遅刻、欠勤が多いよ

「今日具合が悪いので休みます」

「はい。分かりました」

 朝起きたら頭の中がねばっこい粘液、薄い粘膜で覆われているようなそんな感じがした。身体も重く起き上がれなかったのだった。冷蔵庫から冷やしてあるペットボトルに入った水を取り出してコップに注ぎ飲み干してみたが効果は無かった。そこで8時30分まで待ち会社に電話したのだった。電話をし終え安心してそのまま毛布にくるまり眠りにつく。


 ここは学校だろうか? 学習机に座っているタヌキの子がいる。周りにはいろいろな動物たちがこれまた学習机に座っている。教壇では長い白いひげの生えたヤギが二本足で立ちおしりをふりふりと振り踊っている。そして、踊りながら歌う。


 唄っているヤギの先生の身体がどんどんと溶けていく。周りを見渡すと空は真っ黒く赤い血がしたたり落ちていた。その間にもヤギの先生は皮膚が溶け出し、骨があらわになっていく。


 バア!


タヌキの子は眠たくて仕方がない。しかし逃げなくてはいけない。走りながら眠っていた。ヤギの先生が追いかけてくる。必死で逃げる。そして、ヤギの先生は口を大きく開けるとタヌキの子に食いついた。

「あはは! 捕まえた」

 タヌキの子は叫ぶ。ヤギも叫ぶ。お前は遅刻、欠勤が多い。お前みたいな不良は見せしめに食ってやるぞ。

「あはは! あはは! あはは! あはは! あはは! あはは!」


 そこでがばっと目を開ける。夢だったんだ。次の日会社に行き、上司の下に行く。

「昨日はお休みしてしまい申し訳ありませんでした」

「君、ちゃんと夜寝てる?」

「寝ています」

「じゃあどうして会社に来られないの?」

「多分睡眠導入剤が残ってしまっているんです」

 

「遅刻癖が多いと辞めさせられるし、どこも雇ってくれなくなるよ」

「すみません」

「すみませんじゃないよ。君一体どのくらい休んでいるんだよ。一週間に一回休んでいるんだよ。君の信用は地に墜ちているんだよ。どうしてくれるんだ」

「以後気をつけます」

「いいかね。ここからは真面目に生きなさい。きちんと遅刻欠勤しないで会社に来て仕事をして信用を取り戻しなさい」

「はい」

「分かったね。今の君の立ち位置は崖にいるんだよ。半分落ちかかっている。そのことを自覚して業務に臨みなさい」

「わかりました」

「もういい。仕事して!」


 そうなのだ。僕には遅刻、欠勤癖がある。どうして遅刻、欠勤するのかというと、だいたいが体調不良である。睡眠導入剤が効かなく夜寝られなく朝まで起きてしまったことが大半である。または小説を夜中まで描いていたり、テレビゲームをしていたりもある。特に小説を描いていて佳境まで来て主人公を追い詰めると作者本人まで疲れ切ってしまうのである。さらには小説のここの場面どうしようとか、ここの部分はカットしようとか、いろいろと考え過ぎてしまって、布団の中に入っても逆に目が冴えてしまうのである。


 遅刻や欠勤をするとOJTの園上さんは僕のことを無視する。周りから仕事も来なくなる。

「園上さん、少しいいですか?」

 隣の席に座っている園上さんは目の前にあるパソコンをじっと凝視している。答えてくれない。聞こえないのかと思ってもう一回、

「園上さん!」

 園上さんは顔を歪ませて右耳を指でほじる。

「今、忙しいんですから話しかけないでください」

 冷たく言い放たれる。

「はい、分かりました」

 園上さんに冷たくされていろいろと考え込んでしまう。園上さんに嫌われたのかなとか、もしかしたらここの職場みんなが僕の悪口を言っているのではないかとか、どんどん考えがネガティブ思考に陥ってくる。

 しばらく定例業務の仕事が終わった後、ずっと椅子に座っていた。相変わらず仕事が来ない。他のみんなは忙しそうである。僕だけが暇だ。

 ご飯時になり、昼食を食べに食堂に行く。ご飯を受け取りいつもの椅子に座る。園上さんがいつもは来るのに今日は来ない。仕方が無いからはしを手に取り醤油ラーメンをすする。暖かい湯気が目に染みる。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる。悔しくて、悔しくて自分がどうしようもなくかっこわるくて、辛くて、情けなくて。様々な感情がうずまいている。どんどん涙がこぼれ落ちてくる。顔を伏せてラーメンをすする。その日、結局園上さんは食堂にやってこなかった。

 昼食が終わって仕事が始まっても誰からも仕事が来なかった。仕方がないので机の片付けをしたり、書類をシュレッダーにかけたりした。

 17時になる。

「お疲れ様でした」

 机の上を片付け帰ろうとする。

「ちょっと待って!」

 OJTの園上さんである。思わず、

「はい」

 園上さんがこちらに身体を向ける。そしてしっかりと僕の目を見る。

「君、遅刻や欠勤したらこうなるんだよ。みんなから信頼を失い、仕事を失うんだよ。もう懲りただろ」

「はい」

 その時、涙がどんどん溢れてきた。

「嫌われたのかと思いました」

「だったら余計に遅刻や欠勤するなよ」

「わかりました」

「もう帰っていいよ。明日からきちんと来るんだよ」

「はい」

 その日は泣きながら帰った。けれども遅刻癖、欠勤癖は治らなかった。遅刻、欠勤しても仕事をくれた上司や先輩方に感謝の言葉しかない。


そして後悔ばかりが残った。

これは僕の黒歴史である。

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