疲れて調子が悪くなった

仕事が忙しくなって、疲れてしまい会社のみんなから嫌われている、そしてSNSで悪口を言われているのではないかと疑心暗鬼になってしまった。自分はもともと統合失調症を患っているのでこれは妄想とよばれる病気か、それとも現実かはわからなかった。ちなみに妄想と呼ばれる症状というのはありもしない事をさも現実に起こったような考えにとらわれてしまうといった病である。そして今回の僕のその会社のみんなから嫌われている、SNSで悪口を言われていると言った妄想に対してその妄想に対して根拠は何? と言われたら根拠がまるでなかった。自分でも幻かな、と少し思っていた。

 いつもの通りに心療内科で先生にぐちをこぼす。

「先生、話聞いてくれます?」

「ああ、聞く、聞く」

「会社で仕事をしていて疲れてしまって妄想が出ました」

 先生は目をまん丸くして驚く。

「どんな妄想?」

「今会社で働いているじゃないですか? その働いている会社でふっと会社のみんなから嫌われているんじゃないか、そしてSNSに悪口を書かれているんじゃないかって思っています」

 先生は診察カルテに何かを書いていく。

「何かトリガーとなる出来事はあったの?」

「ないです」

「ふーん」

「薬は増量してもらえるのでしょうか?」

 先生はこちらを向くと話し始めた。

「君がさっき言っていた会社のみんなに嫌われていたって言っていたけどみんなって誰?」

「みんなって?」

「そうみんな」

 考える。確かにみんなに嫌われているって言ったけど具体的に誰に嫌われているのかっていうと分からなかった。

「分からないです」

「そうだよね。みんなって分からない言葉だよね。そもそもみんなっていう言葉自体があやふやなんだよ。そもそもみんなから嫌われることもないし。みんなから好かれることもない。あなたのことを好きな人もいれば嫌いな人もいる。それでいいんじゃないかな」

「みんなから好かれることもないし、嫌われることもない。そもそもみんなの定義があやふや」

「そうそう。分かっているじゃない。薬はもうちょっと様子を見ましょう。来週また来てください」

「先生ありがとうございました」


 会社で校正の仕事をしていると疲れ切ってしまい自分を認めて欲しいって想いがすごく出てしまう。会社で園上さんが話しかけてくる。

「仕事進んでいる?」

「進んでいます」

「よかった」

 とここで余計な一言を言ってしまう。

「園上さん、園上さんって心理学詳しいですよね。心理学、学んでいたんですか?」

 

「それはけなしているの? 褒めているの?」

「褒めているんです」

「ならいいけど。ちゃんと仕事もしてね」

 実は褒めてもけなしてもいなかった。疲れてしまっていて口から自動的に思ってもいない言葉が、ぽーん、と飛び出したのだった。強いて言うなれば自分も頭いいことを認めて欲しいって言う自己顕示欲が出てしまったのだった。こういう言葉を言ってしまった後は自己嫌悪に陥ってしまうのだった。


 帰りの電車の中では対人恐怖症とか発達障害の症状で視覚が冴えきってしまって人の視線が怖くなってしまっていた。対人恐怖症というのは歩いている人とか電車に乗っている人まで怖くなってしまう症状である。発達障害の視覚神経が過敏なのは元気なときはそんなに気にならないのだが疲れてくると余計に人の視線を気にしてしまうのである。憔悴しきってしまい、ホームから線路に落ちそうになったことも一度や二度でない。何回もある。


 その間にも校正の仕事を行う。一枚また一枚と提出しては抜けがあり叱られる。そして園上さんと一緒にどうすれば抜けがなくなるか一緒に考える。


 あるとき、星上さんが隣にやってくる。

「大丈夫ですか」

 と問いかけてくれる。かがんでいる女性の服の間から下着が見える。疲れて身体にどろどろとした液体が体中をながれているように感じる。それに加え、女性に話しかけられ下腹部がほてってしかたがない。しゃべりたいけどしゃべれない。拒否されたら怖い。

「大丈夫です」

「無理しないでくださいね」

 その時感情が一気に爆発したように感じた。マグマのような熱いねばっこい感情。星上さんと話すといつもこうだ。感情がおかしくなる。


 僕は変な人だ

 僕は変な人だ

 僕は変な人だ


「ちょっとお茶買ってきます」

 一階のジュース売り場に行く。お茶を買う。その時、一人の社員も飲み物を買いに来た。変に見られたくない。自分は精神障がいを抱えていて見た目も化け物だが、化け物みたいに見られるのがいやだ。道を歩いていて避けられる感じがする。自分は人間なんだ。人間なんだ。人間なんだ。人間? こんな姿を星上さんに見せたくはない。うえーん、と涙が出てくる。思わず走って階段を上りトイレの個室に駆け込む。トイレの壁にもたれてさっき買ったお茶を飲む。自分には恋愛は無理だ。自分一人生きるのでも精一杯だから。座り込んで泣く。僕は化け物だ。精神障がいという十字架を背負っているんだ。


恋愛は無理だ。

化け物だから

精神障害という十字架を背負っているんだ


トイレでうずくまっていつまでも泣いていた。

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