うそつき! 人格破綻者!

カブトエビとカブトガニの話


「どこにいるんだ。カブトガニ。見せてみろよ!」

 小学校4年のころ、大阪から神奈川県に引っ越した。そして小学校の授業でカブトガニの話が出たのだった。

「このカブトガニ見たことがある!」

 先生は顔をにやにやさせている。

「どこで見たことあるんだ」

「うちに居るよ」

 実はカブトガニとカブトエビを間違えて認識してしまっていたのだった。実は大阪から神奈川県に引っ越してくるときに友達が田んぼで青いバケツにカブトエビをたくさん取ったのを分けてくれたのだ。

 先生がとがめるように言う。

「うそは止めなさい。カブトガニはなかなかみられないんだ」

「うそじゃない。うちにたくさん居るよ」

 それから先生と口論になる。最後には、

「このうそつき野郎!」

 とののしられた。


 帰ってから母親に青いバケツに入ったあのカブトエビのことを聞く。母親は、

「なにそれ、知らないわよ」

 知らないってどういうこと。このまま行くと僕は本当に嘘つきになってしまう。

「ほら、あの青いバケツに入った・・・・・・」

 母親は金切り声を挙げる。

「しつこい。知らないものは知らないって言ってんでしょうが!」

 こうなると、母親にはもう太刀打ちできない。母親と話し合おうとするといつも金切り声を挙げる。この頃には人格形成にも影響が出て人とあまり話し合わなくなった。話し合っても無駄だと分かったからである。


 自室にこもっていると、インターフォンが鳴った。

「蒼ノ山くん、いますか?」

「はい、今出ます」


 ドアを開けると、そこにはクラスメートが何人も立っていた。みんな顔をにやにやさせている。

「蒼ノ山くん、カブトガニ飼っているんだよね。見せて!」

「いや、今はいないよ」

「どうして? 蒼ノ山くん、カブトガニ飼っているっていったよね?」

「いないんだ」

 すると、クラスメートが一斉に嘘つきコールを始めた。

「うっそつき、うっそつき、うっそつき」

「うっそつき、うっそつき、うっそつき」

 たまらなくなってドアを閉めた。それでも嘘つきコールは止まらない。この時ばかりは全てが敵に見えた。今だったら言える。あのとき飼っていたと主張していたカブトガニは実はカブトエビのことだったのである。


これも黒歴史である。




 

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