よき先生もいれば悪い先生もいる
中学校2、3年の時の先生は性格が生理的に受け付けなかったが、それなりに良い先生とも巡り会っている。
まず小学校時代の塾の先生。名前はもう忘れてしまったが、この塾の先生のおかげで国語が実は得意なことに気づいた。ある日のことである。塾の実力テストの返却日での出来事。
「蒼ノ山君、今回も成績ひどいねえ。偏差値40ちょいだよ」
「はあ」
「もっと頑張りなよ」
「分かりました」
先生はワイシャツの袖をまくり小麦色の肌を出す。
「しかしだね。発見もあったよ」
キラキラした目で見つめてくる。この先生は心に刺さることでも遠慮無くずばずばと言ってくる。逆にだから信頼している。
「何です?」
「君、国語に光るものを感じるよ。ほら国語の成績みてごらん。応用問題が結構解けているんだ。中学受験はあきらめなさい。高校受験に望みを託してごらん。今から国語をしっかりと勉強しておけば必ず物になるよ」
そうなのだ。中学受験は偏差値45くらいのところを2つ受けて全滅したのだった。それでも先生はあきらめなかった。高校入試に託せと言っているのである。
「授業はやるけど、国語の時間はここにある国語の本全部読んでいいから読みなさい。絶対に伸びるよ。君は」
それから国語の時間は塾の教室においてある国語の本を片端から読みまくった。塾を卒業する頃には昔の小説にまで手をつけていた。先生の目は正しかった。それから国語が大好きになり、得意教科となり、しまいには文系の大学の文学部に入学した。そして今では小説家を目指している。
中学時代にも実は恩師がいた。塾の先生のS先生である。坊主頭でよく眼鏡をかけた怒りやすい先生だった。少し変わった先生だったので名物だった。いつもの通り中学校でいじめられてそれから塾に行っていたのだが、毎回精神がすり切れてしまっていて疲れ切ってしまっていた。それで毎度眠り込んでしまっていた。
ある日、授業中寝ていると先生に小突き起こされた。そしてみんなの前で怒鳴られた。
「お前、いつも寝ているだろ。寝るなよ。親御さん授業料いくら出してくれていると思っているんだ」
「分かりません」
すると、机の上に広げていた教科書を床に落とされた。
「やる気ないなら帰れ! いいから帰れ!」
「帰ります!」
「そうか! じゃあ帰れ!」
両目から涙がこぼれ落ちてくる。教科書と筆記用具を全部カバンの中にしまうと、どたんどたん、と大きな足音を鳴らし教室を出た。そして泣きながら家に帰った。家に帰るとちょうど母親が先生と電話していた。僕はかばんを背負ったまま泣き続ける。母親が泣きながら電話で話している。そして、
「S先生から電話」
「出ない」
母親は受話器を押し当ててくる。
「出なさい!」
あまりの剣幕に受話器をとり電話に出る。S先生の声がした。
「あのな、お前中学校でいじめられているだろ。このままじゃ人生闇の中に落ちてしまうぞ」
泣きながら
「はい」
「今のまま塾に来て寝ていたら高校もいけないぞ!」
「はい」
「家で勉強するのが嫌だったら塾の自習室を使いなさい。お前がこのまま闇に落ちていくのを見たくはないんだよ。分かったね。学校が終わったら塾に来て勉強しなさい」
S先生は自分のことを未来のことまで真剣に心配してくれて高校が受かるまで面倒を見てくれた。そして見事志望校に合格したのだった。
高校の先生も人情味あふれるいい先生ばかりだった。高校1年の時のH先生、2年の時のY先生。3年生の時のK先生。みんないい先生方だった。H先生は少し変わり者だが、生徒の事を思い突っ走る熱血漢であった。暑苦しい先生だった。僕は、やはり高校でも浮いていた。ホームルームで受けた連絡を何回も先生に確かめに行った。先生は、
「お前、先生、なめてんの!」
「いえ」
「しっかりと先生の話を聞いておきなさい」
案の定、三者面談でもそのことが話題になった。
「蒼ノ山君、いつも同じ事を聞いてきて時々なめてんのかってなります」
母親は、ある本を取り出しそして先生に見せる。先生は本に目を落とす。
「この本は?」
「発達障害の本です」
「ちょっと見せてくださいね」
先生はぺらぺらと本をめくる。母親が言う。
「この子は、同じ事を何回注意しても聞かない。空気が読めない。失言をいう。何かがおかしいと思い、この本にたどり着きました。この子は発達障害なのではないかと疑っています」
先生は本を一生懸命に読んでいる。
「蒼ノ山、確かにお前空気読めないし、衝動的に言葉を出すよな。しかも耳からの情報に弱いよな」
「はい」
先生は本を僕の母親に返すと、腕を組んで天井を仰いだ。
「確かに能力も凸凹している。この子は国語しかできない」
僕はうつむいていた。先生は組んでいた手をほどくと、
「ちょっと、何人かの先生同士で話し合ってみます」
母親は頭を下げる。
「お願いします」
次の日から先生はとても優しくなった。高校2年のときに統合失調症になって精神病院に入院したときのこと、この先生から電話があった。
「とりあえず、希望者を募ってお見舞いにいきたい。行くっていう生徒何人もいるんで」
その言葉を聞いて母親は仰天した。そしてとりあえず科が科ですからと丁重に断った。それからも高校の親友が毎日ノートを取ってくれて家に送ってくれていたらしい。
高校3年へはそれまでに取っていた成績で上がれた。それでも1年、2年の時の先生方は本当によくしてくださった。そしてK先生は自分が精神病だと分かった上で担任を引き受けてくださった。ある日、例のH先生とすれ違った。
「おお、蒼ノ山、元気か?」
「まあまあです」
「無理すんなよ」
「はい」
先生の目はうるんでいた。障がいについて何も言葉は無かったが泣いてくれた、それだけでよかった。当然、精神病を患っているので高校で問題児になる。周りからも不気味がられたりもしたが、それでも一緒に帰ってくれる仲間はいた。K高校には恩しか感じていない。本当に素晴らしい高校だった。
ちなみにH先生はある大学の文学部出身だ。僕もH先生とは違う大学だが3年間浪人して文学部に進んだ。
大学時代は本当に楽しかった。友達がいなかったが、授業も楽しかったしレポート作成も楽しかった。夏休みぶっ倒れるまで本を読むこともした。その物語はまた今度。
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