに対して神経が過敏になってしまい、ありとあらゆる情報を受け取ってしまうことである。情報を受け取りすぎてしまい疲れ切って目に映る人に対して気になってしまいおびえてしまい、その結果また疲れてしまいの繰り返しで憔悴しきってしまうのである。
だからこの
「うちの近所に変な人がいるんですよ。うちにも子どもがいるから少し怖くて」
僕はやっぱり変人なんだ
僕はやっぱり変質者なんだ
周りからもそう見えるんだ
僕は 僕は 僕は
そんな時でも顔は平気な振りで、いつもにこにこしていた。その時、心にある言葉が響きわたる。
「いつもにこにこして気持ち悪い」
ある日、いつも持病の統合失調症の治療のために通っている精神科の染木先生にもこんなことを言われた。
「君はそんなにしてまでみんなに好かれたいのかい」
この言葉はこころの根っこにぐさりとささった。
その日の夜寝られないのでずっと考えていた。
そういや人の顔色ばかり伺うようになったのっていつからだっけ。
「お前、気持ち悪い。近寄るな」
「蒼ノ山菌が移るから本当に近寄らないで」
中学の時に言われた言葉である。美術の先生は若い女の先生だったがこの先生にも散々悪口を言われたし、成績も常に5段階中の2だった。学校の課題で絵を描いたのだが描いた絵が周りの知り合い(同級生だったが友達でも何でもなかった。ただの知り合いだった)に
「絵うまいね!」
その時に先生の一言が、
「どうせただの誰かの真似だろ。こいつはそういう奴だよ」
その時にもやっぱり成績は5段階中の2だった。
昔、美術の成績が5段階中の2だった生徒は今、芸術家だよ。その先生に対して、学校の成績というのはやっぱりその担任の先生の主観が入ってしまうのであてにはなりませんね。
昔の事を思い出し、吐き気をもよおす。急いでトイレに駆け込み、胃の中のものを吐き出した。
次の診察日にまた先生と会う。
「昔、中学時代に先生や同級生にいじめられ、その時から感情がおかしくなりました」
「そうか」
「やっぱり病気になったのも昔いじめられたことが原因かもってあります」
「その可能性はあるね」
その日の診察が終わり「ありがとうございます」と言って出て行こうとした。その時に先生はふっとこんなことを言った。
「他人はそんなに人のことを見ていないんだよ。自分のことだけで精一杯なんだよ。だからきみは自分だけは自分を傷つけないで自分を守ってあげて。認めてあげて。信じてあげて。この言葉を忘れないで」
帰ってから松下幸之助の社員心得帳を開く。そこには自分自身が一事業主という立場で物事を考えなさいと描かれていた。その言葉をずっと考える。そしてたどり着いた答えが自分自身は一事業主で、一人間で、かけがえのない人間なんだ。だれもこの人間を否定することはできないんだ。
次の日会社にて、僕のことを変な人って言った人の前に行き、
「変な人って僕のことですか?」
と聞いた。女性はうつむいている。
「僕だって好きこのんで変な人になりたいわけじゃないんです。障がい者にだってなりたくってなったわけじゃないんです」
すると女性はうつむきながら、
「少し疲れていらいらしていました。すみません」
と謝ってくれた。
次の診察日のとき、先生にこのことを話す。
「そうだよ。自分を褒めてあげて。自分をかけがえのない一人の人間だって認めてあげること。そうすればきみの苦しんでいる病も楽になるよ」
「なおりますか」
「きみが一生懸命に病を治そうとするのならぼくも全力できみの病を治してみせるよ。一緒にがんばろうね」
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